新聞で授業を豊かに 第17回朝日NIE講座 (まなあさ まなぶ@朝日新聞)

熱心に講演に耳を傾ける人々=東京都中央区の朝日新聞東京本社 札幌市立平岡中央中・三上久代教諭

 11月のNIE(教育に新聞を)月間にちなみ、朝日新聞教育総合センターは4日と17日、「第17回朝日NIE講座」を朝日新聞東京本社読者ホールで開いた。4日は「新聞の深読みで鍛える情報力」、17日は「地域と新聞」がテーマで、いずれも学校での授業実践の報告と新聞についての講演を組み合わせた内容。教育関係者らを中心に、合わせて約60人が参加した。

 ●各紙比較やクイズで楽しく 札幌市立平岡中央中・三上久代教諭

 三上久代教諭は、担当する国語科の教材として、以前から新聞を積極的に活用してきた。

 司書教諭も兼任していることから、新しい学習指導要領で新聞が読書の対象に含まれたことを機に、生徒たちが新聞に触れる機会をさらに広げようと、「全校一斉新聞読書」を始めた。全校生徒にもれなく1部ずつ行き渡るように新聞を配り、朝読書の時間に読ませる取り組みだ。

 始めたのは2年前。最初の年は1度きりだった。しかし昨年度は2回実施。毎年継続することで生徒や同僚教諭の支持をじわじわ広げ、今年度は3回実施することができた。

 「新聞読書」は「普段家で目にしているものとは違う新聞を読む」のが特徴。そのため各クラスに、全国紙3紙と地元紙1紙を取り交ぜ、全校で計500部を教材用価格で購入した。

 朝の新聞読書で読んだ新聞は、国語や社会、総合など他教科でも活用する。

 2年生では、総合の時間の図書館学習として「新聞クイズ」と「新聞比較」にも取り組んだ。

 「新聞クイズ」では、それぞれの新聞から「1面トップの見出し」「社説トップの見出し」「ニューヨークの天候と最高・最低気温」「家から近い災害救急病院の名称と電話番号」など、指定された情報を探し出す作業に取り組む。生徒たちに新聞の構成や、どんな情報がどこに載っているかを理解させることを狙ったものだ。

 次の総合の時間では「新聞比較」に挑戦。前の時間の「新聞クイズ」の答え合わせをしながら、それぞれの新聞に載っている情報を比べさせて、気付いたことを発表させた。

 「新聞によって違うことが載っているので驚いた」「外国の天気や気温がなぜ載っているのだろう」

 様々な意見が飛び交い、授業はたちまち熱気に包まれた。

 授業後「久しぶりに面白い授業になりました!」と、手応えを伝えてくれた若い先生もいた。こうして、職員室に共感の輪を広げていった。

 三上教諭は「新聞を取らない家庭が増えている今、新聞読書は『生徒が新聞を読む機会の保障』につながる。情報を深く読む能力を身につけさせるためには、学校に複数の新聞を用意して比べさせることが有効です」と締めくくった。

長野県松川村立松川中・宮澤美帆子教諭

 ●生徒が取材、ふるさとを知る 長野県松川村立松川中・宮澤美帆子教諭

 宮澤美帆子教諭は、昨年度に松川村立松川中の3年生111人で「ふるさと松川新聞」を作った取り組みを報告した。

 「ふるさと松川新聞」はタブロイド判20ページでフルカラーの本格派。「観光パンフレットにはない、松川の魅力を発信しよう」を合言葉に、ほぼ半年がかりで取り組んだという力作だ。

 産業、文化、芸術、歴史などの担当テーマごとに分かれ、ネタ探しから始めた。最終的に取材に応じてくれたのは村内の約60カ所。2、3人一組で取材交渉からインタビュー、写真撮影、記事執筆までを手がけた。記事の見出しや扱いの大きさを決める話し合い、レイアウトを整えるパソコンでの編集作業も生徒たち自身で進めた。卒業間近の3月10日に完成した新聞を、取材先や公共施設に届けたのも生徒たちだ。

 取材は放課後や土日をあてた。取材先への移動は徒歩か自転車。遠方へ出かける時は先生が車を出した。取り組む総合の時間を5、6時限目に固めるなど、学校全体の理解もあった。

 宮澤教諭は、生徒たちに「予行演習」の機会をつくることを心がけた。地元紙の記者を招いて取材の方法を指南してもらった後は、隣のクラスに出かけてインタビューを特訓。取材先にアポイントを取る際には、友人同士で電話をかけ合い受け答えを練習させた。トップ記事を決める編集会議の前には、体育祭をテーマにした模擬新聞を素材に、読者を引きつけるレイアウトを研究させた。

 本格的な新聞づくりは、指導する先生方にとっても試行錯誤の連続だったという。しかし、今考えると「新聞作りには、生きる力を高めるさまざまな要素が含まれていると痛感した」と宮澤教諭は話す。「取材を通して本物に出会い、一つのことを極めた人々の生き方や熱い思いに触れたことでふるさとへの思いも深まり、生徒にとっても大きな財産になりました」

 実践報告には、今は高1になった海藤彩恵さん、宮沢流京(るきょう)さん、郷津雅人さん、一瀬(かずせ)桃花さんの4人が同級生を代表して駆けつけ、新聞制作に打ち込んだ日々を語った。

 「地域の人とふれあい、今まで知らなかったふるさとの一面や色々な人の思いを知ることができてよかった」と振り返った4人は「新聞を読んだ方が、興味をもって村に遊びに来てくれたらうれしい」と、目を輝かせていた。

戸松康雄・朝日新聞新発田支局長

 ●社説要約し情報見極めよう 戸松康雄・朝日新聞新発田(しばた)支局長

 地元の新潟県立新発田高校や新津高校などで、新聞を使った学びをお手伝いしています。その一つが、社説の要約です。

 朝日新聞だと、社説は1千字弱の長さ。それを400字に要約してもらいます。社説の多くは(1)何が起きているのか(2)その原因や背景(3)今後の見通し(4)朝日新聞社としての考え・主張、という四つの要素で構成されているので、その4点をしっかりつかむのがコツだと教えています。

 毎日のように社説に触れることで、世の中の動きが分かる。そして「読解力」「文章構成力」「文章力」の三つの力がつく。これらはいずれも、受験などで求められる力です。

 ただし「社説は新聞社の意見であって、うのみにしてはいけない」ともお話ししています。社説の意見に対して、自分はどう考えるのか。同じ問題を他の新聞がどう論じているか比べるのも参考になります。

 新聞を通じて学んで欲しいのは、物事の多層性や多面性。どんな出来事も、表面だけを見ていたのでは本質に迫れない。情報が瞬時に流れるインターネット社会だからこそ「情報を見極める力」が必要なのです。

 その力をつけるためには、朝日新聞なら朝刊の2、3面に載る解説記事や、オピニオン面に載る様々な意見を読むことをお勧めします。新聞を通じて世の中の多様な考えに触れ、民主主義に大切な「反対の意見を言う自由」を尊重する姿勢を学んで欲しいと願っています。

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山中季広・東京本社社会部長

 ●民主社会に記者欠かせない 山中季広・東京本社社会部長

 経営難で休刊した地方紙。リストラで減る新聞記者……。春までいた米国では、各地に生まれた「取材空白域」を取材しました。

 カリフォルニア州のある都市では、市役所を取材する記者がいなくなった。すると、監視する目がなくなったのをいいことに、自らの給与を不当に引き上げる行政官が現れました。発覚するまでの十数年で、この行政官の年間給与は12倍の6400万円にふくれあがっていた。この額は、なんとオバマ大統領の倍です。

 オハイオ州の都市では、選挙の投票率が下がりました。地元紙の休刊で政治家の動きが報じられなくなり、有権者が判断材料を失った影響と見られます。

 「記者が消えた街」では「問題を掘り下げる記者の仕事は、民主社会の維持に欠かせない」ことが再認識されました。しかし、経営難の新聞社が記者を増やすとは考えにくい。そこで米国では、NPOや大学を拠点に、取材組織を作り育てる動きが出ています。

 ボストン大では、学生に取材のイロハを教え、街に送り出している。夏休みには高校生も参加します。学生が取材したニュースは、新聞社や放送局に買われています。

 米国の教室では、社会の問題について子どもたちに日常的に議論させている。政治家のスキャンダルだって取り上げますから、政治的な話題は避ける日本の教室とは大違いです。子どもたちを、ためらいなくニュースにさらすのを見た時は驚きました。