「脱炭素」新目標へ企業は必死! 志望企業の対応は?

<第68回> 文 木之本敬介
電気自動車の試作車「TOYOTA bZ4X」(C)朝日新聞社
電気自動車の試作車「TOYOTA bZ4X」(C)朝日新聞社

 「脱炭素」の動きが加速しています。政府は温室効果ガスの新たな削減目標を決め、米国主催の気候変動サミットで菅義偉首相が各国に伝えました。これまでよりもぐっと高い目標です。実現を主に担うのは企業ですから、各業界では様々な取り組みが始まっています。「脱炭素が経営の生命線」ともいわれる時代ですから、各社とも必死です。エネルギー、自動車、鉄鋼、住宅……あらゆる業界に関わる大きなテーマです。志望企業がどんな課題にどう取り組んでいるのか、最新のニュースから情報をゲットして自分なりに考えておけば、業界・企業研究で大きくリードできます。エントリーシートや面接で語れる材料が満載ですよ。

目標値、大幅引き上げ

 菅首相は4月22日、2030年度の温室効果ガスの新たな削減目標について、2013年度比で「46%削減」する方針を表明しました。これまでの26%削減から大幅な引き上げですが、首相は「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と述べました。首相は2020年10月に、日本の温室効果ガスの排出を2050年に「実質ゼロ」にすると宣言していて、その達成のために中間に位置する2030年度の目標を見直した形です。

 首相は22日夜の気候変動サミットで「気候変動への対応は、経済の制約ではない。むしろ我が国、そして世界経済を長期にわたり力強く成長させる原動力になる」と強調しましたが、とても高い目標ですから、実際に取り組む企業は大変です。23日の朝日新聞の記事を中心に各業界の現状を集めました。

エネルギー企業の取り組み

 目標の実現にもっとも大きな役割を担うのは、電力、ガス、石油などのエネルギー関連の企業です。国内の温室効果ガスの排出量の8割を、エネルギーの使用にともなう二酸化炭素(CO2)が占めるからです。東京電力と中部電力の火力発電部門を統合したJERA(ジェラ)は、2050年に国内外でCO2実質ゼロをめざします。JERAは火力発電で日本の電気の約3分の1を作っている日本最大の発電会社です。再生可能エネルギーによる発電を増やすとともに、非効率な石炭火力発電所を2030年までに全基停廃止。燃焼時にCO2を出さないアンモニアを化石燃料に混ぜ、最後はアンモニアだけを燃料にしたCO2を出さない火力発電所も計画しています。JERAの奥田久栄・取締役副社長はCO2ゼロ目標について「特長は、再生可能エネルギーとゼロエミッション火力を組み合わせること。火力をCO2が出ない形に変え、低コストでスピーディーに脱炭素化を図ります。再エネは洋上風力をもっと導入できるようコストダウンし、脱炭素には、再エネ100%ではなく、火力発電設備や送電線といった今あるインフラを使えるやり方で、再エネとゼロエミッション火力の二つを組み合わせることが一番現実的と考えます」と話しています。

 東京ガスは2019年に、2050年CO2排出ゼロ方針を打ち出しました。30代中心の若手社員30人が、自分たちがまだ働いている30年後に会社を存続させるには想定できるシナリオを積み上げるだけで足りるのかと議論の末、エネルギー企業こそが年限を切って脱炭素に向けて技術を総動員すべきだと、社長に訴えたことで方針が決まったそうです。燃やしてもCO2が出ない水素を家庭用燃料電池の技術を活用して低コストでつくり、さらに都市ガスの主成分であるメタンに変えます。2050年の脱炭素シナリオを発表した大阪ガスも、CO2排出実質ゼロでメタンをつくる研究を進めていて、大阪・関西万博での実証実験などを予定しています。

 石油元売りのENEOSホールディングスも、2040年に自社の事業で直接排出されるCO2を実質ゼロにする目標を掲げています。

トヨタは「水素エンジン車」でレース出場

 CO2排出量の16%は走行中の自動車から。自動車業界も対応を迫られています。政府は、乗用車の新車販売は遅くとも2030年代半ばまでにすべて電気自動車(EV)などの電動車にすることを求めています。

 4月19日に始まった上海モーターショーでトヨタ自動車は、新たなEVシリーズ「TOYOTA bZ(ビーズィー)」を発表。第1弾として2022年に発売予定のSUV(スポーツ用多目的車)を世界で初披露しました。2025年までにシリーズ7種を含む、EV計15車種を世界で導入すると明らかにしました。ホンダは2022年春に販売する中国初の自社ブランドの新型EVを展示し、中国で2026年までに計10車種のEVの投入を公表するなど、各社ともEV開発を競っています。

 ただ、EVは高価な電池を使うためコストが高く、技術開発には多額の投資も必要。国内では、「脱ガソリン車」へのシフトが急速に進むと、1台で1万点にも及ぶエンジン関連の部品を作る中小企業などの経営を直撃するという課題もあります。そこで、トヨタは水素が燃料でCO2が出ない「水素エンジン車」の開発にも乗り出すことにしました。水素エンジン車で自動車レースに参戦し、レースを通じて開発に取り組みます。水素エンジンは、ガソリンの代わりに水素を燃やしてエンジンを動かすため、ガソリンエンジンの部品の大半を流用できます。水素を燃料とする車には、すでに市販化されている燃料電池車(FCV)「ミライ」もありますが、FCVはEVの一種で水素と空気を化学反応させてつくった電気でモーターを回して走行します。豊田章男社長は「日本には自動車(技術)の蓄積があり、その強みを生かした脱炭素のやり方がある。水素エンジンもその一つだ」と話しました。

鉄鋼と住宅は

 製造業でCO2排出量がもっとも多いのは鉄鋼業界で14%を占めます。今年2月には「2050年にCO2排出実質ゼロ」を掲げ、従来の目標年を50年も前倒ししましたが、実現の道筋は見えていません。最大手の日本製鉄は、鉄鉱石をコークスではなく、水素で化学反応させて鉄を取り出す製法の開発を進めていますが、技術的課題が多く実用化のめどは立っていません。CO2の排出量が高炉より75%少ない「電炉」の大型化に向けた開発も進めていますが、実用化の目標は2030年。ある鉄鋼メーカー幹部は「業界内で、本当に2050年ゼロや2030年40%以上減を達成できると思っている人はいない。ただ脱炭素は社会の潮流で、具体的な解決策がなくても目標を掲げざるを得ない」と本音を漏らしています。

 住宅分野は排出量の15%程度を占めるとされ、住宅メーカーは太陽光発電と高効率の断熱材を組み合わせて、エネルギー消費を実質ゼロにする住宅「ゼロエネルギーハウス」を進めています。政府は、新築住宅に太陽光パネルの設置を義務づけることも検討しています

温暖化は食品企業にもリスク

 温暖化対策に取り組む企業などのネットワーク「気候変動イニシアティブ」(JCI)は、政府の削減目標について「45%を超えて、50%削減を目指すことを求める」という書簡を4月19日に政府に送りました。ソニーやソフトバンクなど291団体が賛同しました。サントリーの福本ともみ執行役員は「(温暖化は)食品企業として水不足や食料生産で大きなリスクになる」と指摘。富士フイルムの川崎素子執行役員は、排出量の少ない製品や排出削減に対する顧客や投資家からの要求が高まっているとして、「国際目標に整合した気候変動対応は、もはやグローバルビジネスの参加条件だ」と訴えました。企業の間では、温暖化対策の国際ルール「パリ協定」が求める水準の削減目標を自らに課す動きが拡大しており、環境省によると3月半ばまでで122社に上るといいます。

 脱炭素の取り組みは、業界を問わず広がっています。志望企業について調べてみましょう。

produced by 就活ニュースペーパー

木之本敬介(朝日新聞社 就活コーディネーター)
プロフィル 木之本敬介(朝日新聞社 就活コーディネーター)

1986年入社。政治部記者、採用担当部長などを経て就職情報サイト「あさがくナビ」編集長。「朝日学生キャリア塾」を立ち上げて就活生の指導も。サイト「就活ニュースペーパーby朝日新聞」では就活に役立つ情報を日々発信中。大学などでの講義・講演多数。著書に「最強の業界・企業研究ナビ2017」(朝日新聞出版)がある。

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