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「意地を通せば窮屈だ。兎角(とかく)に人の世は住みにくい」「人間万事塞翁(さいおう)が馬」「ケセラセラ」
マラウイ、ザンビアを巡る今回は、いつものドタバタがないじゃないか。そう思われるかもしれない。ドタバタばかり書く自分に嫌気が差して、書いていなかっただけ。とほほ、な事態は次から次に起きる。
で、以前も書いたと思う冒頭のありがたい言葉を唱えてやり過ごす。いいじゃないか。ふっかけられたって、うそをつかれたって、ガソリン代をだましとられたって、安請け合いを信じて結局たどりつけなかったって、出発しようとして車が動かなくたって。
たいしたことじゃない、誤差の範囲、ノープロブレム。第一これらはマラウイの話で、もう遠い過去だ。
前回、ジンバブエを追われた白人農場主がザンビアの農業の躍進に一役買っていることを書いた。そういう農場主を訪ねてみたい。幸い、メールアドレスがわかった人がいたので送ってみた。風に吹かれているとは書かずに、取材させてほしいと書いたら、いらっしゃい、と返事がきた。
ジェームズ・チャンスさん(46)は10年前、ジンバブエを追われてザンビアに住み着いた。ジンバブエでは自分の畑にたばこ、小麦を育て、牛も飼った。曽祖父の代からジンバブエに住み、自分はジンバブエ人だと思っていた。それが、何の見返りもなく家土地を奪われ、祖国を追われた。
ザンビアに土地を借り、一番得意なたばこづくりに取り組んだ。かんがい用のダムをつくり、畑に水をひき、電気も幹線道路沿いから7キロ引き込み、一から出直した。最初の1、2年はどうにもならなかったが、5年目になって何とかなると思った。10年たって、畑はジンバブエに持っていたのとほぼ同じ広さの1840ヘクタールになった。借金も完済した。
という人なのだが、首都ルサカからは300キロあまり離れている。この辺で、トラブルのにおいをかぎつけなければいけない。でも、ドタバタ慣れというのは双曲に作用する。危機を感知する感覚が研ぎ澄まされる場合と、鈍磨してしまう場合と。
5時間ほどと考え、約束の時間の1時間前には着くように出発した。道路はまあまあ。やはり冬枯れのような風景だけど、遠くに巨大スプリンクラーを備え青々とした畑も見える。
約束の時間まであと2時間で残り60キロまで来たとき、車が異音を発し始めた。そう、たいていあと少しというときに不具合は起きる。ごたぶんに漏れず、振動も加わり、音は大きくなる。運転手も「このまま行くのは危険だ」と言い出した。近くにバトカという町があったので、そこの車工場に寄った。
すぐ直ると言っているうちに、1時間たった。このままだと約束の時間に間に合わないので、運転手にはそこで修理しているように頼んで、地元の人に別の車を手配してもらった。
幹線道路から土の道に入って14キロ、そこからさらに別の土の道に入って3キロ、ブタがたくさんいるから、そこからさらに折れて5キロ、と教わったが、それって、カラスの止まっている木を右折するというたぐいだ。迷って結局、農場に着いた時、約束の時間を30分過ぎていた。
61年生まれ。社会部をへて00年代、ナイロビ、ニューヨーク支局に勤務。バルカン半島、中東、アフリカ各地の紛争取材を経験しつつ、小心さは変わらない。動作が緩慢でのんきに見えるが、気は短い。趣味は散歩。しばしば二日酔い。だめトラファン。