第17回 手塚治虫文化賞 2013

マンガ大賞

マンガ大賞キングダム原泰久さん

キングダム

作者に聞く

 紀元前、七つの国が覇権を争っていた春秋戦国時代の中国が舞台。下僕の身から武功をあげて出世していく秦国の青年の信(しん)や、後に始皇帝となる秦王の政(せい)ら若者たちが、乱世を生き抜いて新しい時代に踏み出そうとする息吹が熱く描かれる。

 主なキャラクターは、歴史書「史記」や「戦国策」に書かれた史実が基になっており、おおむねモデルが実在するそうだ。文献の記述は出来る限り忠実に再現しているというが、秦が各国の合従軍に攻め込まれる「函谷関(かんこくかん)の攻防戦」で描いた各軍の細かい計略などは創作した。

 「ドラマを作り込んで盛り上げる『足し算』。それで時代が進むのが遅くなって、巻数(単行本は現在30巻)が増えちゃってるんですけど」と笑う。

 すき間の話を考えているときが楽しいという。「バトルを描きたいというより、そこに至るまでの過程や前後の感情の高ぶりが僕はぐっとくる」ので、戦っている最中よりもその直前が好きだとも。戦場で大将が味方の兵にゲキを飛ばす場面のせりふを考えるときは、「自分も入り込んで泣きながら描いている」そうだ。

 秦国六大将軍の一人・王騎をはじめ、顔や姿はみんな個性的。「王騎が出てきたら、副官の騰(とう)は負けずに違う方面で興味を引く顔にとか、そのとき描いている世界でのバランスを考えます」。中国人に見えない騰の顔は「悪ノリで始まって、スタッフとフレディ(・マーキュリー)と言っていた」とか。

 そんな遊び心を披露しつつ、信の配下の兵「飛信隊」ができた辺りからは「支え合い、つながりということばかり描いているような気がします」と真剣に語り始めた。チームで臨むと非常に強い力を発揮することを知った社会人時代や、マンガ家の井上雄彦(たけひこ)さんのアシスタントを務めた経験が生きている。

 単行本の完結を70~80巻と見定め、作者自身も中華統一までの創作に突き進んでいる。

(2013年4月29日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 この度は栄誉ある賞を頂き、本当に嬉(うれ)しく思っております。

 自分がこの作品を描くにあたりテーマにしていることの一つに「受け継ぐ」ということがあります。主人公の少年・信は多くの仲間や師となる人達と出会い、死別し、彼らの積み重ねてきたものを受け継ぎながら成長していきます。「受け取ったもの、受け継いだもの」が大きいほどに人は強く躍動する。歴史に名を残す彼らはそうであったはずだと信じています。そして彼らもやがて次の世代へと多くのものを伝え渡していくのでしょう。

 幸運にも描き手として漫画の歴史の中に身を置かせて頂く身として、自分も無論漫画界の祖と呼ばれる手塚先生から多くのものを頂いています。今回、手塚治虫の名を冠した賞をいただくことは、大変光栄で、身の引き締まる思いです。私が次の世代へというのはおこがましいので、まずは読者の方々へ私なりに何かを伝えていけたらと改めて思っております。

(2013年の贈賞式小冊子から)

  • キングダム
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キングダム©原泰久/集英社既刊1~41巻(2016年2月現在)

原泰久原泰久さん1975年生まれ、佐賀県出身。大学時代からマンガを雑誌に投稿しはじめ、一度はシステムエンジニアとして3年間就職。2006年から週刊ヤングジャンプ(集英社)で連載中の「キングダム」が、連載デビュー作となった。(2013年4月29日付、朝日新聞朝刊)

新生賞

新生賞山本美希さん

「Sunny Sunny Ann!」のロードムービー的な物語と新鮮な描線が生み出す独自性に対して

Sunny Sunny Ann!

作者に聞く

 大学院でビジュアルデザインを学んでいる。大学在学中、印刷物の歴史を学ぶ授業の中でマンガに触れ、自ら作品を手がけるようになった。

 車で移動しながら寝泊まりする米国女性アンが主人公。見た目も性格もたくましい。「描いた当時、進学するかどうか自分の進路で悩んだこともあって、型破りな生き方をするのもいいんじゃないかと。とにかく強い女性を描きたかったんです」

 日本が舞台だと「型破り」が描けないから米国に。米映画「グロリア」に登場する女性の雰囲気も好きだ。文字を使わない外国絵本「アンジュール」にも影響され、独特な描線や少ないせりふが確立していった。

 巻末には「ついに全世界を自分の部屋にしたのだ そしてそのドアをあけはなったのだ」という別のマンガ「ロストハウス」(大島弓子さん)の文章を引用。「家」がないアンの生き方に深みを与えている。

 家を失った被災者と状況は重なるが、構想したのは東日本大震災前だ。「悲しいこととして描いていないので、結果的に読んで励まされることになればと願っています」

 将来はマンガ家になるのか。「食べていくのは難しいかも」との答え。でも、マンガは描き続けたいのだ。「いずれフルカラー作品をやってみたい」

(2013年4月29日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 子供の頃、マンガを禁止していた母が唯一許してくれたのが手塚治虫先生の『ブラックジャック』でした。その後、手塚先生をはじめマンガ家の先輩方の作品を読むうちにマンガという表現の豊かさと面白さに驚き、自分もそのようなマンガを描きたいという思いから制作をはじめました。まだまだ模索が始まったばかりですが、先輩方の素晴らしい作品のなかで自分には何ができるだろうかといつも自問自答しています。

 そのため、この賞をいただけることはとても感慨深く感じます。偉大な先輩から背中を押されたような気がしています。『Sunny Sunny Ann!』の主人公アンは常識から外れても自らの生き方を貫く女性ですが、私も自分の道を切り拓(ひら)いて進んで行かなくてはと気持ちを新たにしました。

 このたびはまことに素晴らしい賞をいただき、大変嬉(うれ)しく存じます。ありがとうございました。

(2013年の贈賞式小冊子から)

  • Sunny Sunny Ann!
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Sunny Sunny Ann!©山本美希/講談社

山本美希山本美希さん1986年生まれ、茨城県出身。無声マンガと呼ばれる「爆弾にリボン」で2011年に単行本デビュー。「Sunny Sunny Ann!」は、モーニング(講談社)誌上に同年から不定期掲載された後、昨年7月に単行本化された。(2013年4月29日付、朝日新聞朝刊)

短編賞

短編賞機械仕掛けの愛業田良家さん

機械仕掛けの愛

作者に聞く

 女の子とその母との楽しい記憶をいつまでも忘れまいとする「リックの思い出」や、政府と反政府グループらの敵対関係にほんろうされて自爆を選ぶ「クロスの戦場」。主人公は心を持ったロボットたちで、その愛情や葛藤が心にしみるオムニバス作品だ。

 作者自身が気に入っているのは、刑事のロボットが貧富の差を解消するために偽札作りに手を染め、最後は「虫」にされてしまう「罪と罰の匣(はこ)」という社会正義を巡る話。「精神や知識、生き方が(虫の姿という匣の中に)閉じ込められてしまった『人』の悲しさがあらわせた」

 基本1話20ページのアイデアは「打ち合わせで二転三転」するほど毎回苦しむそうだ。作品群に共通したテーマとは? 「自己犠牲の話が多いんじゃないかなと思っている。そこを描くには人間だとうそっぽくなる気がして、ロボットのほうが純化されると感じる」

 もともと1990年代の作品「ゴーダ哲学堂」でもロボットは描いていた。ロボット「アシモ」のニュースを見て衝撃を受けたのがきっかけだ。

 人に近いロボットマンガといえば、手塚治虫さんの「鉄腕アトム」が代表例だ。今作の表紙を描いているときから、手塚さんが描きそうな絵だなと気づいた。「すごく影響を受けていると改めて思った」

(2013年4月29日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 私は今からちょうど30年前に4コマ漫画でデビューしました。

 最初はギャグ漫画を中心に描いてきたせいか手塚先生の影響を意識することはありませんでした。そのうちストーリー漫画を描くようになり、今ではロボットや人形を主人公にした漫画を多く描いています。

 そして今回『機械仕掛けの愛』でロボットの短編集を描いていて、キャラクターの顔やデザイン、背景の処理の仕方、テーマや内容、すべてに手塚先生の影響を大きく受けていたのだと自覚したところでした。

 幼い頃に大好きだった『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』、小学生の頃に衝撃を受けた『やけっぱちのマリア』、大人になって読んで圧倒された『ブッダ』や『火の鳥』。漫画が好きで漫画家になったこと自体が手塚先生の偉大なる影響力なのでしょう。

 この度、尊敬する手塚先生の御名前が冠された賞を戴(いただ)けたことは光栄であり喜びであります。さらに精進しようと心に誓いました。ありがとうございます。

(2013年の贈賞式小冊子から)

  • 機械仕掛けの愛
  • 機械仕掛けの愛
  • 機械仕掛けの愛
  • 機械仕掛けの愛

機械仕掛けの愛©業田良家/小学館既刊1~3巻(2016年2月現在)

業田良家業田良家さん1958年生まれ、福岡県出身。代表作の「自虐の詩」と「空気人形」はいずれも映画化された。「機械仕掛けの愛」は、2010年からビッグコミック増刊号(小学館)で連載中。(2013年4月29日付、朝日新聞朝刊)