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韓国 心の原風景 「牛の鈴音」のイ・チュンニョル監督に聞く

2009年12月26日

写真:「撮影に3年、編集に1年半かかった」と話すイ・チュンニョル監督=東京都内拡大「撮影に3年、編集に1年半かかった」と話すイ・チュンニョル監督=東京都内

 農家の老夫婦と死期の近い牛を追った韓国のドキュメンタリー映画「牛の鈴音」が、東京・渋谷のシネマライズなどで公開中だ。牛の歩みのようにゆっくり流れていく日常をとらえ、韓国で300万人を動員する記録的ヒットに。「父、母、ふるさと。みんなの心にある原風景を記録にとどめたかった」とイ・チュンニョル監督は話す。

 79歳のチェじいさんは、もう何十年も変わらず役牛と田畑で働く。牛を売って耕作機械を使えば楽になるのに、というおばあさんのグチにも、「死ぬまで面倒を見る」と言って耳を貸さない。牛の寿命は15年と言われているがこの雌牛は40歳。獣医師に「この冬は越せないだろう」と言われ、おじいさんも高齢で体調が悪いが、牛がヨタヨタと引く荷車に乗って働きに出る。

 「牛と一緒に働く姿は、私にとって父の原イメージだ。本当は父を撮りたかったがもう牛を使っていなかったので、イメージに合う老人と老牛を4年かけて捜した。『働く父』を題材に選んだのは、98年ごろ経済危機で韓国の多くの『父たち』が失業したのを見たからだ」とイ監督。

 おじいさんにカメラを向けると、写真と思いこんで動かない。おばあさんに向けると自慢の歌を歌い出した。「仕方なく、ワイヤレスマイクをつけてもらい離れて撮った」

 雌牛はいつも眠そうで、骨と皮ばかり。「撮影に入った途端に死んだら映画にならないなどと心配したが、牛をいたわるおじいさんを見て、1人と1匹の美しい姿と、このゆったり流れる時間を撮ればいいんだと確信した」

 「ラジオもあんたもポンコツ!」「牛は幸せ、不幸なのは私」。おばあさんが、無口で頑固なおじいさんにポンポンぶつける言葉が笑いを誘う。映画は社会現象になり、老夫婦を見ようとバスツアーまで組まれたという。「結果として、2人の生活を乱してしまった」と唇をかむ。

 監督の故郷の村には「偉業」をたたえる横断幕が掲げられた。「父が夜、こっそり見に行ってうれしそうに見上げていたそうです。僕には『頑張ったな』くらいしか言わないんですけどね」(小原篤)

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