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心癒やす「沈黙」の力 俳優座が7年ぶり山田太一の新作

2010年5月21日

写真拡大中野誠也さん=山本裕之撮影

 劇団俳優座が「沈黙亭のあかり」を21日から東京・新宿の紀伊国屋ホールで上演する。山田太一が7年ぶりに同劇団のために書き下ろした新作で、ベテランの中野誠也、山本裕之が演出・主演する。

 多摩川沿いにある小さなスナックが舞台。愛妻を失ったショックで、話せず耳も聞こえなくなった店主(中野)は、ホワイトボードの文字で客とやりとりする。そこに、生活に疲れた人々や集団自殺を企てる男女らが集まり、やがてある事件が起きる。傷ついた人々の心情の吐露と再生を描いた物語だ。

 中野は「我々の仕事は言葉。それを逆手に取って沈黙をテーマに選んだ。沈黙には疲れた現代人の心を癒やす力があると思う。昔はランプの芯がジュッと立てる音を聞いたものだが、我々の生活はそういうところからだいぶかけ離れてしまった。心を癒やす言葉は『自然』であり、その空気を象徴するのが沈黙でしょう」と語る。

 山田戯曲はおおむね家族ドラマをデリケートに描くが、今回は社会問題である集団自殺を採り入れ、喜劇的なタッチで展開する。

 「刃物によって、自殺したい人、殺されたい人、殺したい人が一体となった空間が現れ、一瞬ブラックホールに陥ったようになる。でも、ナイフで人を刺すことはなかなかできないこと。ドサクサの中で店主が蘇生するきっかけが生まれるんです」

 1961年に俳優座に入団。演出を手がけるのは2007年の「リビエールの夏の祭り」以来、2度目となる。

 「俳優と演出は舞台の表と裏。演出しながら演じると分裂状態になる。他の俳優を客観的にみていると、自分の役への集中力が散漫になりがちなので。でも演出は楽しい。虚構性の強い設定で現代のシビアな問題を取り上げているが、あくまで喜劇として笑ってもらえたら。軽さと社会性とがうまくかみ合うように工夫したい」

 一方、役者としては、しゃべれない店主役は終盤を除き、せりふがない。

 「せりふがほとんどない主役は、ヘレン・ケラーを描いた『奇跡の人』ぐらいでしょう。黙ったままで舞台に存在するのは難しい。でも沈黙を代表する登場人物。言葉による交流の奥にある、沈思したコミュニケーションにこそ、本当の心の交流がある」

 30日まで。中村たつ、遠藤剛、早野ゆかり、加藤佳男らが共演。美術・朝倉摂。5250円、4200円。電話03・3470・2888(俳優座)。(小山内伸)

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