世界の問題、根本から見つめる

アミーナ・モハメッド氏 2017/11/21

国際社会がSDGs(エスディージーズ)(持続可能な開発目標)に合意して2年。私たちは「新しいものさし」をどのように生かしていけばいいのか。10月2日の朝日地球会議(2日目)で、設計段階からSDGsにかかわる国連副事務総長のアミーナ・モハメッドさんに、キャスターの国谷裕子さんが聞いた。

SDGsの勢いをどう感じていますか? 歩み始めているが、まだ走り出していないと発言されていましたが。

SDGsを決めた、目を見張る「アジェンダ2030」は、2015年に合意されました。私は2年ほど前に母国ナイジェリアに戻って環境大臣になり、SDGsに取り組み始めました。そしてニューヨークに戻ってきて世界中に目を向けると、私たちはまだ移行途中だとわかったのです。やっているのはまだMDGs(ミレニアム開発目標)で、SDGsには至っていません。歩み始めているがまだ走り出していないと言う理由は、SDGsという新しい枠組みの理解に至るまでには移行していないからです。

SDGsは非常に野心的です。17分野の目標、169のターゲット。世界的な目標ですが、どのように達成すべきかは語っていません。多くの人はいまだにMDGsとSDGsの違いをわかっていないのかもしれません。違いは何でしょうか。

MDGsには八つの目標があり、その一つは貧困の削減でした。私は自国で取り組む立場にありましたが、MDGsは応急措置的な開発にすぎませんでした。妊産婦の死亡率を下げることを例に挙げます。私の国では10万件のお産で1200人が死亡していて、とても深刻でした。けれども病院に行く道路や、病院に供給される電力、投入すべき医療従事者と薬などについて検討されることはありませんでした。全体的に検討しなかったため、お産で命を落とす女性をうまく減らせなかったのです。

一方でSDGsは根本的な原因は何かと目を向けます。妊産婦の問題では概して医療制度が整っていないことが根本的な原因です。SDGsは根本的な原因をみつめながら、持続可能性を探るものなのです。

悪いニュースをお伝えしなくてはいけません。国連食糧農業機関(FAO)などの国連機関が合同で、必要な栄養が足りない飢餓人口が15年の7億7700万人から、16年は8億1500万人に増えたと発表しました。気候変動と紛争が主な要因とのことです。SDGsの実現に向けて進もうとしているのに、世界では悪循環が起きています。

かつてないレベルの教育と技術、資源を手にしている世界で、8億人以上が飢えや栄養不足の状態であってよいはずがありません。

ナイジェリアのチャド湖は20年ぐらい前まではとても大きな湖でした。子どもの頃、「イギリスへ行こう」とボートに乗り込んだのですが、こいでもこいでも向こう岸が見えず「イギリスはなかった」となりました。その湖が今は昔の10%しかありません。漁業も農業もできなくなり、生計手段が失われました。その結果、貧困と栄養の悪化が起きています。気候変動が主な原因です。

事態を悪化させているのは、将来の見通しが立たずに希望を失った若者が、テロリズムや社会不安を引き起こす動きに簡単に誘い込まれることです。そうやって(イスラム過激組織の)ボコハラムが生まれ、テロリズムが生まれ、女子生徒たちの誘拐が起きました。人々から生計手段を奪えばどうなるか、気候変動による変化や紛争が引き起こすものについて、私たちは強く意識しないといけません。

そうした痛みの最前線に立たされていると言われているのは、少女と女性ですね。

まさにその通りです。気候変動の負荷の多くは、女性と少女にかかっています。彼女たちは家事をしなくてはいけません。何キロも歩いて水を手に入れなくてはならず、たいていの場合、燃料もです。気候変動の悪影響で、今はもっと遠くまで歩かなくてはいけません。しかも誘拐される恐怖におびえながら歩いているのです。誘拐された少女たちは今、自爆テロをするために地元に戻されています。周りの多くの人を巻き添えにしながら死んでいきます。

女性は母親であり、姉妹であり、祖母であり、介護の担い手であり、家族や社会を育んで多大な貢献をしています。教育を受ければ、さらに経済にも価値をもたらします。ですから人材が最大の資産だというとき、この部屋にいる全員が日本の資産です。必要なのは、資産に投資し、リターンを得ることです。現在、私たちは資産の半分にしか投資していません。翼が片方しかない飛行機に高く飛べと言っているようなものです。多くの国において、何かを達成しようという時に少女と女性が抜け落ちてしまっています。

SDGsを実現するには、(1980年代から2000年代初頭生まれの)ミレニアル世代が重要な役割を担うと思います。

ええ、彼らの未来ですから。彼らを経済や教育にどう関わらせるかによって、世界は大いに変わってくるでしょう。未来のための決定を彼らにさせるべきです。重要なのは若者を観客としてではなく、意思決定の場に入れることです。選挙や取締役会議、SDGsの形成においてもです。(構成・北郷美由紀、撮影・長島一浩)

国谷裕子くにやひろこ
1979年米ブラウン大卒。93年~2016年、NHK総合「クローズアップ現代」を担当し、98年に放送ウーマン賞、02年に菊池寛賞、11年日本記者クラブ賞などを受賞。近著に「キャスターという仕事」(岩波新書)。
アミーナ・モハメッド氏Amina J. Mohammed

1961年生まれ。前職はナイジェリア環境大臣。国連のポスト2015開発アジェンダ担当特別顧問として事務総長を補佐し、SDGsを明記した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の合意に大きな役割を果たした。2017年2月から現職。