現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. 音楽
  5. 記事

難曲と向き合い、6年で完走 曽根麻矢子

2009年6月5日

写真「バッハを『分かる』ことなんか一生ないと思う」と語る曽根麻矢子=吉田写す

 チェンバロ奏者、曽根麻矢子の「バッハ連続演奏会」が、先月の「ゴルトベルク変奏曲」で幕を閉じた。東京・築地の浜離宮朝日ホールで足かけ6年、計12回、バッハの世界に戯れてきた。「視界が開けたと思ったら壁にぶつかる修行の日々。皆さんに背中を押され、挑むことができた」と振り返った。

    ◇

 5月23日の最後のステージ。弾き終わったあと舞台の上で、シリーズ開始の年に生まれた長男から花束を受け取った。「ようやく皆さんと乾杯できます」。満面の笑みを浮かべ、会場の空気をくつろがせた。

 「ゴルトベルク変奏曲」には、パリを拠点にした90年ごろから向き合い始めた。静かなテーマに30もの変奏が続く難曲。「ワインが熟すのを待つように」じっくり対話を重ね、その成果を99年発表のCDに刻印。冒頭から奔放に装飾を絡め、テンポも快活に、リズムの諧謔(かいぎゃく)に遊んだ。

 それから10年。改めて録音し今年4月に出したCDの演奏は、もっとシンプルになった。テンポや奏法に様々な工夫を凝らしているものの、木立を風が吹き抜けるように、さりげなく耳をくすぐって消えてゆく。

 ジャケットの表情も自筆の解説も、10年前のものより力が抜けている。締めの言葉は「この音楽を聴いて元気になーれ!!」。

 音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」に出演、4月には上野学園大の教授に就任するなど第一線を歩き続けてきた。「若いころは、古楽といえばカビくさいものと思われていた。この楽器の魅力に気づいてくれる仲間を、もっともっと増やしたかった」

 その実、まだまだ可能性を秘めた楽器だと思っている。「最初は小さい音だなと思っていても、聴き続けるうちにどんどん心の中で強く鳴り始める。こんな楽器、ほかにない」

 30代を過ごしたフランスで「開き直りの精神」を培った。観光気分で訪れたブリュージュでコンクールを受け、課題曲を間違えて「仕方なくそのまま弾いちゃった」ことも。

 一方で、水面に映る夕日や石畳など、何にでも心をふるわせた。「なんて美しいんだろう、って感動することが日常だった。どんな雑踏からも何かをちゃんと感じられる感性を持っていることが大事なんだと、パリの街に教えられた」

 ひとりの女性として日々を充実して生きることが、曲に対してシンプルな気持ちでいられる秘訣(ひけつ)と気づいた。そしてこれこそが「自由」なのだ、ということも。

 「バッハはこれで一区切りですが、これからも追ったり逃げたりしながら付き合っていくのでしょう」(吉田純子)

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内