金正男氏に毒を塗って殺害したとして逮捕されたシティの実家は、インドネシアのジャワ島にあった。ヤシの実を売る露店や家畜小屋が並ぶ村を記者が訪ねると、モスクからお祈りを呼びかけるアザーンの音が響いてきた。敬けんなイスラム教徒である父アスリアさんが、幼い頃のシティの様子を語ってくれた。
貧しさから進学をあきらめたシティは、都会で住み込みで働き、実家に仕送りをしなければならなかった。10代での結婚、働きながら出産、思いがけぬ離婚……。シティは、そんなつらい過去をぬぐい去るように、偽名を使って働くようになったと、当時を知る人たちは語った。
やがてシティは、実入りのいい仕事を求めてマレーシアに渡り、「ケリー」と名乗って夜の街に繰り出すようになった。ある夜、一人の男がシティに近づいた。「いたずら番組に出ないか?」「出演料を払う」。甘い言葉で素人を引っかけ、実行犯として鍛え上げる。そんな北朝鮮の暗殺工作の実態を、本編で詳細に分析した。