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イプシロン打ち上げ成功 惑星観測衛星を予定軌道に投入

9月15日付朝刊1ページ 1総合

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打ち上げられたイプシロン=14日午後2時、鹿児島県肝付町、池田良撮影

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は14日午後2時、新型の固体燃料ロケット「イプシロン」を鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げた。約1時間後、搭載した惑星観測衛星「スプリントA」を分離して予定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。

 全長約24メートル、重さ約90トンのイプシロンは12年ぶりに開発された国産の新型ロケット。組み立て工程の簡素化やロケットの人工知能による自動点検などでコスト削減を図った。打ち上げ費用は38億円で、日本の基幹ロケット「H2A」の3分の1程度にまで圧縮した。

 当初は8月22日の打ち上げ予定だったが、地上の配線にミスが見つかり延期に。8月27日には発射19秒前に姿勢異常をシステムが誤検知し、打ち上げが中止された。14日も午後1時45分の打ち上げ予定時間直前に海上の警戒区域に船が近づき、15分遅れた。イプシロンは打ち上げ後、南米上空で衛星を軌道に投入。衛星は打ち上げ約2時間後に日本上空を通過。JAXAは、太陽電池パネルが開いていることや姿勢に問題がないことを確認した。地元・肝付町の「火崎(ひさき)」という岬と、観測対象の惑星が「太陽(ひ)の先」であることにちなみ、衛星の愛称を「ひさき」と名付けた。

 (東山正宜)



イプシロン、地平の先に 経費減、新技術フル活用 打ち上げ成功

9月15日付朝刊4ページ 4総合

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会見後、イプシロンの模型を抱えて笑顔を見せる森田泰弘プロジェクトマネジャー=14日午後、鹿児島県肝付町、池田良撮影

新型ロケット「イプシロン」と他のロケットの比較

内之浦宇宙空間観測所

 新型のイプシロンロケットの打ち上げが成功した。低コスト化を実現するため、大幅な自動化などを導入して新たな技術の地平を開く。一方、開発の背景には、有事の際に必要な衛星を随時打ち上げられるようにする、安全保障上の意味もある。

 今度こそ上がれ――。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の関係者や見学客らが見守る中、イプシロンは薄曇りの内之浦宇宙空間観測所を飛び立った。

 南米上空で宇宙望遠鏡スプリントAの切り離しに成功したことがわかり、管制室は拍手にわいた。JAXAの奥村直樹理事長は記者会見で「困難があっただけに、言葉に表せないほど感動した」と笑顔を見せた。

 トラブルのため、打ち上げは8月22日、27日と相次いで延期された。27日の中止は、ロケットと地上管制設備との間の、0・07秒の信号遅延が原因。まばたきほどの一瞬でも、コンピューターには決定的だった。

 森田泰弘・JAXAプロジェクトマネジャーは一連のトラブルについて、「新しいことを成し遂げるための生みの苦しみを味わった」と振り返った。

 大幅なコスト削減をめざし、イプシロンには意欲的な技術がたくさん盛り込まれた。その代表が、人手がかかる点検はコンピューターにやらせ、管制もパソコン2台でやる「モバイル管制」。この日、管制室で打ち上げを管理したのは8人。人件費を削減した。

 国内企業のIHIエアロスペースなどによる製造の工程でも、衛星を覆うフェアリングなどを一体成形することで部品の点数を減らし、組み立ての手間を省いた。打ち上げ費用は先代の固体ロケットM(ミュー)5の約半分の38億円に抑えられた。

 ■市場開拓 新興国へ照準

 イプシロンが狙うのは、需要増が予想される小型衛星の打ち上げ市場だ。自前の打ち上げ能力を持たない新興国からの受注をめざす。奥村理事長は会見で「より小型で安価な衛星を、高頻度に打ち上げる市場に、イプシロンを適応させていく」と語った。

 ライバルとなる海外のロケットは欧州の「ベガ」、ロシアと欧州が協力する「ロコット」など。大陸間弾道ミサイル(ICBM)を転用したロコットは、打ち上げ費用が20億円以下との見方もある。JAXAの分析では、打ち上げ能力とコストの比で比較すると、イプシロンはこれらのロケットと同水準というが、予断は許さない。

 森田さんは「数年以内には30億円以下にし、打ち上げ頻度も年に2回程度に増やす。イプシロンの打ち上げのやり方を世界標準にしたい」と語る。

 ■使命 安保に「自律性」

 国が200億円以上かけてイプシロンを開発したのは、安全保障上の理由から、自前の固体燃料ロケットの技術を維持するためでもある。

 固体燃料は扱いが容易で、素早く発射できるのが特徴。有事の際に情報を収集する衛星などをすぐ打ち上げられる。イプシロンは今夏、H2Aと並んで国の「基幹ロケット」に指定された。必要な衛星を随時、宇宙に送ることで、わが国の安全保障上の「自律性」を支える使命が新たに課された。

 固体ロケットは、ICBMと共通の技術が使われ、積み荷を換えればミサイルに早変わりすることから、「潜在的な抑止力」とされる。日本は69年の国会決議に基づき、宇宙開発を平和目的に限るとしてきたが、08年に防衛利用を解禁した宇宙基本法が成立。今回は新法のもとで初の固体ロケットの打ち上げとなる。

 韓国の東亜日報は8月、「イプシロンは短時間に発射できてICBMに使われる。日本の右傾化も発射の背景に対する憂慮を増幅させている」と報じた。

 山本一太・宇宙政策担当相は13日の会見で、開発の理由について「宇宙基本法で打ち出した自律性の確保や宇宙利用の拡大だ。どうやって宇宙産業の競争力強化に結びつけるかを考えることに尽きる」と語り、ミサイルとは無関係であることを訴えた。

 宇宙政策に詳しい鈴木一人・北海道大学教授は「固体ロケットの抑止力は、軍事利用する政治の意図が伴わなければ、潜在的なままだが、その意図が変わりつつあると諸外国に認識されている」と指摘する。

 (波多野陽)

 ◆キーワード

 <イプシロンロケット> 2006年に運用を終えた「M(ミュー)5」の後継機として開発された固体燃料ロケット。高度数百キロの地球周回低軌道に1.2トンを運ぶことができる。惑星探査や宇宙観測など科学衛星のほか、将来的には国内外の小型衛星打ち上げへの活用も目指している。イプシロンはギリシャ文字の「E」で、「革新」「開拓」「教育」などの意味が込められている。

 ■世界のおもな小型ロケット
 イプシロン    日本 1/1 100% 1.2トン
 M5(運用終了) 日本 6/7  86% 1.8トン
 ミノタウロス4  米国 3/3 100% 1.7トン
 トーラス     米国 6/9  67% 1.5トン
 ベガ       欧州 1/1 100% 2.3トン
 ロコット     ロシア・欧州 15/17  88% 2.0トン
 (イプシロン以外は2012年11月30日時点のデータ)

 ★その他の参考記事

 イプシロン打ち上げ、天にも昇る心地 2万人、見学場で秒読み
 http://www.asahi.com/shimen/articles/SEB201309140097.html


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