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オープニング

第4部:犯行ためらった「実行犯」

実行犯として逮捕されたインドネシア人のシティ・アイシャ(27)は、マレーシアでマッサージ店員として働く出稼ぎ労働者だった。実家に仕送りをしながら働く彼女を、北朝鮮の工作員グループは、どうやって実行犯に育て上げたのかーー

別々の国に住んでいた金正男氏と実行犯2人は、事件が近づくにつれ、見えない力に引きつけられるように接近し、2017年2月13日午前9時、ついにクアラルンプール国際空港の自動チェックイン機前で鉢合わせた。交わるはずのなかった3人の運命の糸を裏で操り、たぐり寄せていたのは、北朝鮮の工作員たちだった。

事件当日までの足取り

    • 金正男

    • シティ

    • フォン

      スクロールで次の場面へ

      第一章
      工作員が好きだった実行犯

       金正男氏に毒を塗って殺害したとして逮捕されたシティの実家は、インドネシアのジャワ島にあった。ヤシの実を売る露店や家畜小屋が並ぶ村を記者が訪ねると、モスクからお祈りを呼びかけるアザーンの音が響いてきた。敬けんなイスラム教徒である父アスリアさんが、幼い頃のシティの様子を語ってくれた。

       貧しさから進学をあきらめたシティは、都会で住み込みで働き、実家に仕送りをしなければならなかった。10代での結婚、働きながら出産、思いがけぬ離婚……。シティは、そんなつらい過去をぬぐい去るように、偽名を使って働くようになったと、当時を知る人たちは語った。

       やがてシティは、実入りのいい仕事を求めてマレーシアに渡り、「ケリー」と名乗って夜の街に繰り出すようになった。ある夜、一人の男がシティに近づいた。「いたずら番組に出ないか?」「出演料を払う」。甘い言葉で素人を引っかけ、実行犯として鍛え上げる。そんな北朝鮮の暗殺工作の実態を、本編で詳細に分析した。

      第二章
      カメラは見た、直前の密談

       実行犯シティは事件直前、現場近くのカフェで犯行の打ち合わせをしていたことが分かった。シティが座ったのは、カフェの中ほどにある15番テーブル。そのテーブルの真上に据え付けられていた監視カメラ映像を取材で入手すると、ターゲットの特徴や毒の塗り方を伝える工作員の様子や、それを食い入るように見つめるシティの姿が映っていた。未公開の密談の一部始終が明らかになった。

       さらに、逮捕されたシティの供述調書や、拘置所での面談記録も新たに入手した。その中でシティは、事件後に襲った原因不明の体調不良や、工作員との密接な関係などを、包み隠さず赤裸々に語っていた。自らに不利に働きかねない内容までシティが周囲に語ったのは、なぜだったのか。本編で読み解いた。

      第三章
      迫る死刑、土壇場の釈放

       実行犯シティは、工作員の責任まで負う形で、死刑となってしまうのか。約2年にわたって繰り広げられた法廷闘争は、目を疑うようなどんでん返しの連続だった。

       検察に「まるでジェームズ・ボンドの映画を見ているようだ」とまで言わしめた難解な事件捜査と、その後の立証手続き。検察の証拠を調べた裁判所は、ジェームズ・ボンドを凌駕するような想像力を働かせ、大胆な判断を示して法廷をざわめかせた。

       20代の貴重な2年間を牢屋で暮らしたシティは、突然告げられた釈放を、どう受け止めたのか。本編では、釈放の裏でうごめいた政治的な取引と、司法が見せた忖度にも切り込み、世界を揺るがせた事件の総決算とも言える裁判のてんまつを解説した。

      エンディング

       2017年2月の事件発生後、捜査当局は実行役の女2人を起訴し、指示役とされる北朝鮮の男ら8人の名前を公表した。ところが北朝鮮の8人は事件後に全員出国。北朝鮮当局は捜査に協力せず、容疑者の引き渡しに応じていない。真相解明は難しくなっている。

      北朝鮮に向けて運び出される正男氏のひつぎ