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スペシャルインタビュー

広がる義足体験授業「ユニバーサル・ラン」/きっかけはあのオリンピアン【LIXILの挑戦②】

2019年8月23日

陸上男子のオリンピアン、為末大さんとLIXILの水越雅美さん

 子どもたちがスポーツ義足をはいて障がいを持つアスリートとふれあう。そしてお互いを認め合う―ー。そんな取り組みが全国に広がっている。前回の小欄でも紹介したLIXILの「ユニバーサル・ラン〈スポーツ義足体験授業〉」だ。

 このプロジェクトの発足に関わり、現在も企画運営に携わっているLIXILの水越雅美さんによると、義足の体験授業を始めるきっかけをくれたのは陸上男子400メートル障害の日本記録保持者で、シドニー、アテネ、北京と五輪3大会に出場した為末大さん。パラリンピック開幕まであと1年を機に、2人が「障がいと健常の境目」の現在地について語り合った。

為末ユニバーサル・ランが始まって2年半。どれだけの子どもたちが参加したのでしょうか。

水越2019年7月現在で全国の178校、約1万3千人が体験しました。子どもたち全員にスポーツ義足を体験してもらうのが、LIXILのポリシー。ほぼ全員が選手と直接、触れあいました。たくさんの申し込みをいただき、私自身も週2、3回、全国を飛び回っています。そのきっかけをくださったのが、為末さんでした。

為末出会いは北海道の大樹町でしたね。リオデジャネイロパラリンピックの直前、2016年7月に、大樹町にあるLIXILの関連施設でパラ陸上の選手たちと合宿をしたんです。その時にお礼の意味も込めて、地域の子どもたちにかけっこ教室やスポーツ義足を体験するイベントを開いた時でした。

水越為末さんから、一緒にイベントを開きませんか、とありがたいお話をいただいて。その時の義足を初めてはいた子どもたちの目が、本当に生き生きしていたのが衝撃でした。パラリンピックに出るアスリートと触れあって、障がい者への意識が一瞬で変わる瞬間を目の当たりにしたんです。

 2015年に東京2020のゴールドパートナーになったLIXILは、誰もが暮らしやすい社会づくりに貢献できる活動を企画していた時期。その出会いが結果として、今のユニバーサル・ランの活動につながっています。

為末私も広島での授業を見ましたが、子どもたちの反応にはどんなものが多いですか。

水越最初は怖がっていますね。でも、選手によっては義足を外して、切断部分に「触っていいよ」って言ってくれるんです。みんなはじめは遠慮がちなんですけど、1人が触ると、みんな一斉に触り出すんです。たちまち「これどうなっているの?」「ここって感触あるの?」と、ズバズバ。質問攻撃が始まる。そうしているうちに、「なあんだ、ぜんぜん私たちと変わらないんだ」と心情が変わっていきます。

為末あはは、よくあるパターンですね。

 義足の選手がどうやって生活しているのか、走るのかを知るのは、やはり、義足を履いてみるのが一番早い。外国人に日本独自の魚の干物「くさや」を説明するのも、一度食べてもらうのがいいのと同じで。スポーツ義足を初めて履いた人は、よく「たわみのあるスキーブーツみたいだ」っていいますね。

 しかも、小学生の時期に体験する意義も大きい。

 大人になっていくと、人はしだいに分類されていく。地域的にも職業的にも。例えば、アメリカだと、政党的にも。そんな分類が始まる前の卵の状態の時にこういう体験ができるのはいいですね。

 つまり、腕がない人が座るかもしれない椅子と、健常者しか座ることを想定していない椅子はたぶん、形が違う。将来的にそれを設計するとしたら、そんなことが直感的にわかる感受性が磨かれるのではないでしょうか。

水越五輪・パラリンピックが近づくにつれて、自治体職員の方、学校の先生などの大人からは、それに応じた盛り上がりを感じています。でも、子どもたちってパラリンピックが近づいているとかは関係なく、純粋に障がい者アスリートと触れあって、興味を抱いて、自然に憧れの対象になっている。それは2017年に体験授業を始めた当初から変わらない良さだと思います。

為末1年後のパラリンピックについては、五輪とは違う盛り上がり方になるとは思うんですけど、東京パラリンピックで世の中がどんな気持ちになるのかはまだクリアに見えていない気がします。

 ただ、今まであったような「かわいそう」→「でも一生懸命がんばっている」→「だからすばらしい」ではなくなりそうかな。

 少なくとも、競技としてのすごさを肌で感じつつ、障がい者のいる社会って何だろうと考えるきっかけだったり、日本発、世界に浸透する何らかのメッセージや、概念が出てくるといいなと思っています。

 私がいま興味があるのは「健常と障がいの境目って何だろう」ということ。例えば、健常者にも必ず、見えていない領域、いわゆる「盲点」が存在しますが、それが大きくなると「ブラインド」と呼ばれます。健常者と言われる人にもすでに「障がい」は少なからずある感じですよね。そして、その逆もある。

 五輪選手はみんなある意味似ていますが、パラリンピック選手はほとんどそれぞれが違うので、その中から見いだせるものにも興味があります。

 例えば、走り高跳びは、腕がない人と片足がない人が同じカテゴリーで競う。感覚的には、腕のない人の方が有利な感じがするけれど、不思議と足のない選手が勝ってきている。それだけ腕の貢献度が大きいということ。現役時代にそんな思考回路があったら、もう少し腕振りの勉強をしてたかな。

水越いまはユニバーサル・ランもある意味、まだ「特別な活動」。「スポーツ義足の体験と座学を通じて、子どもたちが多様性への理解を深める時間です」と、事前の説明を要します。理想は「ユニバーサル・ラン」が「公用語」のように広がって、体験した子どもたちが、体験していない友達にも語り継ぐ。子どもたちが相手を思いやる気持ちをもち、行動することで社会が少しづつ変わっていく。それが当たり前のようになる世の中が、私たちの活動のゴールかなと思います。

為末義足を開発したり、障がい者アスリートをコーチングしたりしている立場からいえば、2020年以降は、内戦やベトナム戦争で国内に大量の地雷がいまも埋まっているラオスのような国から、義足のスター選手が出てくるとインパクトが大きい。そんな国にもスポーツ義足や、走る技術をゆくゆくは提供していけるようになればいいですね。

構成・朝日新聞オリンピック パラリンピック・スポーツ戦略室・原田亜紀夫

為末大さん

陸上男子
オリンピアン、世界選手権銅メダリスト
為末大さん

広島市生まれ。陸上男子400メートル障害日本記録保持者。2012年に引退後、現在はスポーツと社会をテーマに活動。取締役を務めるXiborgでは義足の開発に取り組む。

水越雅美さん

LIXIL
水越雅美さん

千葉県出身。LIXIL東京2020オリンピック・パラリンピック推進本部でユニバーサル・ランを企画運営。野球観戦が趣味で、セ・パ12球団の本拠地はもちろん地方球場にも出向く。モットーは「まずはやってみる」。

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