2011年5月25日15時1分
野生動物の被曝(ひばく)量から、環境への放射能汚染の実態や人への影響を調べるプロジェクトが進んでいる。福島県鳥獣保護センターが6月開始を目指し準備中だ。森にすむ野生動物の異変を早期にキャッチすることで、ひとの健康や暮らしにも影響がないか調べ、世界に情報発信していく。
県鳥獣保護センターは1982年に設立された。センター所長で獣医師の溝口俊夫さん(63)らは、けがや病気に侵されたクマやタヌキ、イノシシ、ハヤブサなど年間約400匹の治療を行っている。
被曝調査は、交通事故などで死んだり、有害駆除されたりした野生動物を対象に行う。年間数百匹程度を選び、ももの筋肉と肝臓を取り出して分析装置にかけ、セシウム137を中心に被曝量を調べる。すでにサンプル調査を始めており、10年程度の長期追跡を目指す。
調査は、NPO法人「ふくしまワイルドライフ市民&科学者フォーラム」の協力を得るほか、米国に本部を置く国際動物福祉基金とも連携する。
溝口さんによると、タヌキの行動半径は400〜800メートル、ニホンザルは2〜4キロなど、種によって異なる。野生動物は屋外で24時間過ごすため、1地点ではなく、面としての線量の影響がわかるという。
また、草食、雑食、肉食の動物の種類ごとに、食べ物による内部被曝の実態を調べれば、タケノコなどの山の恵みや森林環境への汚染状況もつかめると期待される。
福島県の7割は森林に覆われているが、放射能の汚染度調査は人が暮らす地域が中心。汚染は気象や地形の影響を受け、まだら状に広がっている。またセシウムは土とくっつきやすい。
原発から65キロ離れた大玉村にある同センター周辺では、アスファルト上の線量は毎時0.5マイクロシーベルトほどだが、一歩、森に入ると、3マイクロシーベルトを超える地点もある。
チェルノブイリ原発事故では、スイスの研究者が、事故が起きた86年から約20年間、欧州の原発周辺のカメムシなどの昆虫約1万6千匹を調べたところ、多い地域では30%に奇形が出たと報告している。しかし、原発事故による野生動物への影響の詳しい実態ははっきりしていない。
溝口さんは「森と人間の生活は密接にかかわっており、森での異変は、必ず人間にふりかかってくる。野生動物への影響を調べることで、人間の未来を占うことができる」と指摘する。(岡崎明子)