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骨の髄まで映画女優に 「ヴィヨンの妻」に主演 松たか子

2009年10月9日

写真:  拡大  

 「ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ」の脚本は松たか子のために書かれた。彼女に骨の髄まで映画を教え込みたいとの周囲の思いからこの映画は作られた。

 彼女が演じた佐知は太宰治をほうふつさせる無頼作家、大谷(浅野忠信)の妻だ。女と金にだらしない夫をけなげに支える女性のようでいて、すべてが計算ずくでしたたかにも見える。

 脚本の田中陽造によると、彼女は初め、「自信がない」と泣きそうだったという。「頑張ります」とあいさつされた田中は「頑張らなくていい」と答えた。「あなたをイメージして書いた本だから、どんな下手に演じても大丈夫ですよ」と。

 「そんなふうに言われたのは初めて」と松は笑う。「佐知って、やればやるほどつかみどころがなくなる。でもこの言葉で自分の感覚を頼りに演じれば大丈夫なんだと思えました」

 田中の助言を「物を書く人の表現だな」と感じた。「佐知も大谷にこんな気持ちを抱いたんだろうと思いました。言葉のセンスがすごいというか、ズルいというか。大谷への思いを演じるヒントをいただきました」

 元来周到な演技プランを立てて撮影に臨むタイプではない。「現場で感じたことをどれだけ形に出来るかに意味を感じてしまう方なので」。根岸吉太郎監督には「佐知は大谷のことがずっと好きでいいんですよね」とだけ確認した。「あとは、じめじめしないように」ということを気にしてこの難役を演じた。

 映画には、大谷のほかに佐知を愛する2人の男が登場する。若い工員の岡田(妻夫木聡)と弁護士の辻(堤真一)だ。いずれも太宰のほかの作品からヒントを得て、田中が造形した。「すべては佐知のためです。小説の最後のセリフに説得力を持たせるために作った」と田中。

 そのラストシーン。原作のセリフの後に新たに加えられたセリフについて「ない方がいい」と主張した。佐知が大谷に子供のことを語るセリフだ。「私、めったに意見を出さないんですけど、ここは男と女でいいのでは、と言いました。子供を出すと男は何も言えなくなる。それはちょっと好きじゃないんで」

 その結果、絶妙な余韻のエンドマークになった。周囲の期待通りいやそれ以上に、骨の髄まで映画女優になった松たか子がここにいる。

 (文・石飛徳樹 写真・郭允)

    ◇

 まつ・たかこ 77年生まれ。93年、歌舞伎座で初舞台。映画は98年「四月物語」で主演デビュー。今秋はミュージカル「ジェーン・エア」に主演、新曲「君となら」の発売など多彩な活動が目立つ。「ヴィヨンの妻」は10日公開。

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