核なき世界 模索の8年 - オバマ米大統領、広島へ

オバマ米大統領がプラハ演説で掲げた核廃絶。米国・ロシアが戦略核を減らす新たな条約を締結するなど、機運は高まりを見せた。だが、シリア情勢をめぐる緊張やウクライナ危機で米ロ関係は悪化し、北朝鮮も核実験を続けている。残りの任期が1年を切ったオバマ大統領は、現職として初めて広島を訪れた。理念と現実が交錯した8年をたどる。

2016年5月27日

オバマ米大統領、広島訪問

オバマ米大統領が広島市の平和記念公園を訪れ、原爆死没者慰霊碑で献花した後に演説した。 【写真】演説するオバマ氏=代表撮影

71年前、明るく、雲一つない晴れ渡った朝、死が空から降り、世界が変わってしまいました。閃光と炎の壁が都市を破壊し、人類が自らを破滅させる手段を手にしたことを示したのです。なぜ私たちはここ、広島を訪れるのか。私たちはそう遠くない過去に解き放たれた恐ろしい力に思いをはせるために訪れるのです。(演説抜粋)

1945年8月6日午前8時15分、米軍は約35万人が暮らしていた広島市に原子爆弾を投下、街は焦土と化した。9日午前11時2分、約24万人が住んでいた長崎市にも原爆を落とした。その年末までに広島で約14万人、長崎では約7万人が亡くなった。

1945年8月6日

1945年8月9日

1945年8月6日

広島に原子爆弾投下

爆心地

4km

4km

1945年末までの死者

3

3

2

2

1

1

広島駅

広島駅

広島県庁

広島県庁

御幸橋

御幸橋

広島湾

広島湾

…全壊全焼地域

…全壊全焼地域

地名や場所は当時のまま

地名や場所は当時のまま

1945年8月9日

長崎に原子爆弾投下

爆心地

3km

3km

1945年末までの死者

2

2

1

1

浦上天主堂

浦上天主堂

稲佐山

稲佐山

長崎駅

長崎駅

眼鏡橋

眼鏡橋

長崎港

…全壊全焼地域

地名や場所は当時のまま

この空に立ち上ったキノコ雲のイメージのなかで最も、私たちは人間性の中にある根本的な矛盾を突きつけられます。私たちを人類たらしめているもの、私たちの考えや想像力、言語、道具をつくる能力、自然を自らと区別して自らの意思のために変化させる能力といったものこそが、とてつもない破壊能力を私たち自身にもたらすのです。
物質的な進歩または社会的革新によって、私たちは何度この真実が見えなくなるのでしょうか。どれだけたやすく、私たちは何かより高い大義の名の下に暴力を正当化してきたでしょうか。あらゆる偉大な宗教が愛、平和、公正への道を約束しています。しかし、いかなる宗教も信仰が殺戮の許可証だと主張する信者から免れていません。国家は人々を犠牲と協力で結びつける物語を伝え、顕著な業績を可能にしながら台頭します。しかし、それらの同じ物語は、幾度となく異なる人々を抑圧し、その人間性を奪うために使われてきました。

【写真】被爆者の坪井直さんと握手し、言葉を交わしたオバマ米大統領=AP

私たちはここに、この街の中心に立ち、原子爆弾が投下された瞬間を想像しようと努めます。目にしたものに混乱した子どもたちの恐怖を感じようとします。私たちは、声なき叫びに耳を傾けます。私たちは、あの恐ろしい戦争で、それ以前に起きた戦争で、それ以後に起きた戦争で殺されたすべての罪なき人々を思い起こします。
いつか、証言するヒバクシャ(被爆者)の声が聞けなくなる日がくるでしょう。しかし、1945年8月6日の朝の記憶を薄れさせてはなりません。その記憶は、私たちが自己満足と戦うことを可能にします。それは私たちの道徳的な想像力を刺激し、変化を可能にします。

【写真】被爆者の森重昭さんを抱き寄せるオバマ米大統領=高橋雄大撮影

普通の人はもう戦争を望んでいません。科学の驚異は人の生活を奪うのでなく、向上させることを目的にしてもらいたいと思っています。国家や指導者が選択をするにあたり、このシンプルな良識を反映させる時、広島の教訓は生かされるのです。
世界はここで、永遠に変わってしまいました。しかし今日、この街の子どもたちは平和に暮らしています。なんて尊いことでしょうか。それは守り、すべての子どもたちに与える価値のあるものです。それは私たちが選ぶことのできる未来です。広島と長崎が「核戦争の夜明け」ではなく、私たちが道徳的に目覚めることの始まりとして知られるような未来なのです。

オバマ米大統領の演説全文へ

【写真】原爆死没者慰霊碑の前に立つオバマ米大統領(右)と安倍晋三首相(左)=AFP時事

2009

2009年1月20日

オバマ氏 第44代米大統領就任

2009年4月5日

北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射

2009年4月5日

2009年5月25日

2009年4月5日

オバマ氏「核なき世界」を提唱

オバマ米大統領がチェコの首都プラハで演説。数万人の市民を前に提唱したのは「核なき世界」だった。「米国は、核兵器を使ったことがある唯一の核兵器国として、行動する道義的責任がある。私は、核兵器のない世界の平和と安全保障を追求するという米国の約束を表明する」核廃絶への国際的な制度強化を米国が主導する考えを表明したが、「核兵器が存在する限り、敵を抑止するための、効果的な核戦力を維持する」とも述べた。核実験の世界規模での禁止に向けては、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を目指すと表明。北朝鮮やイランのような核不拡散体制でのルール違反の国への対応として、罰則強化に取り組む考えも示した。「人類の運命は我々自身が作る。我々の分断に橋をかけ、世界を、我々が見いだした時よりも平和なものにして去る責任を引き受けよう。共にならば、我々にはできるはずだ」

2009年5月25日

北朝鮮が2回目の核実験

北朝鮮が06年10月以来、2回目の核実験を強行した。オバマ米政権との直接対話を求めてきた中で、核実験という最も強硬な対応に踏み切った。国連安全保障理事会は6月、北朝鮮に対する新しい制裁決議を全会一致で採択した。

【写真】チェコの首都プラハで「核なき世界」への道を高らかに演説したオバマ米大統領=ロイター

2009年9月24日

2009年12月10日

2009年9月24日

CTBT会議に米国参加

包括的核実験禁止条約(CTBT)は我が国の核不拡散と核軍縮の不可欠な部分(クリントン米国務長官)

CTBTを批准していない米国が、ニューヨークで開かれたCTBT発効促進会議に10年ぶり参加した。米国の代表はクリントン国務長官。条約早期発効へ決意を表明し、「今後数カ月、米上院に批准への同意を求める」とも語ったが、上院の同意は得られなかった。

2009年12月10日

オバマ氏にノーベル平和賞

曇りなき目で見れば、これからも戦争があるだろうことを理解しつつ、平和を追求することはできる。(オバマ氏)

核軍縮や地球温暖化問題で国際的指導力を発揮したとして、オバマ氏がノーベル平和賞を受賞した。「正義として持続する平和」と題した受賞演説では、ガンジーやキング牧師ら先人が唱えた非暴力の理想を評価。「あるべき世界をめざそう」と呼びかけた。受賞に対しては「成果を伴っていない」との批判もあった。オバマ氏は「私の世界の舞台での仕事は始まったばかりで、歴史上の巨人に比べて成果はわずかだ」と認めた。

世界の核兵器の数

2009年

特集:世界の核兵器、これだけある

  • ロシア
    5527
  • 米国
    5133
  • フランス
    300
  • 中国
    240
  • 英国
    225
  • イスラエル
    80
  • パキスタン
    80
  • インド
    70
  • 北朝鮮
    <10

2010

2010年4月8日

2010年4月12日

2010年4月8日

米ロが新STARTに署名

オバマ氏とロシアのメドベージェフ大統領が新たな核軍縮条約に署名した。米ロの戦略核をそれぞれ1550発以下に削減する内容だ。署名式の舞台は、オバマ氏が「核なき世界」演説を行った広場を望むプラハ城。オバマ氏は、戦術核や保管中の核兵器を含めた削減を進める考えを示し、メドベージェフ氏は「数カ月前には不可能と思われたが最終的に署名できた」と強調した。11年2月に両国が批准書を交換して条約は発効した。

【写真】プラハで8日、新たな核軍縮条約に署名したオバマ大統領(左)とロシアのメドベージェフ大統領=ロイター

2010年4月12日

初の核保安サミット開催

オバマ米大統領が呼びかけた核保安サミットが初めて開催された。47カ国が参加し、高濃縮ウラン放棄といった各国の取り組みや、核テロ防止に向けた国際的な枠組みの強化などで合意した。

2010年5月3日

2010年9月15日

2010年5月3日

NPT再検討会議

米国の軍縮努力を疑う国もあるが、我々が行ってきたことを示し、明確なメッセージを送りたい(オバマ氏)

「プラハ演説」後では初めてとなる核不拡散条約(NPT)再検討会議が国連本部で開幕。クリントン米国務長官が初日の演説で、米国が保有する核弾頭数を公表する方針を表明した。演説後、米国防総省は攻撃に使用できる5113発の核を09年9月末時点で保有していると発表。長らく非公表としてきた米国にとって、方針の大転換だ。会議は28日に核廃絶への具体的措置を含む行動計画を盛り込んだ最終文書を全会一致で採択。再検討会議での文書採択は10年ぶりだ。核兵器そのものを不法と見なす「核兵器禁止条約」についても、「条約の交渉検討の動きに注目する」と文書で言及された。

2010年9月15日

米国が未臨界実験

核爆発を伴わない未臨界核実験を米国が実施した。実験は06年8月以来4年ぶりで、オバマ政権下では初めて。米国は、あらゆる核実験を禁じるCTBTの批准を目指す一方、未臨界実験は同条約に違反しないとの立場だ。米国はクリントン政権下の97年に初めて未臨界実験を実施し、今回は24回目。ブッシュ前政権は10回行った。ロシアも同様の実験をしている。

【写真】オバマ米政権が新しいタイプの核兵器性能実験に利用している「Zマシン」。核物質の劣化度を調べる新型実験は、2010年から繰り返されている=米エネルギー省サンディア国立研究所提供

2010年11月2日

米国の中間選挙で与党・民主党が敗北

2010年11月23日

北朝鮮軍、韓国の延坪島に砲撃。韓国側に兵士2人、民間人2人の死者

2011

アラブの春

2010年末にチュニジアの青年が警察へ抗議して焼身自殺したのをきっかけに中東に広がった民主化運動。チュニジアではベンアリ大統領が11年1月に国外脱出し、23年続いた強権政権が崩壊した。2月には30年にわたり政権の座についていたエジプトのムバラク大統領が辞任。リビアで独裁政権を42年間続けたカダフィ氏は、10月に反カダフィ派に拘束された際に死亡した。反体制運動はシリアにも波及したが、住民の抗議デモをアサド政権が弾圧し、政権軍と反体制派による内戦に。米ロ主導で16年2月に発効した停戦合意も崩壊の危機にあるとされている。 アラブの春 【写真】カイロで29日、反政府のスローガンを叫ぶ数千人規模のデモ参加者たち=ロイター

2011年1月14日

チュニジアのベンアリ政権が崩壊

2011年2月11日

エジプトのムバラク政権が崩壊

2011年3月11日

東日本大震災が発生。福島第一原発事故

2011年5月1日

ビンラディン容疑者を米軍特殊部隊が殺害

2011年10月20日

リビアのカダフィ政権が崩壊

2012

2012年3月4日

ロシア大統領選でプーチン首相が圧勝

2012年4月11日

金正恩氏が朝鮮労働党第1書記に

2012年11月6日

オバマ米大統領が再選

2012年11月15日

習近平氏が中国共産党総書記に

2013

2013年2月12日

2013年6月19日

2013年2月12日

北朝鮮が3回目の核実験

北朝鮮が3回目の地下核実験。朝鮮中央通信は「これまでより爆発力が大きく、小型化、軽量化した原子爆弾を使った」と伝えた。国連安保理は3月7日、制裁決議を全会一致で採択。過去3度の制裁決議に基づく制裁を大幅に強化する内容で、決議案は米中が協議して作成した。

2013年6月19日

オバマ氏、核削減へ新指針

どんなに遠い夢だとしても、核なき世界を目指す(オバマ氏)

オバマ氏がベルリンで演説し、ロシアとの新STARTで定められた戦略核弾頭の配備数をさらに3分の1減らし、将来的に1千発程度にする新たな指針を表明した。1963年にケネディ米大統領が歴史的な演説をしたベルリンで自らの理念を世界に表明することで、核軍縮の機運を再び高める狙いがある。

2013年10月21日

2013年11月24日

2013年10月21日

「核不使用」声明に日本が初賛同

いかなる状況においても、核兵器が二度と使用されないことが人類の生存そのものにとって利益(共同声明)

核兵器の非人道性と不使用を訴える国連総会第1委員会の共同声明に日本が初めて賛同した。共同声明はニュージーランドなど16カ国が主導してまとめ、日本を含む計125カ国が賛同した。だが、米英仏ロ中やインド、パキスタンなどの核保有国は賛同しなかった。

2013年11月24日

イランへの制裁、一部緩和

外交がより安全な世界への新たな道を開いた(オバマ氏)

イランと米英独仏中ロの6カ国が、イランがウラン濃縮活動などの核開発を縮小し、見返りに同国への制裁を一部緩和する「第1段階の措置」に合意した。イランのロハニ大統領は「政権の目標は世界との協力だ。協力は信頼を通してのみ可能になる。今日がその第一歩だ」と述べた。

【写真】ジュネーブで24日、イランの核問題をめぐる合意を受けて握手する米国のケリー国務長官(右)とイランのザリフ外相=ロイター

2014

2014年3月18日

ロシアがクリミア編入。ロシアのプーチン大統領が条約署名

ウクライナで14年2月、親ロシア路線に抗議する市民に治安部隊が発砲。当時の大統領が逃亡するなどの混乱の中、親欧州路線の政権が発足した。ロシアは「欧米が扇動したクーデターだ」と反発し、住民投票でロシア編入の賛成票が9割を超えたウクライナ南部のクリミアを併合した。

2015

2015年2月1日

「イスラム国」(IS)が日本人を殺害したとする映像を公開

2015年3月15日

2015年5月22日

2015年3月15日

プーチン氏「核使用への準備、検討した

核使用への準備を進めることを検討した(プーチン氏)

ロシアのプーチン大統領が、14年3月にウクライナからクリミア半島を併合する過程で、核兵器使用の準備を進めることを検討していたことが明らかになった。ロシア国営テレビのドキュメンタリー「クリミア、祖国への道」のインタビューで発言した。クリミア情勢がロシアに思わしくない方向に向かった際、核戦力を臨戦態勢に置く可能性があったかを聞かれて「我々はそうする用意ができていた」と答えた。プーチン氏は「世界的な紛争を引き起こしたい者がいるとは考えていなかった」とも付け加え、実際に臨戦態勢をとる必要はないと予測したことも強調した。

2015年5月22日

NPT再検討会議、最終文書採択できず

努力を尽くしたが、会議は最終文書を採択できなかった(NPT再検討会議フェルキ議長)

NPT再検討会議が、議論の成果をまとめた最終文書を採択できないまま閉幕した。米国や英国などが、中東非核地帯構想を記した部分を理由に最終文書案に不同意を表明。事実上の核保有国とみられるイスラエルに、同盟国である米国が配慮した形だ。約1カ月にわたる会議では、核保有国と、核軍縮の停滞にいらだつ非保有国との溝も埋まらなかった。エジプトは「数カ国が、特に米国が最終文書の採択を止めた」と批判した。

【写真】ウクライナ東部ドネツクの丘で休息する親ロシア派の兵士。ウクライナ軍と戦闘の渦中にあった=2014年8月28日、ロイター

2015年7月1日

米国とキューバが54年ぶりに国交を回復

2015年7月14日

2015年7月14日

イラン核協議、最終合意

イランの核兵器への全ての道は断たれた(オバマ氏)

イランの核問題をめぐり、米英独仏中ロ6カ国とイランが問題解決への「包括的共同行動計画」で最終合意した。02年にイランのウラン濃縮が発覚し、核開発が疑われた問題は、13年かかって妥協点を見いだした。イランは10年以上にわたり核開発を大幅に制限し、軍事施設への査察も条件付きで受け入れる。核不拡散条約(NPT)体制のもと、外交交渉で新たな核兵器保有国ができるのを防ぐ歴史的な合意となった。

【写真】イラン核協議が最終合意し、記念撮影する米英独仏中ロ6カ国とイラン、EUの代表

2015年11月14日

パリで同時テロ 130人が犠牲

2016

2016年1月6日

2016年4月1日

2016年1月6日

北朝鮮が4回目の核実験

北朝鮮が4回目の核実験で「朝鮮で初の水素爆弾実験を成功させた」と発表した。日米韓は北朝鮮に水爆を保有する技術はないと分析してきたが、北朝鮮は「小型化された水爆の威力を科学的に証明した」と強調した。

2016年3月31日

任期最後の核保安サミット

やり残した仕事が多くあることは自分が一番分かっている(オバマ氏)

プラハ演説から7年。オバマ米大統領は任期最後の核保安サミットに臨んだ。「米ロの核兵器は、この60年で最も少なくなった」と自賛したが、核軍縮が思い通りに進まなかった現実を認めた。ロシアは代表団を送らず、新START以降の削減交渉も行き詰まっている。ロシアは米国が欧州とアジア太平洋で配備を進めるミサイル防衛(MD)に反発し、新型核ミサイルの開発と配備を進めている。

日本への原爆使用を支持するか?

米世論調査会社ギャラップの調査を元に作製

10%

35

賛成しない

38

41

意見なし

85%

59

賛成する

57

53

1945

1990

1995

2005

2016年5月27日

オバマ米大統領
広島を訪問

インタラクティブ:佐藤義晴、デザイン:加藤啓太郎、リサーチ:鈴木康朗、ディレクション:木村円

2016年5月27日 更新

【写真】被爆当時の広島市と現在の広島市