出国ゲートまで、あと40m……。金正男氏の暗殺事件で犯行直後の生々しいやり取りの全貌が見えてきた。
体の変調を訴える正男氏。付き添った係員に「すみません。ゆっくり歩いてください」と語っていた。なんとか診療所にたどり着いたが、視野の狭まり、目の痛み、けいれんなどが同時多発。懸命な救命措置とは裏腹に心拍が弱まるなか、医師たちは「一か八か」の決断を下していた。
静かにつむった瞳や、八の字に広がった眉。いまにも寝息を立てそうな、穏やかな表情で横たえられていた正男氏の遺体。ただ、その口元には臨終間際の苦しみを物語る、かすかな痕跡が残されていた。
現地の医師が見逃さなかった「異変」。一歩間違えば闇に葬られていたかもしれない事件は、各国の諜報(ちょうほう)機関までもが調査に乗り出す国際的な大ニュースに姿を変えた。「異変」から導き出された容疑。それは「殺人」だった。