人気あっても勝てないの? 自民党総裁選のなぜ

<第77回> 文 木之本敬介
(左から)河野太郎行政改革相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行=東京都千代田区(C)朝日新聞社
(左から)河野太郎行政改革相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行=東京都千代田区(C)朝日新聞社

 自民党の総裁選が17日に告示され、岸田文雄前政調会長(64)、河野太郎行政改革相(58)、高市早苗前総務相(60)、野田聖子幹事長代行(61)の4人が届け出て本格的にスタートしました。自民党のトップ選びですが、国会で過半数の議席を持っているので、次の総理大臣が事実上決まる選挙です。久々の本格的な戦いとなって誰が勝つのかまだ見えないこともあり、大いに注目されています。事前の世論調査では河野氏が断トツの人気です。一般の国民による選挙であれば河野氏の当選が堅いところですが、そうなるとは限らないのが自民党総裁選。投票できるのは、110万人余の自民党員らと国会議員だけだからです。掲げる政策だけでなく、派閥など党内の力学、保守・リベラルなどの政治スタンス、安倍・菅路線を引き継ぐか変えるのか、その候補者を好きか嫌いかなど、いろんな要素が絡みます。その仕組みと注目すべきポイントを分かりやすく整理します。

どうやって決めるの?

 自民党総裁の任期は3年ですが、任期途中だった安倍晋三前総裁の辞任に伴って選ばれた菅義偉総裁(首相)は9月末で任期満了となるため、総裁選はもともと行うことになっていました。続投に意欲を示していた菅首相が9月3日に突然、退陣を表明したことで構図が一変。「四つどもえ」の戦いとなりました。

 総裁選に投票できるのは、自民党の国会議員382人と、党費や会費を納める約110万人の党員・党友です。国会議員は1人1票で382票。「地方票」と呼ばれる党員・党友票も同じ382票に換算され、計764票の過半数を得た候補が新総裁に選ばれます(※)。
※竹下亘氏の死去による減員も含む
 郵送などによる地方票は9月28日に締め切られ、29日に東京のホテルで投票する議員票とともに開票されます。1回目の投票で過半数を得た候補がいない場合は上位2人の決選投票が行われ、国会議員の382票と都道府県連の代表による47票を合わせた429票で決まります。

「人気者=総裁」にならないのはなぜ?

 朝日新聞が11、12日に行った世論調査で新総裁には誰がふさわしいか聞いたところ、河野氏が33%でトップ。以下、石破茂元幹事長、岸田氏、高市氏、野田氏の順でした。自民党支持層ではさらに河野氏が人気を集めて42%を占めました。この後、石破氏は立候補せず河野氏を支援すると表明しました。世論調査での自民支持層の河野氏と石破氏の数字を合わせると55%ですから、河野氏が圧倒的に有利に見えますね。ところが、そう単純ではありません。

 1回目の投票で河野氏が過半数を取れば「河野新総裁」誕生となりますが、候補者が4人いて票が分散しますから、1回目での決着は容易ではないとみられています。決選投票では地方票に対して圧倒的に多い国会議員票がカギを握ります。1回目に2位だった候補が逆転する可能性もあるのです。投票方式は今と違いましたが2012年の総裁選では、地方票でトップだった石破氏を国会議員だけの決選投票で安倍氏が逆転して総裁になり、長期政権を築きました。党内に「敵」が多いといわれる石破氏の河野氏支持が、マイナスに働くとの見方もあります。

今回は派閥がバラバラに投票?

 国会議員票を大きく左右するのは、自民党の「派閥」です。政策の勉強や新人教育などを担う政策集団のことで、今は7派閥があります。数の力を武器に団結して行動することで、閣僚や党の人事に大きな影響力を持っています。ただ、今回の総裁選では、結束して投票する候補を決めているのは、ボスが立候補した岸田派だけ。他派は複数候補を支持したり、自主投票としたりと、いつものような「締めつけ」をしない方針です。だから数が読めず、フタを開けてみないと分からない情勢なのです。

 これにはいくつかの要因があります。
◆派閥の力が弱まった
 かつての衆議院選挙区の制度は一つの選挙区から複数人を選ぶ中選挙区制で、自民の候補同士で激しく戦いました。1996年の総選挙から1選挙区1人の小選挙区制になり、派閥より総裁や幹事長など党執行部の力が強まりました。
◆派閥の世代交代の時期
 各派閥のトップが高齢になり、総裁候補になる世代が少ないことです。最大派閥の細田派は、安倍前首相の出身派閥ですが、「ポスト安倍」が定まっていません。派閥を抜けた高市氏を考え方が近い安倍氏が支持していますが、まとまっていません。第2派閥の麻生派には、「政界の異端児」「生意気」ともいわれる河野氏を好まないベテラン議員がいます。
◆直後の総選挙の「顔」選び
 今の衆院議員の任期は10月21日まで。総裁選は、その直後にある衆院総選挙の「顔」選びでもあります。とくに選挙基盤が弱い若手議員は自分の当落に直結するので必死です。当選3回以下の衆院議員90人でつくる「党風一新の会」は、若手の登用や党運営の透明性の確保などを求める緊急提言をまとめるなど活発に動きました。派閥ボスの意向より自分の当選につながる候補に投票しそうです。

各候補、野党の主張に注目

 憲政史上最長となった安倍政権、それを引き継いだ菅政権が終わります。朝日新聞の世論調査で、次の首相は安倍・菅路線を引き継ぐ方がよいかどうか尋ねたところ、「引き継がない方がよい」が6割近くを占め、自民支持層では拮抗(きっこう)しました。経済政策「アベノミクス」をはじめ、9年近く続いた安倍路線を引き継ぐのかどうかも焦点です。

 29日の投開票まで、総裁選のニュースがたくさん流れます。同じ自民党でもこんなに政策・主張が違うのか、と感じると思います。誰が「自民党総裁=首相」になるのかは、私たちの生活を大きく左右します。その後、行われる衆院総選挙は、自民・公明対野党の決戦です。野党第1党の立憲民主党をはじめ各野党も選挙公約を発表し始めていますから、自民総裁候補の主張とどう違うのかにも注目してください。政治を「自分ごと」として考えるよい機会です。

木之本敬介(朝日新聞社 就活コーディネーター)
プロフィル 木之本敬介(朝日新聞社 就活コーディネーター)

1986年入社。政治部記者、採用担当部長などを経て就職情報サイト「あさがくナビ」編集長。「朝日学生キャリア塾」を立ち上げて就活生の指導も。サイト「就活ニュースペーパーby朝日新聞」では就活に役立つ情報を日々発信中。大学などでの講義・講演多数。著書に「最強の業界・企業研究ナビ2017」(朝日新聞出版)がある。

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