日本もやっと「脱石炭」!? 企業はもっと先へ

<第51回> 文 木之本敬介
東京・千代田区の株主総会の会場近くで脱石炭を訴える学生たち=2020年6月25日(C)朝日新聞社
東京・千代田区の株主総会の会場近くで脱石炭を訴える学生たち=2020年6月25日(C)朝日新聞社

 政府は、旧式の石炭火力による発電量を2030年までに9割減らす方針を発表しました。二酸化炭素(CO2)を多く出す低効率な石炭火力発電所を減らすことで、地球温暖化対策に取り組む姿勢をアピール。世界が「脱石炭」に動く中、日本政府もようやく動き出した形です。ただし、高効率の石炭火力については引き続き利用も新たな建設も認め、安定的な電源として重視する方向性は変えません。石炭火力発電の輸出も、一定の条件をクリアすればできます。やや中途半端な「脱石炭」方針のため、世界からの日本批判はやみそうにありません。でも、企業は違います。「脱石炭」にかじを切らないと世界で生き残れないからです。みなさんが目指す企業の多くは地球温暖化対策に積極的に取り組んでいます。日本の「脱石炭」の現状について、知っておきましょう。

旧石炭火力「100基分、9割減」

 経済産業省によると、国内約140基の石炭火力発電所のうち114基が低効率の旧式で、9割削減は旧式100基分に相当します。家庭などに電気を送る送電線について、燃料費の安い電気が優先的に利用できるようにルール変更もする方針です。燃料費がかからない再生可能エネルギーを利用しやすくして、2030年度に再生エネ比率を22~24%にする目標達成を後押しするねらいがあります。ただ、石炭火力を「基幹電源」(ベースロード電源)と位置づける基本方針はそのままで、高効率な石炭火力の利用や建設は続けます。

 旧型に比べてCO2排出が1~2割少ないといわれる新型の石炭火力でも液化天然ガス(LNG)火力の2倍も排出します。今回の方針については、旧型を新型に置き換えただけで、かえって国内の石炭火力依存が長期化するなどとする批判もあります。

 政府は、石炭火力発電所の輸出についても、相手国の脱炭素化に向けた方針を確かめられない場合は原則公的支援を行わないなど、要件を厳格にすることを正式に決めました。ただ、石炭火力輸出に国際的な批判が強まる中、輸出禁止までは踏み込みませんでした。

G7で日本だけ

 地球温暖化対策をめぐる世界の状況をみてみましょう。国際社会は「パリ協定」に基づき、今世紀後半にCO2排出の実質ゼロを目指しています。2019年12月の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)では、グテーレス国連事務総長が「石炭中毒」という強い表現で石炭火力からの脱却を呼びかけました。石炭火力は燃料の燃焼などにともなうCO2排出量の3割を占める温暖化の主要要因で、欧州を中心に2020~30年代に稼働ゼロを目標とする国が増えています。

 しかし日本は「途上国のエネルギーアクセスに必要」「日本の技術が高い」「発電コストが安い」などを理由に、主要7カ国(G7)で唯一、石炭火力の輸出を公的に支援し、国内での新増設も計画しています。このため、COP25の際には厳しい批判を浴び、環境NGOからは不名誉な「化石賞」を2回も贈られました。

メガバンクも商社も

 ビジネスの世界では、気候変動対策に熱心な企業は評価が高く、後ろ向きな企業には投資しないという流れが強まっています。これからは温暖化対策に取り組まないと企業は生き残れないわけです。今年4月、みずほフィナンシャルグループ(FG)、三井住友FGが相次いで、石炭火力発電所に新たな投資や融資をしないと発表しました。三菱UFJFGも昨年、同様の発表をしており、3メガバンクが「脱石炭」で足並みをそろえました。三菱商事や丸紅、住友商事などの大手商社も、新規の石炭火力発電事業を原則として中止する方針を表明しています。

 みずほFGが6月25日に開いた株主総会では、石炭火力発電所建設資金などの与信残高について、「2050年度までにゼロ」との目標を2040年ごろに約10年間前倒しできる見通しが示されました。一方で、総会では環境NGOがパリ協定の目標に沿った投資を行うための経営戦略計画を年次報告書で開示するよう求めるなど、環境の視点からの株主の要求が強まっています。

電力はあらゆる企業に関わるテーマ

 石炭火力に関わっている企業も多くありますが、反応は分かれています。全国の大手電力会社のうち、北海道電力、中国電力などは旧式の石炭火力の割合が高く、今回の経産省の方針に戸惑っています。一方で、東京電力と中部電力の火力発電事業を受け継いだJERA(ジェラ)と関西電力では、火力の主力はLNGで石炭火力は少ないため、他社と比べて「競争力が高まる」などと今回の方針を歓迎しているようです。

 みなさんが企業の中軸として活躍する10年後、20年後を考えてみてください。もう石炭にしがみついている会社はほとんどないでしょう。電力は、供給する側だけでなく電気を使うあらゆる企業に関わるテーマです。「脱石炭」や再生エネ活用の現状を知り、これからを考えることが大切です。

木之本敬介(朝日新聞社 就活コーディネーター)
プロフィル 木之本敬介(朝日新聞社 就活コーディネーター)

1986年入社。政治部記者、採用担当部長などを経て就職情報サイト「あさがくナビ」編集長。「朝日学生キャリア塾」を立ち上げて就活生の指導も。サイト「就活ニュースペーパーby朝日新聞」では就活に役立つ情報を日々発信中。大学などでの講義・講演多数。著書に「最強の業界・企業研究ナビ2017」(朝日新聞出版)がある。

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