第9回 手塚治虫文化賞 2005

マンガ大賞

マンガ大賞PLUTO

浦沢直樹氏・手塚治虫氏作、長崎尚志氏プロデュース

PLUTO

作品概要

 「PLUTO(プルートウ)」は03年から小学館「ビッグコミックオリジナル」に連載中。単行本は2巻まで出ている。

 スイス最強のロボット、モンブランが何者かに破壊され、同じ頃、ロボットの権利を擁護する団体の幹部が殺される。二つの現場に共通する痕跡。だがロボットは人を殺せないはず……。捜査にあたるロボット刑事ゲジヒトは、自分を含む世界最強の7体のロボットが標的だと気づき、日本のアトムに接触する。

 原作の「鉄腕アトム・地上最大のロボット」(64・65年)は、最強のロボットとなるよう作られたプルートウが、世界各国のロボットに闘いを挑み、アトムが巻き込まれていくストーリー。

(2005年5月10日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント/浦沢直樹氏

 「手塚治虫文化賞? 他人に賞あげてる場合じゃありませんよ。賞なら僕がいただきますよ」

 手塚先生なら、そう言うと思いましたよ。自分の名前のついた賞を自分で獲るなんて先生らしいですね。僕もちょっと関わらせてもらって、すごく嬉(うれ)しいです。

 でも先生、いつも原稿見せても「浦沢氏、もう少しなんとかならない?」ぐらいしか言ってくれませんね。新作の方が大忙しで、昔の作品にかかずらわってる場合じゃないんですね。

 え? 授賞式にも来れない? じゃあトロフィーは僕が代わりに受け取っておきます。

 二次会ぐらいは顔出してくださいよ。

(2005年の贈賞式小冊子から)

  • PLUTO
  • PLUTO
  • PLUTO
  • PLUTO

PLUTO©浦沢直樹/スタジオ・ナッツ 長崎尚志 手塚プロダクション(小学館)全8巻

浦沢直樹浦沢直樹さん60年、東京都生まれ。83年「BETA!!」でデビュー。女子柔道選手が主人公の「YAWARA!」、第3回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞したサスペンス「MONSTER」、カルト集団との闘いを描く「20世紀少年」などのヒット作がある。(2005年5月10日付、朝日新聞朝刊)

新生賞

新生賞こうの史代さん

「夕凪の街 桜の国」で、原爆の悲劇を戦後の日常の中に静かに描き出した清新な表現に対して

夕凪の街 桜の国

あらすじ

 〈夕凪(なぎ)の街〉 10年前の原爆で父、姉、妹を失った皆実(みなみ)。同僚の打越から思いを告げられたことで、「あの日、多くの人を見殺しにした」という心の傷が再び痛み出してゆく。

 〈桜の国〉 東京で暮らす皆実のめい七波(ななみ)。87年の祖母の死と、04年夏の広島への旅を通じ、原爆が祖母や父母に落としていた影に気づく。

作者に聞く

 戦後生まれの広島人に、「ヒロシマ」は複雑な重みを持っていた。

 「忘れてはいけない大事なことだけど、避けておきたい。何も知らないのにうかうかと踏み込んではいけない、と思っていました」

 「ヒロシマの話を書いてみない?」という編集者の提案に、夫や友人からは「大変だからやめたら」と言われると思っていたが、むしろ「いいんじゃない」とあっさり。その温度差が逆に、ヒロシマの重みを伝えようという覚悟につながった。

 親類に被爆者や被爆2世はいない。体験記や記録文学などを基に「夕凪(なぎ)の街」を、被爆2世らに取材し続編「桜の国」を書いた。

 「誰かが書くべき、残しておくべき作品だったのだと思う。たくさんの忙しいマンガ家の代わりに、たまたま時間のあった私が書いただけです」

 「夕凪」は、生き残ったことに罪悪感を抱えた女性の、被爆10年後の悲運を描く。やさしい絵柄からは想像も出来ないラストについて、あとがきでこう記した。

 〈これから貴方(あなた)が豊かな人生を重ねるにつれ、この物語は激しい結末を与えられるのだと思います〉

 「人の親切に触れて、好きな人に出会って、そんな何げない人生がいかに貴いものか、感じてもらえたらうれしい」

 少女時代に飼っていた気の荒いニワトリのかわいさを短編連作「こっこさん」に描き、インコと暮らす楽しさを「ぴっぴら帳」につづった。

 執筆場所は、もっぱら台所に置いたちゃぶ台。かたわらの鳥かご三つから、3羽の小鳥が見守っている。

(2005年5月10日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 この『夕凪(なぎ)の街 桜の国』は、広島の原爆を扱ったまんがです。わたしは、知る機会に恵まれなかった人の代わりに語ったに過ぎません。広島を故郷に持たなかった人の代わりに広島弁を使い、まんがを描かない人生を選んだ人の代わりにまんがで伝えました。

 しかし、わたしにとって誰にも代えがたい勇気ある善い編集さんと、善い読者さんに恵まれ、本当に本当に幸運な作品に育てて頂きました。

 手塚治虫文化賞は名前が名前ですので、頂けて、まんがを描かない人だけでなく、日々の締め切りに追われる売れっ子の作家さんの代わりに勉強し、描き上げた、と思えます。少しはこの業界のお役に立てたかな、と思えます。

 そして何より、この業界にもう少し居てもいいのかな、と初めて思うことが出来ました。

 これからも精進します。有難(ありがと)うございます!

(2005年の贈賞式小冊子から)

  • 夕凪の街 桜の国
  • 夕凪の街 桜の国
  • 夕凪の街 桜の国
  • 夕凪の街 桜の国

夕凪の街 桜の国©こうの史代/双葉社

こうの史代こうの史代さん1968年、広島市生まれ。95年「街角花だより」でデビュー。「夕凪(なぎ)の街 桜の国」で04年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞。(2005年5月10日付、朝日新聞朝刊)

短編賞

短編賞西原理恵子さん

「上京ものがたり」、「毎日かあさん」に対して

上京ものがたり

作者に聞く

 「『毎日新聞』に連載持ってる人間にはくれないと思ってた。手塚治虫文化賞を狙う、と自分のマンガの中で書いたけど、あれはネタで、ホントに欲しかったわけじゃない。でも賞金を見て、それじゃあありがたく、って」

 毒とギャグのサイバラ節。だが「上京ものがたり」は、水商売のバイトをしながらマンガ家を目指す女性の鬱屈(うっくつ)と喜びが、驚くほど素直につづられている。

 「いつもの私の作品ならもっと乱高下が激しいんだけど、今回は奇をてらわず、自分の中の物語を思いつくまま出した」

 下積み時代は「上京」に、2人の子との暮らしは「毎日かあさん」に描いているが、ともに「自分の手を通過した時点で全部つくりごとになる。そんな当たり前のことが学校の先生には分からないのか、マンガのことで息子の小学校から呼び出しをくらいました」。

 携帯電話にダンゴムシをはさみ、ベランダから空へダイブしようとする息子の姿から、あることを学んだ。「男はまったく別の生き物。言葉は通じない。分かり合えない。男の子を育ててから男とつきあえばよかった」

 マンガによる旅行記のため、アマゾンで釣りをし、アジアの奥地へ分け入る。「商いは止まらない列車ですから。お客さんに喜んでもらえるなら、体力の続く限りどこまでも……正直、もうしんどいんですけど」

(2005年5月10日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 大賞じゃないといやだと言ったらすべての担当に「ここらで手をうっておきなさい」と言われました。

 次は、小学館まんが賞、講談社まんが賞だ。

 全担当に「無理だ」と言われました。

(2005年の贈賞式小冊子から)

  • 上京ものがたり

上京ものがたり©西原理恵子/小学館

  • 毎日かあさん
  • 毎日かあさん

毎日かあさん©西原理恵子/毎日新聞出版既刊1~12巻(2016年2月現在)

西原理恵子西原理恵子さん1964年、高知市生まれ。雑誌のカットなどの仕事を経て88年「ちくろ幼稚園」で本格デビュー。92~94年の「週刊朝日」連載「恨ミシュラン」(神足裕司さんと共著)でブレーク。97年に「ぼくんち」で文芸春秋漫画賞。(2005年5月10日付、朝日新聞朝刊)

特別賞

特別賞川崎市市民ミュージアム

江戸から現代までのマンガ作品・資料の収集および企画展示などに対して

川崎市市民ミュージアム 川崎市市民ミュージアム

 本格的にマンガに取り組む初の美術館として、88年に開館した。江戸の版画や明治から昭和初期の風刺マンガ雑誌、現代の作家の原画など、収集した資料は5万点を超えている。

 常設ギャラリーは年に4、5回展示替えをする。企画展も、「鳥山明の世界」「日本の漫画300年」「岡本一平展」「フランスコミック・アート」などを多彩に開催してきた。

 開館最初の展示が「手塚治虫の世界」だった。「先生は自ら展示作品を選び、体がお悪いのに会場に何度か足を運んで下さった」と美術館担当室長の湯本豪一学芸員。その会期中、開館から約3カ月後に亡くなった。

 「手塚先生の名をいただいたこの賞を励みとして、今後もマンガ文化に貢献していきたい」

 マンガのほか、写真や映画など複製技術による芸術が同館の対象分野。考古・民俗資料も扱う。だが立地の悪さもあって、慢性的な赤字に悩む。施設の一部無料開放などを提言した識者らによる改善委員会の報告を受け、川崎市では利用者増に向けた施策を検討中だ。

 「人気の高いマンガ・アニメ関連の展示は、大きな柱として一層力を入れていく」と湯本さんは話している。

(2005年5月10日付、朝日新聞朝刊)

川崎市市民ミュージアム漫画の収集、展示、研究を行う専門の部門を設けて1988年11月に開館した。江戸時代から現代までの日本の漫画の歴史をたどる「日本の漫画300年展」をはじめ、「少女まんがの世界展」「アニメ黄金時代展」「フランスコミックアート展」「岡本一平展」等々の企画展を開催し、漫画文化を幅広く紹介、加えて常設ギャラリーでも、様々なテーマで漫画の展示を行ってきている。また、貴重な漫画資料も多数収集し、広く利用されることを目指している。(2005年の贈賞式小冊子から)