東日本大震災をどう教える 先生向けの新聞活用講座終わる

足立区青井中学校の生徒がつくった新聞「エール」。 児童たちの主体的な活動について話す練馬区立光和小学校の竹泉稔・主幹教諭 はがき新聞づくりの取り組みを話す光和小の土生千鶴教諭 エール新聞づくりについて話す足立区立青井中学校の丸山明美教諭(左) 大学の教員養成課程での新聞活用について発表した小山茂喜・信州大教授 震災当日の様子を話す千葉県立盲学校の石毛一郎教諭 「教師にできるのは、復興の担い手との意識を育てること」と話す山梨県立甲府東高校の小尾きよこ教諭 「これからのライフスタイルについて、教師も問われている」と話す藤沢市立大庭中学校の有馬進一・総括教諭

 7月10日から全5回で開かれた「先生のための新聞活用講座――東日本大震災に学ぶ」の最終回が8月7日、東京・築地の朝日新聞東京本社読者ホールで開かれた。未曽有の被害規模に加え、原発事故の終息も見えないなかで、子どもたちに何をどう伝えたらいいのか。そのヒントを探ろうと、5回の講座にのべ235人が耳を傾け、活発な質問を投げかけた。

 最終回のテーマは「エネルギー」。原子力取材の経験豊かな朝日新聞の上田俊英・科学医療エディターが「なにが破局へと向かわせたのか〜科学の限界と人間の知恵」のテーマで講演した。上田エディターは、福島第一原発の事故の経過や今後の見通し、緊急時でさえ国内で融通し合えない電力供給体制の問題点などを整理しながら、「これからエネルギーをどうしていくか、国民みんなの議論で決めていかなくてはならない」と力説した。

 実践発表を担当した有馬進一・藤沢市立大庭中学校総括教諭はNIEの大ベテラン。それでも今回は「分からないこと、マスメディアで伝え切れていないことが多すぎて、軽々には新聞を使った授業はできないと感じた」という。一方で、どうしても伝えなくてはとの思いも次第に募り、2週間後の終了式前日、人影の消えた南相馬市の街をさまよう1匹の犬を写した新聞写真を題材に授業をした。「今回の震災・原発事故に伴う被曝やエネルギーの問題は、指導方法や技術を超え、指導する側が子どもたちと一緒に考え、行動する姿勢が問われていると感じる」。4月からは震災報道記事を題材に生徒にスピーチさせる取り組みを続けており、「東日本大震災からライフスタイルを考える」を夏休みの課題学習のテーマにした。

 講座は、専門記者による講演と現場の教諭による実践発表の形式で進められた。

 第1回は、被災地の現状報告と被災者の心にどう寄り添うかが主なテーマ。被災地を取材した上野創・朝日新聞記者(現・販売局首都圏第1部次長)の講演と、仙台市在住のNIE教育コンサルタント、渡辺裕子さんの特別講演があった。

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 第2回(7月16日)のテーマは「震災と新聞」。震災当日、東京本社で紙面や号外の作成に携わった尾形俊三・編集局長補佐が「震災時の紙面作り〜新聞の限界と挑戦」と題して講演した。仙台など4カ所の印刷工場が被災し、被災地に新聞を届けられず、号外も多く配れなかったなど紙媒体の限界を報告した一方で、WEBの速報ニュースへのアクセスの多さや紙面との相乗効果に触れ、「新聞が主流だった国内でも、震災をきっかけにウエブに力を入れるようになった」と振り返った。

 続く実践発表は「新聞づくりでエールを送る」と題し、東京・練馬区立和光小学校の竹泉稔主幹教諭と土生千鶴教諭、東京・足立区立青井中学校の丸山明美教諭がそれぞれの取り組みを紹介した。

 竹泉教諭は、卒業を目前に控えた6年生たちが自主的に募金活動や節電・節水に取り組み、新聞記事を使ったポスターを作成したことを紹介し、「子どもたちの意識が高まった」と話した。土生教諭は、子どもたち一人ひとりが復興の後押しとの願いを込めた「はがき新聞」づくりについて報告。「支え」を題字に「人という漢字の由来のように倒れそうになったら誰かが支えてくれます」と書いた作品など、個性豊かな児童の作品を紹介した。

 丸山教諭は2、3年生による壁新聞「エール」「オピニオン」の発行を紹介。震災当日の真剣味に欠けた避難態度に「このままではいけない。新聞をつくらねば」と感じたという丸山教諭だが、「中学生の若い力を役立てたいと、感謝の気持ちやいたわりの気持ちから記事を書かせた。大変な作業ですが、新聞づくりに情熱を向けてくれる生徒もいて励まされます」。

 第3回(7月23日)では、新聞、雑誌、テレビ、WEBと四つの主要メディアにかかわった一色清・朝日新聞WEBRONZA編集長が「情報に振り回されないためのメディア比較」と題して講演した。WEBにおけるデマや流言の具体例に触れつつ、ブログやWEBの情報から真偽を読み取る大切さや迫力ある映像がもたらす影響が大きいテレビ報道の難しさ、などを指摘。新聞については、「遅い、値段が高い、かさばる」といったマイナス面がある一方で、信頼性が高く、歴史を記録するメディアだとし、「オールドメディアが踏ん張ることが、民主主義の基盤である」と語った。

 実践発表を担当した信州大学の小山茂喜教授はまず、「今の学生は『やれ』と言われたことはやるが、チャレンジ精神に乏しい。教育もテストでよい点をとるように教えているが、それだけでいいのか」と学生気質と教育のあり方に問題を投げかけた。そのうえで、「大学生は新聞を読んでいない。ネットで見出しを見て読んだ気になっている」と学生の新聞離れの現状を分析、新聞の切り抜きを通じて、教師を目指す学生に教材開発の素材を新聞から選ばせる実践内容を紹介した。小山教授は「小中学校の授業と同じといわれるかもしれないが、まずは基本的な新聞の切り抜きからはじめて、少しずつ新聞が置いてある図書館に足を向けさせるように努めている」と報告した。

 また、東日本大震災に関連して、「全国紙は、岩手、宮城、福島の惨状を大きく報道するが、自分たちの県でも大きな被害が出ているところに目を向けないといけない」とし、「信州大学農学部栄村震災復興支援隊」が農業用水路の復旧や田植え支援など、長野県内で精力的にボランティア活動を行っている意義を強調した。

 第4回(7月30日)は、小此木潔・編集委員が「日本経済・創造的再生の道」と題して講演した。小此木編集委員は「被災地復興から、『命と暮らし』最優先の経済社会へシステムをつくりかえる『創造的再生』が我々に課せられたテーマだ」と述べ、負担増を賢くデザインすれば新しい経済発展の機会がつくれるのではないかと問題提起した。

 実践発表では、千葉県立千葉盲学校の石毛一郎教諭が、震災当日の生徒の様子や、全県から生徒が集まる特別支援学校ならではの困難を交え、点字新聞の実物を紹介しながら、盲学校での新聞活用実践を報告した。

 また、新聞を活用し、震災と復興について調べ学習に取り組んでいる山梨県立甲府東高校の小尾きよこ教諭は「生徒が震災を自身の問題としてとらえること、復興の担い手になるという自覚を育てることが教師の役割だと考えた」と話し、地元ASAの協力で震災翌日以降の新聞を集め、新年度から新聞スクラップに取り組んだ経緯や、生徒の取り組み例を報告した。