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スペシャルインタビュー

義足で踏み出そう 共生社会へ【LIXILの挑戦】

2019年7月23日

児童たちを前にスキップしてみせる山下千絵さん

 「体験授業」で身につける初めてのスポーツ用義足。小学6年生の3クラスひとり一人が、戸惑いと勇気が入り交じった一歩を踏み出していった。ふらふらしながら、ゆっくり前進できて笑顔の子。ぐらついて、マットの上でしりもちをつく子もいる。東京都調布市立第三小学校で7月9日にあった「ユニバーサル・ラン(スポーツ義足体験授業)」のひとこまだ。

 「思ったより歩きにくいね」「バランス取るのが難しいよ」。素直な歓声が体育館に響く。「義足のひとの気持ちが少しわかった」と、しみじみ話す児童もいた。

山下千絵さんのアドバイスを受け、義足を装着して歩く児童

 東京2020ゴールドパートナーの住宅設備大手LIXILが、子どもたちに共生社会を学んでほしいと、2017年4月から続ける取り組みだ。この日の授業が行われた調布市は、2020年パラリンピックで車いすバスケットボールの会場となっていて、「パラリンピック」が比較的、身近な環境だが、LIXILの出張授業は「東京」を飛び出すどころか、全国に及ぶ。

 訪問した学校はこの日で175校目。約1万2000人の児童がユニバーサル・ラン(スポーツ義足体験授業)で学んだ。これまでに33都道県を巡り、2020年3月までには、46都道府県に出向く予定だ。

 講師役はこの日、陸上・短距離でパラリンピック出場を目指す法大4年の山下千絵さんが担った。小学4年の時に交通事故で左ひざから下を失ったが、100メートルを14秒40で走る国内トップアスリートだ。

児童に義足の解説をする山下千絵さん

 「歩くときは、空き缶を踏むような感じで」と山下さんがアドバイスすると、ぐらついていた子どもたちの歩行がみるみる安定した。左ふくらはぎの切断部分を子どもたちに触らせたあと、山下さんが実際に走ってみせると、子どもたちは思わず「スゲー!」と、驚きの声を上げた。

児童たちを前に実際に走ってみせる山下千絵さん

「子どもたちは、最初はちょっと怖そうな顔をしているのですが、だんだん興味に変わってきて、最後には『選手、スゲー!』となる。恐怖心が憧れに変わる瞬間は、この授業の見どころのひとつかもしれません」

 このプロジェクトで全国の小学校を巡るLIXIL東京2020オリンピック・パラリンピック推進本部の水越雅美さんは話す。

義足についての座学を受ける児童たち

 体験授業を終えたあと、子どもたちは車座になった。「足を切断した人は日本に約6万人、アメリカに約200万人。アメリカに多いのは、兵士が戦地に派遣され地雷や戦闘で失うため」といった義足の基礎知識を学んだ。義足のバネを利用して走ったり飛んだりする「スポーツ用義足はずるいか?」を話し合う一幕もあった。

 子どもたちの感想文を読むのが楽しみだという同社東京2020オリンピック・パラリンピック戦略推進部長の石橋和之さんも、積み重ねてきたユニバーサル・ランの取り組みに手応えを感じている。

「体験授業で義足のアスリートに実際に接することで、障害者を『可哀想な人、弱い人、助けてあげたい人』という対象でなく、純粋に『すごい人』という、価値観に変わっていく。多様性の社会を肌で感じてもらえています」

 Jリーグ鹿島アントラーズ、テニスの錦織圭の支援など、スポーツ界でも存在感を増しているLIXILは、2011年4月に持ち株会社「住生活グループ」の傘下にあったトステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が統合した企業グループ。全国の小学校に出向くユニバーサル・ランでは、地域の支店や営業所で働く社員が各地の学校に出向き、協力している。すでに600人以上の社員が関わった。もともと、異なる企業文化の背景を持つ従業員たちが、共生社会実現のため、子どもたちの未来のために一つになる。そんな社員エンゲージメントにも、ユニバーサル・ランは一役買っているようだ。

ユニバーサル・ランを体験した調布市立第三小学校の児童たち

朝日新聞 オリンピック パラリンピック・スポーツ戦略室・橋本新之介

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