2011年3月25日10時27分
放射能の飛散状況の推測結果を原子力安全委員会が23日夜、ようやく公表した。福島第一原発事故が起こってから、安全委員会が会見をしたのはこれが初めてだった。「総理および官邸に助言するのが第一」として、みずから会見はしなかったという。
しかし、放射能という目に見えない敵と日々闘っている人々がいま安全委に期待するのは、専門知識を生かしたアドバイスだ。「黒衣に徹している」(班目春樹委員長)場合ではない。世界中の専門家の力を借りながら、いまどう行動するのがいいのか、安全委は直接国民に語るべきだ。
23日に公表されたのは、原発から放出された放射性物質の広がり方を、地形や気象データを踏まえて予測するSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測)の試算結果だ。
米国やフランス、オーストリアなど海外の機関はこうした予測を事故直後から独自にインターネットで公開してきた。「日本にもSPEEDIがあるのだから、早く結果を公表すべきだ」という国民や専門家の声に押される形で、やっと公開に踏み切った。
安全委は「放出源がどうなっているかわからなかった」ことを、公表が遅れた理由にあげた。しかし、放出された放射性物質の種類や量が正確にわからなくても、大まかな広がり方がわかれば、余計な被曝(ひ・ばく)をしない対策を考えるときに助かる。
班目委員長は23日の会見で、今後は「モニタリングのポイント数を増やすのが第一」と述べた。予測の精度をあげるためだが、そんなことを「第一」にしてもらっては困る。予測結果が大まかなものであっても、それをいち早く人々のために役立てることの方が、はるかに大事だ。
原子力安全委員会は国の安全規制の基本方針を決め、首相を通じて関係省庁を指導する権限をもつ。経済産業省の組織である原子力安全・保安院による安全審査の妥当性をダブルチェックし、安全に万全を期す役割を担ってきた。
安全委の委員は5人。米国の原子力規制委員会(NRC)のように多くの研究者を抱え、強力な権限をもつ独立機関とは違うが、緊急時を想定した態勢は整えていた。
しかし、今回の事故ではそれが機能していない。国民は本当に困っている。
いまの危機的状況を打開するには、専門家の力を結集するしかない。専門家はみずから安全委に出向くときだ。漏れ続ける放射性物質の行方、人体への影響の度合い、国民へのリスクの伝え方などについてさまざまな分野の「知」を集め、その時々で最善のアドバイスをしてほしい。
内閣に危機管理監がいるように、安全委専属の危機管理監を任命することも考えてみるべきだ。(高橋真理子)