先輩たちの就活ストーリー④ 音大、TOEIC260点から国内大手航空会社CAに内定

<第31回> 文 ライター・小元佳津江
オープンした羽田空港第2ターミナルの国際線施設で出発機を見送る空港職員=2020年3月29日(C)朝日新聞社
オープンした羽田空港第2ターミナルの国際線施設で出発機を見送る空港職員=2020年3月29日(C)朝日新聞社

 今回の「先輩たちの就活ストーリー」は、音楽大学から、既卒試験でJALのCA職に内定した春香(仮名)さんのお話です。

 春香さんが私の元にやってきたのは、大学2年生の終わり、2月ごろのことでした。朝日就職フェアに参加し、そこから、私のスクールにたどり着いたようです。

 中学、高校とずっとバイオリン一筋だった春香さん。それでも大学に入ったくらいの頃から、だんだんと「このままバイオリンを続けていてよいのだろうか」という葛藤を抱えるようになり、同時に、幼い頃から漠然と憧れていたCA職に意識が向き始めたのだそうです。そんな経緯から、春香さんはストラッセ東京に入学しました。

一般常識と英語の猛勉強からスタート

 ところが、当然ながらCA受験の準備は何もできていない。当初、彼女のTOIECの点数は260点。CAの受験資格である600点には遠く及びませんでした。また、彼女がずっとしてきたのは音楽の技術を磨くための勉強だったため、リポートを書く、自分の意見をまとめて発表するなど、一般の学生がするような勉強の経験は皆無。それは、エアラインをはじめ、一般企業の就職試験を受けるためのスキルはほぼ身についていない、ということを意味しました。

 さて、いざレッスンを始めても「私、机の前に座って勉強したことがないので(笑)」という具合で、授業に集中するだけでも一苦労。特殊な世界で生きてきたせいか、質疑応答をしていても、質問そっちのけでいつのまにか「マイワールド」に入ってしまい、突拍子もない答えが飛び出すことも。CA志望者は「みんなで頑張ろう」というマインドの持ち主が多いため、冷笑こそないものの、クラスメートに笑われてしまうこともよくありました。そのたびに私は、「どうしてみんなが笑っているかというとね……」と理由を説明するはめになるのでした。

 そんなわけで、「あなたは時間かかるよ」と本人にもはっきり伝えたうえで、指導がスタートしました。

 まず、私が彼女にやらせたのが、新聞や本を読むということでした。本は、ホスピタリティー系のものから始めてもらいました。こうして一般常識を身につけさせるとともに、文章力アップを図ろうと考えたのです。新聞を読み続けたことで彼女特有のズレが徐々に修正され、練り込まれた文章に触れることで、語彙(ごい)が増え、文章構成もわかるようになってきました。やがて、少しずつ文章が書けるようになってきたので、添削をくり返し、ブラッシュアップしていきました。

 元々、モチベーションと根性は群を抜いているタイプだったので、私の厳しい指導にも決してひるむことはありませんでした。

 英語についても、とにかくひたすら勉強してもらいました。2年生の春休みに、フィリピンに英語の強化合宿を受けに行き、1日8時間のマンツーマンレッスンを1カ月以上こなしました。それでもやはり、力は急にはつきません。春香さんの場合、それまで勉強らしい勉強をしたことがなかったため、そもそも勉強のしかたがわからなかったようです。

 英語ができない学生によく見られるように、彼女も「単語さえ覚えればなんとかなる」と思っていました。しかし、単語は文章の中で覚えていかないと意味がないのです。英語学習は料理と同じ。「単語」という食材だけあっても、「文法」という手順が頭になければ、料理をつくることはできません。

 そこで、英文の多読などで単語と文法の学習を同時に進めながら、地道に勉強を続けてもらいました。このときばかりは、「もう無理です。これ以上、点数伸びません」と泣き言も出ましたが、努力のかいあり、600点近くまで点数を伸ばすことができました。

CAに必要な素養の獲得には時間がかかる

 しかし、春香さんの場合、ホスピタリティーをはじめとする、CAとしての素養を身につけるには、やはり時間が足りませんでした。新卒試験時にはまだ、「相手を敬う」「人を立てる」ということを頭で理解するところまでで精いっぱい。

 「わかった! できた!」で面接に臨んでしまったため、ただただそれを披露しまくる場になってしまったのです。「私は頑張ってあれもこれも身につけた。できることを全部やれば受かるはずだ」。そういう発想になってしまったんですね。

 例えば、グループディスカッションでも、一人だけ明らかにピントのずれたことを言い、浮いてしまう。CAはお客様を立てなければいけない立場なのに、「人を立てられる」ことを誇示し、自分が主役になってしまう。周囲は「え?」と思っているのに、それにも気づけず、場を乱すだけで終わってしまう。こうした「クラッシャー」になってしまうと、まず通過は難しいでしょう。

 何事も、覚えてたてはオーバーになりがちです。自然にできるようになるには、やはりある程度の時間と余裕が必要なのです。

本物の自信は自分の努力でしか身につかない

 春香さんは、残念ながら新卒試験ではCAの内定は手にできませんでしたが、宝飾ブランドから内定をいただけました。当初の彼女の状態を考えれば、大健闘といえると思います。

 しかし、春香さんがCAへの夢をあきらめていないことはわかっていました。そこで私は、「CAを目指すなら勉強を続けなさい。でも、まずは内定を下さった会社で一番になりなさい」と言いました。彼女はその言葉に応えるように懸命に努力を重ね、入社前研修でトップの成績を収めました。

 翌年、春香さんは既卒試験で再チャレンジ。今度は、見事JALからCAの内定を獲得します。このときには、TOEICの点数は750点まで伸びていました。さすが、モチベーションと根性は誰にも負けない春香さんです。このころの彼女にはズレた言動も全く見られず、ビジネス視点もかなり身についていました。「父親と経営の話などもするようになったんです」。そう生き生きと話す彼女に、大きな成長を感じました。

 新卒試験時の彼女は、付け焼き刃の自信しかもっていませんでした。でも、内定をいただいた会社で精いっぱい努力し、好成績を収めたことで、彼女は本物の自信を身につけたのです。それも、CA内定に至った大きな理由ではないかと思います。

 春香さんは今、JALのCAとして充実した毎日を送っています。何事も無駄になる経験はありません。自分の考え方や向き合い方次第で、いかようにも有意義な経験に変えられるのです。そう捉え、行動することができれば、あなたもきっと内定に一歩近づいているはずです。

古澤有可(エアラインスクール進化系「ストラッセ東京」主宰)
プロフィル 古澤有可(エアラインスクール進化系「ストラッセ東京」主宰)

1988年10月、エアラインを目指す女性の支援活動を開始。自身も超難関である欧州航空会社の客室乗務員となり、9年半、ドイツ語、英語を駆使して世界のお客様へ接客をする。2018年には、支援者一人では困難といわれるエアライン内定数延べ100名超え(120名)を達成。年間2000名以上に、内定の術を指南する。女性のキャリア支援のパイオニアとして、幅広く活動。ストラッセ東京 公式HP http://strasse-tokyo.com

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