山田洋次監督の前作「小さいおうち」に出演し、ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受けた黒木華さん。「母と暮せば」でも重要な役を任された。原爆がもたらした母子の悲劇に託した山田監督の平和への思いを、どう受け止めたのか。

 原爆で死んだ医大生の浩二(二宮和也)は、母・伸子(吉永小百合)のもとに幽霊として現れる。浩二は婚約者だった町子(黒木華)に未練があり、町子も「浩二さんの妻です」と、独りになった伸子を支える。伸子は、町子の将来を思い、浩二に諦めるよう諭す。

 「『小さいおうち』では、行動を起こすのでなく、見守る役でした。今回は、自分も話を進めていく役柄ということもあってか、監督から細かい演出が多かったですね。リハーサルと本番でがらりと変わることもあり、わりと考え込んでしまって、対応するのが難しかった。二宮さんは本当に上手なんですが」

 「母と暮せば」では、町子には浩二は姿を見せない。恋人の母という、ちょっと遠回りな関係である伸子とのやりとりが大部分となった。

 「浩二さんのお母さんだから、というきっかけだったにせよ、(浩二が死んでから)伸子は町子が支えていたし、町子も伸子の存在に支えられていた。そういう関係になって、浩二のお母さんだからではなく、伸子と直接向き合っていく。本当の母でもあるような…ただ、そうとも言いがたいですかね、だって親子ではないですから」

 伸子は、町子に心底から感謝している。一方で、我が子を突然亡くした母親の悲しみは計り知れない。劇中では、伸子だけでなく、そうした母親のやりきれない思いがあふれ出し、ときに町子にも向けられる。原爆投下から3年たっても町子は生き残った負い目に苦しめられ、幸せになることを拒む。

 山田監督が今作を構想するきっかけになったのは、故・井上ひさしさんの戯曲「父と暮せば」だ。広島の原爆で亡くなった父親が、娘のもとに幽霊となって現れる。

 「吉永さんだからかもしれないですけど、二宮さんとの間に、ちょっと恋のような色っぽさがある。母は息子のことをすごく好きですから。でも、父と娘はそういうのないですよね。『父と暮せば』とは、そこに大きな印象の違いがあるかもしれません」

 黒木さんにとっての、母の存在を聞いてみた。

 「尊敬してます。ものすごくポジティブなんですよ。私はネガティブなので、助けられることが多くて。俳優が、仕事になるか分からないけど、もうちょっとやってみたい、と言ったときに、背中を押してくれました。私は東京に出てきたので、会わない時間が多いから、さみしいんだろうな」

 国際的な栄に浴し、大きな飛躍をもたらした山田監督は、黒木さんにはどう映るのか。

 「すごい紳士なんだけど、すごい子供っぽさも、そんな感じの方ですね。今の冗談だったんだ、というようなことを時々ふっとおっしゃるのが、面白くて」

 「山田監督の現場だ、と改めて思ったのは、時間があること。1日にワンシーンしか撮らないって、なかなかありません。余裕を持っていろいろなことに対して考える時間がある、山田監督だからこそのぜいたくな現場でした」

 山田監督は、孫ほど年齢が離れている二宮さん・黒木さんらに、戦争をどう伝えようとしたのか。

 「戦争を伝える世代は、ぼくたちでいなくなってしまう、とすごく気にされてました。監督から資料をたくさんいただきました。長崎で被災された方だったり、当時の様子だったり。『想像してくれ』とずっとおっしゃってました」

 戦争を経験した世代とのギャップは、決して埋まらない。そう自覚したうえで、どこまで思いをはせられるのか。「小さいおうち」では「戦争なんだから大変だったでしょ」と決めてかかる現代の若者に「そんなことなかった」とたしなめるシーンが出てくる。

 「戦争だから、原爆だから、でなく、そこにひとの生活があること。そこで、どう思い、どんなふうに考えたのか。そうやって自然とつらさが分かってくるのかもしれません」

 山田監督は、市井の人々をずっと描いてきた。それは、戦争という重いテーマでも変わることがない。黒木さんは、山田作品の印象をこんなふうに表現した。

 「ひとが生きている生活を、美しかったり、面白かったり、切なかったり、画(え)のなかで完結させるのが、すごくお上手だと感じます」

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