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人形浄瑠璃研究の内山・早大教授が最終講義 「継承の責任」

2010年3月14日

写真最終講義で力説する内山美樹子教授

 人形浄瑠璃の研究で知られる内山美樹子・早稲田大学教授(70)がこの春、定年を迎える。学生時代から数えて50年余り研究を重ね、評論も活発に続けてきた。最終講義では「古典の正しい継承を」と力説した。

 最終講義は「日本古典演劇の過去・現在・未来――文楽を中心に」と題して1月に行われた。同僚の教授や学生ら約160人が耳を傾けた。

 冒頭は国立劇場の文楽公演に対する指摘だった。

 「この数年、国立劇場での通し上演が少ない。異常な事態だ。歌舞伎は古典化し切っていないが、人形浄瑠璃は19世紀までには古典化した。文楽には復活するべき古典が多い。本興行で新作をやるひまはないのではないか」

 「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」の記述を引き合いに、口伝による伝承が存外、正確に伝わっていると解説した。

 「重厚細密な古典演劇に他のものを入れ込むのは、国の保護を受ける人形浄瑠璃文楽が、何百年単位の遺産を一瞬に浪費すること。日本の古典演劇は丸ごとの伝承が実現した。幸いにも残ったのだから、我々には世界に対し、正しく伝えていく責任がある」。約1時間半の講義をそう締めくくった。

 古典の正しい継承の視座から新聞や雑誌「演劇界」などに長年、文楽評を執筆してきた。舌端は鋭く、妥協を許さないが、頑迷の誤りには陥らない。演者の目線とほぼ同じ位に身を置いた。

 「演者は作品を生きることで、その時代の人間の姿と出会う。私自身も深呼吸して対象を吸い込んでしまいたい思いで作品や芸能に接し、人間の姿に出会う喜び、驚きを体験してきた」

 研究は、分析や校注作業で精密を尽くす。しかし研究室での冷徹な解剖ではなく、伝統芸能と肌を接しながら考察する姿勢だった。

 「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」「義経千本桜」などの名作を残した並木宗輔に「深さ、密度の濃さは随一」と傾倒。思い出の著書には「浄瑠璃史の十八世紀」、角田一郎氏との共著「竹田出雲・並木宗輔 浄瑠璃集」を挙げる。義太夫節の復曲演奏会の開催にも力を入れた。

 退職は3月31日付。退職を機に、これまでの劇評や考察をまとめた著書「文楽 二十世紀後期の輝き――劇評と文楽考」が早稲田大学出版部から刊行された。

 「人形浄瑠璃を偏愛している、と言っても言い過ぎではない。偏愛せずにはいられないので、これからも研究、執筆は続ける」と話している。(米原範彦)

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