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オープニング

第2部:歴史変えた「うっかり」

北朝鮮の金正恩氏の兄、金正男氏の死は闇に消えて、世界に知られることならなかったかもしれない。歴史を変えたのは「地元警察のうっかり」だった。正男氏暗殺直後に起きていた「秘話」が明らかになった。

正男氏の主な遺留品

  • 北朝鮮のパスポート
    (少なくとも4枚)
  • 高級腕時計
  • 数珠型の
    ブレスレット
  • チェーン
  • 財布
  • 中国銀行の
    VISAカード2枚
  • マスターカード
  • ノート型パソコン
    (デル製)
  • iPhone
  • 携帯電話
    (ノキア製)
  • 医薬品
  • 米ドル
  • ユーロ
  • スイス
    フラン
  • 中国
    人民元
  • マカオ
    パタカ
  • 韓国
    ウォン
  • マレーシア
    リンギ
  • インドネシア
    ルピア
  • シンガポール
    ドル

第一章

第一章
医師の攻防「異変」を見逃さず

 出国ゲートまで、あと40m……。金正男氏の暗殺事件で犯行直後の生々しいやり取りの全貌が見えてきた。

 体の変調を訴える正男氏。付き添った係員に「すみません。ゆっくり歩いてください」と語っていた。なんとか診療所にたどり着いたが、視野の狭まり、目の痛み、けいれんなどが同時多発。懸命な救命措置とは裏腹に心拍が弱まるなか、医師たちは「一か八か」の決断を下していた。

 静かにつむった瞳や、八の字に広がった眉。いまにも寝息を立てそうな、穏やかな表情で横たえられていた正男氏の遺体。ただ、その口元には臨終間際の苦しみを物語る、かすかな痕跡が残されていた。

現地の医師が見逃さなかった「異変」。一歩間違えば闇に葬られていたかもしれない事件は、各国の諜報(ちょうほう)機関までもが調査に乗り出す国際的な大ニュースに姿を変えた。「異変」から導き出された容疑。それは「殺人」だった。

第二章

第二章
影武者?残された「鯉の入れ墨」

 暗殺された金正男氏は、影武者だったのでは――。そんな説の真偽を確かめる上で重要な手がかりになったのは、正男氏の特異な「入れ墨」だった。世界中が注視した遺体に残されていた「若武者」や「鯉」の絵柄は、いったい何を物語っていたのか。

 そもそも地元警察は、遺体の身元が分かっていなかった。遺留品のパスポートには「キム・ジョンナム」ではなく、「キム・チョル」という偽名が記載されていたからだ。

 では、なぜ遺体が正男氏だと判明したのか。身元判明のきっかけは、警察官の思いがけない「捜査ミス」だったことが分かった。ミスがあったことで、たまたま「キム・チョル死亡」の連絡を受けた関係者が、「それは一般の旅行者ではない大物だ」とマレーシア当局に警告し、捜査は急展開を見せた。

 一国の指導者の肉親が衆人環視の空港で殺された事件だけに、現地には世界の報道陣が殺到。想像を上回る過熱ぶりを見せた。スクープ映像をめぐる各国メディアの激しい取材攻勢。秘密流出を食い止めたい当局の情報統制は、記者を「手配」する事態にまで発展していった。

第三章
遺留品にあった「奇妙なもの」

 正男氏を死に至らしめたものは何だったのか。わずかな滴で命を奪う「猛毒」の痕跡を、遺体の目や尿の鑑定によって見つけ出した医師たち。7日間にわたった毒物鑑定の様子が明らかになった。

 一方、遠く離れた日本の拘置所で「猛毒」の名前を言い当てていた人物がいた。過去に毒物製造に関わり、死刑を言い渡されたその人が獄中から発したメッセージ。「私のやったようなことを他の人にやって欲しくない」。そう書き残したのは、死刑執行の4日前のことだった。

 遺留品からは現地の捜査員も驚く「とても奇妙なもの」が見つかっていた。デルのPCや4枚のパスポートに加え、痛風の薬など正男氏の暮らしぶりをうかがわせるものも。

 中でも目を引いたのは大量の米ドル札。ほぼ新札で1400万円近くあった。当局の調べでは、正男氏が銀行で現金を引き出した記録は見つからなかったという。誰が、正男氏に大金を渡したのか。捜査で見えてきたのは、ある人物と正男氏の秘められた関係。事件直前の2人の密会が、暗殺の引き金になった可能性が浮かび上がってきた。

エンディング

 2017年2月の事件発生後、捜査当局は女2人を起訴し、指示役とされる北朝鮮の男ら8人の名前を公表した。ところが北朝鮮の8人は事件後に全員出国。北朝鮮当局は捜査に協力せず、容疑者の引き渡しに応じていない。真相解明が難しくなる中、女2人の裁判が続いている。

北朝鮮に向けて運び出される正男氏のひつぎ

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