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2000.5.23~26

オランダ

 2000年5月23日、オランダの首都アムステルダム。戦没者記念碑が立つ広場には数千人が詰めかけていた。

 天皇、皇后両陛下が花輪を捧げて黙礼すると、広場を静寂と緊張が包んだ。1分あまりがたち軍楽隊が演奏を始めたが、それでも両陛下はさらに数十秒、頭を上げなかった。

 当時外務省欧亜局長だった東郷和彦さんは、「祈りの気迫が広場を支配していた」と振り返った。

 第2次大戦中に日本軍は、インドネシアで捕虜4万人と民間人9万人のオランダ系住民を強制収容所に抑留、多くの死者が出た。このためオランダでは反日感情が根強く残り、1971年の昭和天皇訪問の際には、車列に魔法瓶が投げつけられこともあった。

 00年の訪問でも、両陛下が戦没者記念碑に花輪を捧げた2時間後、抑留被害者や元捕虜らが周辺で抗議のデモ行進をした。欧州歴訪の一環で訪れたオランダへの旅は、歴史的な「過去」と対面する旅でもあった。

 ベアトリックス女王夫妻主催の晩餐(ばんさん)会で、天皇陛下は大戦中の「過去」に言及した。直前まで陛下自身も推敲(すいこう)を重ねた「おことば」で、「今なお戦争の傷を負い続けている人々のあることに、深い心の痛みを覚えます」と述べ、従来の表現より踏み込み、被害者一人ひとりの心情を思いやる意味合いを込めた。

 ベアトリックス女王も先立つスピーチで「日本国民も、特に終戦直前の大変な日々には、この悲痛な戦いの想像を絶する結果に見舞われました」と、日本人の被害について触れていた。

 晩餐会には元抑留者らも招かれ、天皇陛下と言葉を交わした。その一人は当時こう語っている。「痛みと苦しみは消えていない。でも、天皇訪問を、オランダと日本の未来の新たな関係へと踏み出す機会にしたい」

戦争による心の痛みを持ちつつ、両国の将来に心を寄せておられる貴国の人々のあることを、私どもは決して忘れることはありません。
ベアトリックス女王夫妻主催の晩餐(ばんさん)会で
2000年5月23日