三浦雄一郎 南米最高峰に挑む

スクロール

三浦雄一郎極地に挑む-アコンカグア
プロスキーヤー三浦雄一郎さん(86)が南米最高峰アコンカグア(標高6961メートル)の登頂とスキー滑降をめざしている。高所の寒さをはじめとする過酷な環境にどう挑むのか。三浦さんが着るウェアや遠征で使う道具、支える遠征隊のメンバーから迫った。

登頂ルートは変更になる可能性がある

極地に備える

アコンカグアは、南米大陸を縦に貫くアンデス山脈にあり、アルゼンチンのチリ国境付近に位置する。標高は6961メートル。標高が1千メートル上がると、気温は約6度下がるとされ、山頂は地上0メートルより約40度気温が低い計算になる。気圧も下がり、酸素の量は地上の5割を切る。南半球にあるので遠征時の季節は夏だが、雪も降る。日差しが照れば気温は上昇し、風が強く乾燥している。「ビエント・ブランコ」(白い嵐)と呼ばれる特有の現象もある。強風が吹き荒れ、凍傷や低体温症となって危険性が増す。

ウェア

標高7千メートル近いアコンカグアの頂上の気温は平地より40度も低くなる。地上が20度であれば、零下20度前後。極寒の頂に登るために、何を、どう、身にまとっていくのか。
ベースレイヤー 国内の低い山でも海外の高峰でも、登山用の衣類は速乾性素材が基本だ。汗や蒸れがすぐに乾かないと、体温が奪われるからだ。寒い環境になれば、保温性も必要になる。肌に触れるものとしては、上下の全身タイツのようなアンダーウェアを身につける(ズボンは登山用のものをはいている)。
ミッドレイヤー ベースレイヤーの上に重ね着する。写真の三浦さんは上下ともフリースを着ているが、薄手のダウンウェアを着ることもある。アウターウェアを着るときは、内側で保温の機能を果たす。ただ、何を着るかは気温や天候に左右される。環境に適した衣類を選ぶことがポイントだ。
アウターウェア 防水・防風性を兼ね備えたジャケットとパンツになる。内側の蒸れを防ぐため、ゴアテックスなど透湿性も必要になる。ミッドレイヤーなどで着込むことも踏まえ、三浦さんはゆったりとしたサイズを用意している。気温次第では、このウェアで頂上をめざすこともある。
エクスペディションウェア 地上よりも40度気温が低い計算になる標高7千メートルを想定したダウンウェア。アウターウェアを着て、さらにその上に着込むことをイメージしている。強風や吹雪に耐え、命を守るための装備だ。さらに標高8千メートルを想定した場合は、上下つなぎ式のウェアもある。
三浦雄一郎の登山装備

道具

三浦さんの挑戦を支える道具は、いったいどんなものなのか?(写真はすべて三浦さん所有の道具)
スノーシャベル 雪山登山のとき、テントサイトをつくる、ビバーク時に雪洞(せつどう)を掘る、雪崩事故のときの捜索に使う、など用途は多様。軽さが重要で、ザックに入れやすいように柄は分離できる。写真のモデルは緊急時にスキーと組み合わせてそりになる。
ピッケル 雪山を登るときには必ず持つ。バランスを取る役目のほか、ロープを使って登山者同士が安全確保しながら登るとき、雪面に刺して支点にすることも。滑落したときのブレーキにも使う。
ハンマー 岩登りなどで、支点を壁に埋め込むときに使う。
ユマール 雪の急斜面などに固定ロープを張ったうえで登るとき、ロープに通して、少しずつずらしながら登る。反対側は自分のハーネスにつなげる。ユマールは上には動くが下には動かない構造なので、手を離したり、転んだりしても落ちていくことはない。
  • ユマール説明図1
  • ユマール説明図2
テントシューズ テント内で足が寒いときに履く。
高所登山用の靴 雪山を想定すると防水性が必須。そのうえで、高所になると末端で冷えやすい足先を寒さから守る必要があるため、保温性も求められる。凍傷になる恐れもあるためだ。三浦さんの靴は三層構造で軽さも抜群。ひもを使用せず、二層目はダイヤル式で足首を締め、外側はファスナーで締める。
スキー一式 山スキーの場合は同じ道具で登りも滑りも対応するが、今回は登山とスキーの装備を分け、スキー用ブーツと板は現地ポーターが山頂まで運ぶ予定。このため、ゲレンデでも使えるタイプの板とブーツ、ビンディングのセットになる。板は山で滑ることを考えて、幅は広めで、運ぶことを想定して軽さも必要となる。
ストック ストックはスキーだけでなく、一般登山でも有用だ。登りと下りで長さを変えることや行き帰りの持ち運びを考え、伸縮式を使う。
電熱線入りゴーグル ゴーグルレンズの外は寒く、体に近い側は温かくなるので、その温度差が結露を起こし、ゴーグルを曇らせてしまう。いったん曇ると、吹雪の中などでは視界の確保に苦労する。電熱線入りのゴーグルは、ゴーグルのレンズが発熱することで、曇ることを防いでいる。
ヘルメット 登山やスキー滑降のときにかぶり、落石や転倒した際などに頭部を守る。
シュラフ(寝袋、スリーピングバッグ) しっかりと睡眠をとって、次の日に疲れを残さないことが大事だ。高所では夜や未明の寒さは過酷だ。ダウンを使った寝袋で温かさを確保する必要がある。各メーカーとも想定した使用温度を示しており、氷点下の環境に対応した厚手の素材を使う。
マット(スリーピングマット) テント生活のときにテント内に敷く。エアマットは寝心地は良いが、重くなる。蛇腹式の銀のマットはかさばるが軽い。
AED 自動体外式除細動器。三浦さんに不整脈の持病があり、万一に備える。
  • 平出和也さん
  • 中島健郎さん
  • 三浦豪太さん
  • 三浦雄一郎さん
  • 倉岡裕之さん
  • 大城和恵さん
  • 貫田宗男さん

遠征隊

全員がエベレスト登頂者で、三浦さんの挑戦を支える。
平出ひらいで 和也かずや さん カメラマン(映像担当) アルパインクライマー、山岳カメラマン。優れた登攀(とうはん)実績から、登山界のアカデミー賞と言われるフランスのピオレドールを2度受賞。
中島なかじま 健郎けんろう さん 登攀サポート(記録、食糧、装備担当) 山岳カメラマン。テレビ番組の登山企画でカメラマンなどを経験。2018年に平出さんとともにピオレドールに輝く。
三浦みうら 豪太ごうた さん 副隊長(生理モニター、通信、記録、食糧、会計、装備担当) プロスキーヤー。2大会連続でモーグル五輪代表。雄一郎さんの3度のエベレスト遠征に同行し、2度登頂。冬季スポーツでの独特の解説も。
三浦みうら 雄一郎ゆういちろう さん 隊長
倉岡くらおか 裕之ひろゆき さん 登攀リーダー(ロジスティクス 写真担当) 山岳ガイド。エベレスト登頂9回は日本人最多。アコンカグアの登頂は12回を数え、海外の山でのガイド経験が多数ある。
大城おおしろ 和恵かずえ さん チームドクター(医療担当) 医師。登山経験を生かし、国際山岳医の資格を持つ。18年、日本人女性医師としては初めてエベレスト登頂を成功させる。
貫田ぬきた 宗男むねお さん 遠征ロジスティックス(現地リレーション、通信担当) ウエック・トレック顧問。1995年に日本初の山岳コンサルタント会社として同社を立ち上げた。海外登山のサポートの経験が豊富。
  • 記録を更新する

  • 1964年/31歳

    滑降時速を競うイタリアのキロメーターランセに日本人初の参加、時速172キロメートル超の世界新記録

  • 1966年/33歳

    富士山直滑降を成功させる

  • 1985年/53歳

    7大陸最高峰スキー滑降達成

  • 2003年/70歳

    世界最高峰エベレスト(8848メートル)登頂、同峰の最高齢登頂記録を更新

  • 2013年/80歳

    3度目のエベレスト登頂に成功し、史上最高齢記録を更新

  • 2019年/86歳

    南米最高峰アコンカグア登頂とスキー滑降に挑戦

1月2日に日本を出発した三浦さんは現地時間3日にアルゼンチン入りした。滞在地の高度を徐々にあげて高度に体を慣らしながら、標高4200メートルのベースキャンプへ。さらに標高5300メートルの峠までヘリで移動して体力を温存し、山頂を目指す。「やるだけやって、途中であきらめるかもしれないが、でも限界までがんばって、その限界が頂上であれば、これ以上ないすばらしいことだ」。老いと病という自らの弱さを自覚している86歳の挑戦だ。

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