実行犯として逮捕されたフォンのふるさとは、のどかなベトナム北部の農村部にあった。そこでフォンは、5人兄妹の末っ子として育てられた。継母は「ネズミや虫も怖がるような、優しい子でした」と振り返る。順風満帆だった人生の歯車が狂い始めたのは、芸能界入りを目指して都会で暮らすようになってからだ。
東アジア風の男が声をかけてきたのは、事件の約7週間前だった。韓国の撮影会社のカメラマンだと言う男は、「ミスターY」と名乗った。フォンがアイドル志望であることを見透かしたように、好条件の「いたずら番組」の出演話を持ちかけてきた。
フォンに演技を指導し、動画を撮影して番組を作るカメラマン。そんなミスターYの肩書は、全くのでたらめだった。後の捜査で明らかになったミスターYの国籍は「北朝鮮」。ベトナム語をりゅうちょうに操る、「工作員」だった疑いが浮上した。