パネルディスカッション要旨

ガイドブックを手に意見を交わすコーディネーター、パネリストのみなさん

 パネルディスカッション要旨は次の通り。

 岸尾 こちらは新しい6年生の国語教科書(三省堂)の一部です。「パネルディスカッションとは、一つのテーマについて、立場や考え方の異なる人々が、意見をかわし、聞いている人々も質問や意見を出し合い、参加者全員で考えを深めていく話し合いです」。本日はこの新しい教科書にしたがって進めます。質問・意見は一人3分以内、要点を踏まえて簡潔にお願いします。まず、菊池先生の研究授業、報告をご覧になった感想や質問から。

 久保田 小学生に比較読みは高度なのではないかという印象を持っていましたが、視覚的な指導の工夫に加え、キーワードに着目させる、違いを一緒に探す、といった基本を押さえると、小学生も二つの文章の違いを感じ取れると思いました。小学校は「書き手によって違いがある」ことを理解する段階で、中学校では「内容の違いとともに書き手の意図を読み取る」ことが求められます。同じ教材を使って中学校でも授業できるのではないかと思いました。

コーディネーターを務めた聖心女子学院初等科教諭・岸尾祐二さん パネリストの川崎市立川崎中学校教諭・久保田聡子さん パネリストの光村図書出版第一編集部長兼小学校国語課長・飯田順子さん 研究授業報告者でパネリストのさいたま市立東宮下小学校教諭・菊池健一さん 討論に加わった一色清・朝日新聞編集委員

 飯田 先生は授業でよく新聞を活用されるそうですが、映像に登場した子どもたちはこの単元以外にも新聞を使った授業を受けたことがあったのでしょうか。また、この授業の前段階として新聞を丸ごと使った授業をされたそうですが、その際の子どもたちの反応を教えてください。

 一色 新聞社では、整理記者が見出しをつけています。授業で強調されていた「重要なことは前文に書いてある」「キーワードに注目する」など、新人のころに教わったことと全く同じでした。

 菊池 この授業の1週間ほど前、新聞社の方に来ていただいて好きな写真を見つける、さいたま市のことが載っている面を探す、など新聞に親しむ体験をしました。その授業で記事には見出しがあり、前文、本文と詳しくなっていくことや、重要なことから書く「逆三角形」の構造についても説明しました。4年生には「新聞記者になろう」という単元があり、小学生新聞を使って新聞の特徴をつかんで「先生のひみつ新聞」をつくりましたが、本格的に一般紙に触れた授業はこのときが初めてでした。

 岸尾 (NIE先進地の)欧米では、新聞をまるごと使い、記事を選択する力をつけることが中心課題になっている。教科書で読み方を学んだら、次は新聞そのものから記事を選ぶ段階へ、子どもたちの視野を広げてあげたいですね。フロアからご意見、質問がありましたらどうぞ。

 フロアA 高校で情報を教えています。教科書に載っている記事には、新聞名や日付は掲載されているのでしょうか。授業では「情報源を明確にすべきだ」と教えていますが、教科書では特定の商品名や宣伝につながらない注意も必要になる。一方で記事には著作権があり、教える方も悩ましい。

 飯田 教科書に新聞名は載っていませんが、先生の判断で出典を教えられるよう、どの新聞のいつの記事か、指導書に明記しています。

 フロアB 子どもたちにニュースを伝えることは、社会とかかわること・つながることを教えることだと感じています。新聞が教科書に登場するのは朗報だと思う一方、日ごろ新聞に触れていない先生の場合、教科書に載っている新聞だけで完結してしまうおそれもある。指導書ではどのように発信されていますか。

 飯田 教科書をつくる時点で最新の記事を選んでも、子どもたちの手元に届くころには過去のニュース。新聞の読み方、特徴を教科書で教え、読み比べの授業では生の新聞を使ってほしい。指導書にもそのように書いています。また、単元タイトルに「新聞」とついていなくても、「実際に新聞を見てみよう」「記事から探してみよう」など、いろんな個所で新聞に触れられるよう示唆しています。

 菊池 教科書で学んだ「後」も大事だと思います。教科書をきっかけに新聞を読み始めた子どもたちが「新聞は使える」と日常の中で感じられるようにする。それが難しく、また課題でもある。

 フロアC 中学校で国語を教えています。使いたい記事が載っている時と、年間計画に授業を組み込んだ時期が一致するとは限りません。実際の新聞を使う際、その兼ね合いの難しさを乗り越えるヒントをいただけると助かります。

 久保田 私が心がけているのは、年間計画を立てる際、始めに新聞ありきではなく、こういった力をつけさせたい、そのためにはこの記事が使えそうだ、という視点で普段から記事を普段から集めておくことです。旬でなくとも、身につけさせたい力に合った記事を選ぶ手法もあるのではないでしょうか。

 飯田 話題材料としては最近の記事の方がいいでしょうが、人物を紹介する文章を書くときに「ひと欄」を、意見文を書くときに投稿欄を、など「ねらい」とかかわっていれば旬にこだわらず使えるのではないでしょうか。

 岸尾 単元内容によって多様な取り扱いがあり得るということでしょう。フロアに東京書籍のご担当がいらっしゃいます。他の教科書の状況もお聞かせいただければ。

 東京書籍・岡本 当社では5年生で「新聞記事を読み比べよう」、6年生で「新聞の投書を読み比べよう」の単元を設けました。記事比較は2種類、投書比較では4種類を、新聞記事そのままではなく、使われた写真や記事を使って新聞に似た形式に構成し直したり、書き直したりして、これまでの国語教科書ではあまりない形になりました。今後は教科書のつくり方も変わっていく。新聞が教材に入ることによって窓が開いたように思います。

 岸尾 次に、国語のなかで「新聞授業ガイドブック」がどのように活用できるかを考えていきたいと思います。教科書に登場するとなると、新聞に関心のある教員がそれぞれの教科やクラスでやっていたこれまでとは違う。すべての先生が授業で新聞をどう活用するか、との視点で話したいのですが、一色さん、どうでしょうか。

 一色 新聞を読むとき、漢字や語句すべて分かっている必要はなく、「全体としてだいたい分かること」も大事かと思います。私は小学生のころからスポーツ面をよく読んでいたのですが、「雪辱」という言葉が読み方も意味も全く分からない。面倒なので親に聞いたり辞書を引いたりすることもなく、前後の文脈から「こんなイメージの言葉かな」と理解していたように思います。それがあるとき、「せつじょく」という読み方を知り、「雪」にはそそぐ、という意味、「辱」にはずかしめ、という意味がある、と分かった。その瞬間の納得感をいまも鮮明に覚えています。

 飯田 国語でいえば、新聞を「活用する」どころか、新聞そのものが学習の対象になっている、というのが今回の改訂の大きなところです。ガイドブックの30ページからの「意外と知らない新聞のしくみ」の部分、ここはぜひ使っていただけると思います。

 新聞は多種多様な内容の文章というだけでなく、さまざまな文種、文章様式の宝庫です。記録文や報告文、意見文、コラム、小説。川柳、短歌、詩のような伝統的文芸もあればマンガもある。何がどのように書かれているかを学習するには格好の教材です。

 第二に、話題を提供する題材としての活用。新しい国語では、話し合いや書くことなど表現の学習が多く入ってきます。教科書は全国の子どもたちが対象ですから、そのとき、そのクラスの子どもたちに必然性のある題材を常に提供するのは難しい。子どもたちが話し合いたいと感じる題材を見つけるのに、情報の信頼性の高さという点でも新聞は使い勝手がいいと思います。

 久保田 中学校で使えるのは、18、19ページの「記事や投書に対する考えをまとめ、投稿する」。私の勤務する川崎市には各校・各地区代表による中学生の弁論大会があり、論理的な説得力ある文章を学ぶにも、弁論のテーマを探すにも、新聞記事が使えると思いました。意見が分かれるテーマのときは、新聞にも賛成、反対双方の意見が載っていることが多い。反対意見とその根拠を知る手がかりとして使いたいと思います。

 菊池 8、9ページでは社会科の授業の活用例を報告していますが、国語科で「こそあど言葉」を習った子どもたちに、「新聞ではどのように使われているか探してごらん」と促しました。子どもたちは120個も見つけ出し、「こんなに使われているんだね」と驚き、しっかり勉強しなくてはと感じたようです。学習している事柄を深めたり、学習することに価値を感じたりする力を引き出す教材としても使えます。

 岸尾 私は「記事の内容を四字熟語やことわざで表現する」という授業をしたことがあります。子どもたちの言葉を広げるのはすごく大事ですね。それでは、国語以外の活用についてはいかがでしょうか。新聞は社会の出来事を知らせるのが役割ですから、調べ学習に有効な題材です。国語で読み方や活用の基本を学び、他教科への学びに広げていくためにどのようにガイドブックを活用できるでしょうか。

 菊池 24、25ページの環境問題のように、日々刻々と変化するテーマについてタイムリーな情報に接することができるのが新聞の大きな魅力です。総合学習で「携帯電話について調べよう」と課題を出し、記事スクラップをしました。算数で棒グラフや円グラフ、概数を学ぶときに、新聞からグラフや概数を見つけるなど、学習を実生活に結びつける力を深めるのにも役立ちます。

 久保田 クラス経営のなかで使う視点もあります。例えば、道徳。社会面や投書欄には現実社会について考えさせられる記事が多く載っています。また、投書欄を継続して見ていると、ある投書に対して反論や共感の投書が載ることがある。複数の投書を使い、一つの見方に偏らないよう、揺さぶりをかける方法として効果的なのではないかと思っています。

 飯田 言語活動はすべての教科にかかわりますが、「役に立つかどうか分からないから、国語はきらい」と感じているお子さんが増えているようで残念に思っています。教室の学び、教科の学びが、社会とつながっている、ということを子どもたちに意識させることができたらいいですね。

 一色 子どもたちの目を社会に向けさせる点で、新聞は社会の授業に適した題材でしょうね。直近のWEBRONZA編集会議でも話題になった日本の捕鯨問題や来日研修中のインドネシア人看護学生への対応などは、学校でも話し合えるテーマではないかと思いました。子どもたちとじかに接していらっしゃる先生方だからこそ、タイムリーなテーマを捕まえてサンデル教授のような「白熱教室」ができると思います。

 岸尾 新聞は「対話ができる素材」だと思います。社会科で政治の学習に入ると、授業でも視聴率が落ちる感覚があるのですが(笑)、内閣改造や裁判員制度など「今」が書かれた新聞記事を持ち込むと、いきいきとした対話が生まれます。国際理解の単元や地理的な学習でもそうです。

 フロアD 群馬から来ました。中学校で社会科を教えていて、現代社会、歴史、地理、道徳で新聞をよく使っています。課題だと思っているのは、新聞を使った授業を心がけても生徒自身にそれを継続させていくことが難しく、効果も測りづらくて、教える方も自信がつかめないこと。継続する、継続させるコツがあれば教えてください。

 岸尾 学級経営の一環として新鮮なニュースを提供するのはどうでしょうか。朝の会や帰りの会に、新聞の1面に載っているニュースを子どもたちに分かりやすく伝える。子どもたちと一緒になって話題を提起する姿勢でいれば、年間を通して続けられます。

 菊池 教科でのNIEと日常でのNIEを両輪でやっていくことを意識したい。私は、「先生は、授業に新聞を使う先生だからね」と宣言してしまいます。日常的に新聞を使う時間を見つけることが大事です。

 久保田 年間授業計画で「どこで何を教えるか」を意識すれば、いくつかポイントが見つかります。国語の場合なら「意見文を書く」「身近な文章から漢語や和語、外来語の違いを学ぶ」といった単元。計画を立てることで継続的に活用する方法もあると思います。

 フロアE 千葉大で留学生に日本語を教えています。日本語を学ぶ留学生にとって、新聞は日本社会を知るうえでも分かりやすい教材です。日本語を学び始めた留学生に対し、新聞を活用してどんな教え方ができそうか、アイデアをいただきたい。

 岸尾 小学生新聞など子ども向けに詳しく解説した記事を利用したり、低学年向けの実践例として紹介している写真や4コマまんがを使ったり、といった方法があるかもしれません。そろそろ時間になりました。パネリストのみなさんにまとめの一言をお願いします。

 一色 日本ではなぜ現代史を教えないのだろう、もっと現代史を教えて欲しいと思っていました。教育の目的は究極的には社会性を身につけること。いまの歴史を刻々と伝える新聞を子どもたちのご指導に生かしていただくよう先生方にはぜひお願いしたい。

 飯田 新聞授業を継続していくには環境が大事。図書室に新聞が置いてある小学校はどれくらいあるでしょう? 常に目に付くところ、手に取ってすぐ利用できるところに新聞がある、という環境ができたらいいと思います。すべての家庭で新聞をとっているわけではないからこそ、せめて学校では必ず読めるようにしてほしい。

 久保田 今日、一番勉強になったのは、「視野を広げるのが新聞だ」という認識を得られたこと。学校へ戻ったら新聞を読める環境づくりにも取り組みたいですし、生徒たちに「新聞って役に立つ、面白い」と思わせるような授業を工夫していきたいと思います。

 菊池 授業で新聞を使うようになって大変だったことがあります。新型インフルエンザ流行防止に加湿が大事、という記事を読んだ子どもが家でそれを話題にし、親切な保護者が加湿器を寄付すると申し出てくれました。でも、校内調整が難しくてご厚意をお断りすることになってしまった。保護者はお怒りになるし、心苦しく、申し訳なくて。でも、これは新聞をきっかけに子どもが自分自身で考え、家に帰って保護者と話し合ったからこそ起きた「事件」なんですよね。これからも、日常的に新聞を読み、自分の頭で考えられる子どもに育つよう、子どもが日常的に新聞に触れられる環境づくりが大事だと思います。

 岸尾 「教科書の中の新聞」に閉じこもらず、新聞を丸ごと使っていくのが今後の課題であり、ガイドブックは一つの役割を果たせると思います。NIEの活動には20年以上の蓄積がありますから、各地の推進協議会報告書に載っている先行研究も参考にしてください。新聞での学びは、生涯を通じた学びでもあります。私事ではありますが、がん末期で入院中だった父に枕元で新聞を読み聞かせたひとこまを思い起こしました。

 さて、このパネルディスカッションもそろそろ締めくくりです。冒頭に紹介した教科書の手順を振り返りましょう。パネルディスカッションを通して、考えは深まりましたか。
コーディネーターは公平な立場に立って、計画的に進行できたか。(拍手)。
パネリストは、自分たちの意見や考えを具体的な理由とともにはっきりと述べられたか。(拍手)。
フロアは、自分の考えと比べながら各パネリストの意見を聞き、質問や意見を述べられたか。(拍手)。

 いかがでしたでしょうか。本日はありがとうございました。

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