菅内閣の注目ポイント…就職戦線どうなる?

<第55回> 文 木之本敬介
初閣議を終え、記念撮影に臨む菅義偉首相(前列中央)ら=2020年9月16日(C)朝日新聞社
初閣議を終え、記念撮影に臨む菅義偉首相(前列中央)ら=2020年9月16日(C)朝日新聞社

 菅義偉(すが・よしひで)首相(71)が9月16日に就任し、新内閣が発足しました。新鮮味や派手さのない顔ぶれですが、朝日新聞の世論調査による内閣支持率は65%と、歴代内閣の中でも高い支持を得てのスタートです。新型コロナウイルス対策と経済立て直しの両立をはじめ、多くの課題が待ち受けています。首相や大臣の舵取りは、みなさんの就職戦線をも大きく左右します。7年8カ月ぶりの首相交代で誕生した新内閣についての話題と課題をまとめます。

菅首相って?

 まずは、菅首相ってどんな人なのでしょう。秋田県の農家出身で高校を卒業後に上京し、段ボール工場などで働いた後、法政大学法学部を卒業。国会議員秘書、横浜市議会議員を務め、1996年に47歳で衆院議員に当選しました。

 自民党は党内のグループである「派閥」の力関係で人事などが決まるのが常ですが、菅氏は今は無派閥です。「無派閥」「秋田県生まれ」「法政大卒」は、いずれも首相として初めてです。自民党からの首相は両親や祖父母に国会議員や首長の経験者がいて地盤を引き継ぐ世襲議員が多い中、1989年の海部俊樹氏以来の非世襲の首相で、本人も「地方出身のたたき上げの苦労人」を売りにしています。

内閣の顔ぶれ

 新内閣は安倍前政権の「継承」を掲げており、20人の大臣のうち8人が再任されました。ポストが変わる横滑りが3人、かつて務めた大臣に再び就くケースもあり、初入閣は5人。平均年齢は60.4歳です。再任や復帰組が多いため実務能力はある程度期待できそうで、菅首相は「国民のために働く内閣」と称しています。一方で、国際的にも少なくて問題視される女性大臣の数はたったの2人ですし、フレッシュな顔は見当たりません。野党は「安倍首相のいない安倍内閣」「新鮮味ゼロ内閣」などと皮肉りました。

注目の大臣

 「守り」の布陣が目立つ菅内閣の中で数少ない「菅カラー」と言われるのが、河野太郎行政改革担当相と平井卓也デジタル改革担当相です。前防衛相の河野氏は、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」配備計画の見直しに道筋をつけて話題になりました。過去に行革相、自民党の行革推進本部長を務めた経験もあり「無駄撲滅」に熱心に取り組んできました。歯にきぬ着せぬ物言いで「政界の異端児」と呼ばれています。菅首相に国民の声を聞く「(省庁の)縦割り 110番」の検討を指示されると、さっそく自らのホームページに目安箱を設置。数千件の情報が殺到し、受け付けを一時停止しました。

 菅氏が掲げる目玉政策の一つが、新型コロナ感染拡大で対応の遅れが浮き彫りになった省庁や自治体のデジタル化です。縦割り行政打破の一環として掲げた「デジタル庁」創設を担う平井氏は、自民党内の「デジタル通」として知られています。菅首相は、総務省や経済産業省などに分かれているIT関連の組織をまとめる考えです。

 これまで総務相が兼務で所管してきたマイナンバー制度も、平井デジタル改革相が担います。首相は就任会見で、普及率が2割弱にとどまるマイナンバーカードについて「行政のデジタル化の鍵であり、そうした社会の実現に不可欠」と述べました。健康保険証や運転免許証などにも使えるようにして普及を進めようとしています。

携帯料金引き下げと「負の遺産」

 世界でも高いといわれる携帯電話料金の引き下げも、菅首相の肝いりです。官房長官時代から取り組んできましたが、なかなか下がっていません。自民党総裁選では「(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの)大手3社は20%もの営業利益を上げ続けている」と訴え、料金引き下げに強い意欲を示しました。暮らしに直結するだけに国民の期待は高い一方、民間の事業にどこまで政府が強権を行使していいのか、という議論もあります。これを担うのは武田良太総務相です。

 安倍政権の「負の遺産」といわれるのが森友学園、加計学園、「桜を見る会」などの疑惑です。トップを引き継いだ菅首相には、説明責任をどう果たすかが問われます。就任会見で「おかしいことは直していかないといけない」と述べ来年以降の桜を見る会を中止する考えは示しましたが、疑惑の再調査などは否定しており、残念ながら解明には消極姿勢です。

コロナ対策と経済の両立

 就活生にとって最大の関心は、就職戦線がどうなるかですね。リクルートワークスの調査では、2021年卒採用の大卒求人倍率は1.53倍(6月調査)と、学生優位の「売り手市場」の目安とされる1.60倍を7年ぶりに下回りました。新型コロナの影響で、日本経済は戦後最悪の状況まで落ち込みました。コロナの影響による倒産は9月16日現在で511件(東京商工リサーチ調べ)。経済活動再開で6月をピークに減少傾向ですが、運輸や飲食など業績回復が遅れている業界もあります。雇用も7月の有効求人倍率は7カ月連続で悪化。コロナが原因の失職者は5万人を超えました。

 菅首相が就任会見で「最優先の課題は新型コロナウイルス対策。そのうえで社会経済活動との両立をめざす。さもなければ国民生活が成り立たなくなる」と語り、自ら主導した消費喚起策「 Go To キャンペーン」を挙げ、「今後もちゅうちょなく対策を講じていきたい」と訴えました。大規模イベントの制限を緩和し、10月1日からは「 Go To トラベル」事業の対象に東京を加えました。飲食店やイベントを支援するキャンペーンも順次始まっています。インフルエンザとの同時流行も心配される秋冬に向けて、コロナを抑えながら経済を立て直せるのか、菅首相の手腕が問われます。

木之本敬介(朝日新聞社 就活コーディネーター)
プロフィル 木之本敬介(朝日新聞社 就活コーディネーター)

1986年入社。政治部記者、採用担当部長などを経て就職情報サイト「あさがくナビ」編集長。「朝日学生キャリア塾」を立ち上げて就活生の指導も。サイト「就活ニュースペーパーby朝日新聞」では就活に役立つ情報を日々発信中。大学などでの講義・講演多数。著書に「最強の業界・企業研究ナビ2017」(朝日新聞出版)がある。

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