第18回 手塚治虫文化賞 2014

マンガ大賞

マンガ大賞3月のライオン羽海野チカさん

3月のライオン

作者に聞く

 事故で両親と妹を失い、逃避するように将棋に打ち込む高校生のプロ棋士・桐山零が主人公。美大生らの切ない恋愛模様を繊細に描いた「ハチミツとクローバー」から一変、男同士の厳しい勝負の世界に切り込む。

 「次の作品は全く違う題材にしないと、私は『ハチクロ』だけで終わっちゃうと思って、将棋を選んだ」

 年齢との闘いや故郷の期待などを背負う棋士らの群像劇でもある。零は、個性豊かな相手との対局や、親切な和菓子屋の3姉妹との触れ合いを通じ、ゆっくりと成長していく。

 「マンガと将棋の世界って似ている。勝ち負けは全部自分ひとりの責任。プロになってからが長い。10代の若者と大御所が同じ場で競り合う。いろいろな棋士を描くのが楽しくなって、初めの予定より連載が長くなった」

 零を導く存在の島田八段がタイトル戦の真っ最中、胃の痛みにもだえて吐くセリフがある。「『生きてる』って気がするぜぇ」

 「私の実感です。締め切りが迫ると、食べず眠らず同じ姿勢で描き続ける。あちこち痛くなってくると、このセリフを口にします」

 生まれて初めて自分で買ったマンガが、手塚治虫の「リボンの騎士」だった。夢中になり、マンガが大好きになった。

 「締め切り直前に賞の知らせを聞いた。うれしくて泣きながら描く私に、編集者が1時間、ずっとティッシュを差し出し続けてくれました」

(2014年4月29日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 私が初めて自分で買った漫画が、手塚先生の描かれた「リボンの騎士」でした。

 まだ近所に本屋が無く、本を手に入れたのは小学校の近くの文房具や駄菓子を売っている小さいお店でした。

 「リボンの騎士」はクルクルと回る鉄製の絵本用スタンドに立ててあり、リボンやドレスに愛らしい動物たち、そしてサファイアの姿に「なんと可愛く美しい世界なのだろう」と夢中になりました。

 それから何度も何度も読み返し、カレンダーや広告用紙など裏が白い紙を探しては真っ黒になるまで絵を真似(まね)て描き、そのまま描いて描いて描きつづけて、ここまで来てしまいました。なので、手塚先生のお名前のついたこの賞をいただけて本当に本当に胸がいっぱいです。

 幸せな気持ちでもう一度、ちゃんと振り出しに戻れたような気持ちです。

 ここからまた一歩一歩、一コマ一コマ、1ページ1ページ、こつこつと、そしてこれが一番難しい事なのですが「楽しんで」という事を思い出しながら精一杯(せいいっぱい)漫画を描いてゆけたら、と思います。

 これからもどうか、見守っていただけたら幸せです。

(2014年の贈賞式小冊子から)

  • 3月のライオン
  • 3月のライオン
  • 3月のライオン
  • 3月のライオン

3月のライオン© 羽海野チカ/白泉社既刊1~11巻(2016年2月現在)

羽海野チカ羽海野チカさん東京都生まれ。2000年のデビュー作「ハチミツとクローバー」はアニメ、テレビドラマ、映画にもなり大ヒット。07年から「3月のライオン」連載中(既刊9巻)。(2014年4月29日付、朝日新聞朝刊)

新生賞

新生賞今日マチ子さん

「アノネ、」、「みつあみの神様」などで、重いテーマを独自のみずみずしい世界に昇華させたことに対して

アノネ、

作者に聞く

 「みつあみの神様」(集英社)、「U〈ユー〉」(太田出版)、「アノネ、」(秋田書店)、藤田貴大さんとの共作「mina―mo―no―gram」(同)の4作で、みずみずしい情感あふれる鮮烈な物語を展開し、賞に輝いた。

 「みつあみの神様」は、震災と原発事故の後を思わせる世界で、隔離されて生きる少女の物語。「アノネ、」は少年と少女の恋にヒトラーとアンネ・フランクを重ねる大胆な設定でホロコーストを描く。フワリとしたかわいい絵柄だが、題材は重い。

 「娯楽でありつつ社会と関わる作品が描きたい。手に負えない大きな題材を選んでしまい、その悪戦苦闘の跡が作品になる。描き終えたとき自分が一段階上に行ければいいな、と思う」

 マンガ誌のほか文芸誌など様々な媒体に作品を発表。「今は、毎日なにかしら締め切りがある状態」という売れっ子だ。

 マンガ家を志した時から、机の前に手塚治虫文化賞の特集紙面が張ってあるという。「憧れの賞でした。とてもうれしいです」

(2014年4月29日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 個人のブログで1ページ漫画という、従来の新人デビューとは異なった形で漫画を描くようになったので、自分は本当に漫画家なんだろうか、という不安がつねにありました。手塚治虫先生の名を冠した賞をいただけたこと、審査委員の方々に読んでいただけたことは、大きな肯定になりました。

 己の力量をわきまえず、大きなものに向かっていってしまう悪い癖があります。だいたいの作品は、何か結末をつけるというよりは、格闘して、叩(たた)きのめされて終わってしまいます。まだまだ漫画家として学ぶべきことだらけです。とくに、娯楽作品としての完成度を上げることは早急な課題であると重々承知しております。

 それでも、わからないことを、漫画のなかで考え続けたい。一番小さい者であること。わからないということを手放したくないな。手塚治虫という作家の、常に挑みつづけた後ろ姿をみながら、私も必死でついていかねばならない。

(2014年の贈賞式小冊子から)

  • アノネ、
  • アノネ、

アノネ、©今日マチ子(エレガンスイブ)秋田書店・上下巻

  • みつあみの神様
  • みつあみの神様
  • みつあみの神様

みつあみの神様©今日マチ子/集英社

今日マチ子今日マチ子さん東京都生まれ。ブログに発表した作品が08年に書籍化されデビュー。「吉野北高校図書委員会」などを連載中。(2015年12月17日現在)

短編賞

短編賞施川ユウキさん

「鬱ごはん」「オンノジ」「バーナード嬢曰く。」に対して

バーナード嬢曰く。

作者に聞く

 無人となった世界で女の子とフラミンゴが寄り添って生きる「オンノジ」(秋田書店)、孤独な男のさえない食事を描く「鬱(うつ)ごはん」(同)、本を読まずに読書家を気取りたい女子高生が主人公の「バーナード嬢曰(いわ)く。」(一迅社)。題材の異なるギャグ3作を昨年刊行し、賞を射止めた。

 「自分も、読書家に憧れるけど読むのはめんどくさい。グルメマンガはいつも『おいしくて幸せ!』と言うけど、日常の飯はたいてい味気ない。そんな思いをデフォルメして描いた」

 「オンノジ」は、連載開始直前に東日本大震災が起きたことが影響した。「ある日突然世界が変わってしまった、という自分の感覚をそのまま出した」

 元は中学生男子だったというフラミンゴと少女の奇妙な終末ライフは、やがて愛と希望の物語に。「結末を決めずにスタートしたけど、変わってしまった世界を受け入れた上で未来へ向かっていく、というイメージはずっと抱いていた。あの2人はその後どうしているかな、と想像すると、ちょっと切なくなりますね」

(2014年4月29日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 この度は、名誉ある賞をいただき、心より嬉(うれ)しく思います。未(いま)だ夢の中にいるようです。

 受賞作の一作『オンノジ』は、ちょうど震災直後に連載が始まりました。当時、この状況でのんきに4コマ漫画を描いていて良いのだろうかと自分なりに思い悩み、結果「ある日突然変わってしまった世界」を舞台に、物語を始めることにしました。主人公2人は、運命に翻弄(ほんろう)されるでもなく、切り開くでもなく、ゆっくりと素直に現実を受け入れていきます。とても素敵(すてき)な2人です。子供の頃大好きだった、ブラックジャックとピノコのように、名カップルになれたら良いなと、おこがましいことを思いながら描いておりました。

 「ブラック・ジャック」を生んだ、歴史ある少年チャンピオンに、若さに任せて落書きのような漫画を投稿したのが、約16年前です。今回、手塚先生のお名前を冠した賞をいただけたことは、漫画家人生の中で、最上の栄誉となりました。本当にありがとうございました。

(2014年の贈賞式小冊子から)

  • バーナード嬢曰く。

バーナード嬢曰く。©施川ユウキ/一迅社既刊1~2巻(2016年2月現在)

  • 鬱ごはん
  • 鬱ごはん

鬱ごはん©施川ユウキ/秋田書店

  • オンノジ
  • オンノジ

オンノジ©施川ユウキ/秋田書店

施川ユウキ施川ユウキさん1977年、静岡県生まれ。99年週刊少年チャンピオンでデビュー。「ヨルとネル」「鬱(うつ)ごはん」「バーナード嬢曰(いわ)く。」「おかえりなさいサナギさん」連載中。ハジメ名義で「少年Y」の原作を担当するほか、コラムなどでも活躍。代表作に「オンノジ」「がんばれ酢めし疑獄!!」など。(2016年1月20日現在)

特別賞

特別賞藤子不二雄Ⓐさん

「愛…しりそめし頃に…」「まんが道」に対して

愛…しりそめし頃に…

作者に聞く

藤子不二雄Ⓐ(安孫子素雄)さんと藤子・F・不二雄(藤本弘)さん、「藤子不二雄」の名で活躍した2人をモデルにした自伝的作品「まんが道」(中央公論新社など)は、「マンガ家のバイブル」と呼ばれる。1970年の執筆開始から足かけ44年、続編「愛…しりそめし頃に…」を昨年完結させた。

 「これを読んでマンガ家を目指した、と若い人が言ってくれるのがうれしい」

 手塚治虫の「新宝島」に衝撃を受けた富山の少年2人がコンビでマンガ家となり、上京してトキワ荘で若き石ノ森章太郎、赤塚不二夫らと出会う。夢、情熱、挫折、友情……。素朴な独特のタッチでつづった青春群像劇は、「トキワ荘」の伝説と共に、永遠に色あせることはない。

 「手塚先生やトキワ荘の仲間との出会いが僕らの運命を変えた。人と出会うことで人は成長する。それが作品のテーマ。若い人も、人との出会いを大切にしてほしい」

(2014年4月29日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 この度、第18回手塚治虫文化賞“特別賞”を受賞し、まことに有難(ありがと)うございます。

 私は今年の3月10日、満80歳になりました。いわゆる“傘寿”をむかえたわけです。

 そんな区切りの年に手塚治虫先生の冠のついた特別賞をいただけることは嬉(うれ)しい限りです。思いおこせば今から67年前、手塚先生の処女作『新宝島』と衝撃的な出会いをしたことが、私の“まんが道”への第一歩となりました。以来、今日までズーッと手塚先生の後光をうけて半世紀以上の“まんが道”を歩いてきたことになります。

 ふりかえって見るといろんな起伏はありました。しかし、こうやって現在まで漫画を画(か)き続けてこれた事はとても幸運の限りです。

 昨今トシのせいでパワーが減退する一方ですが、今回の受賞をバネにもうすこし頑張ってみたいと思っています。

(2014年の贈賞式小冊子から)

  • 愛…しりそめし頃に…
  • 愛…しりそめし頃に…

愛…しりそめし頃に…©藤子スタジオ小学館・全12巻

  • まんが道
  • まんが道
  • まんが道

まんが道©藤子スタジオ小学館・全10巻

藤子不二雄Ⓐ藤子不二雄Aさん1934年、富山県生まれ。代表作は「怪物くん」「笑ゥせぇるすまん」など。「PARマンの情熱的な日々」などを連載中。(2014年4月29日付、朝日新聞朝刊)

読者賞

読者賞宇宙兄弟小山宙哉さん

宇宙兄弟

読者賞とは

 読者賞は、関係者による推薦の多かったマンガ20作を対象に、朝日新聞デジタル会員(無料会員を含む)にウェブで投票(1アドレスにつき2票)を募った。投票総数1631票のうち「宇宙兄弟」が330票を獲得、1位となった。

受賞コメント

 この度は、手塚治虫文化賞の読者賞に選んで頂き、本当にありがとうございます。

 『宇宙兄弟』は思いの外長く続いておりますが、変わらず読者の皆さんに楽しんでもらえ、評価していただけたことをとてもうれしく思っています。

 ストーリー的にはいよいよクライマックスに入ろうとしております。

 ここから最後まで、読者のみなさんの期待に応えられるよう、僕もめいっぱい楽しんで描いていきたいと思います。ありがとうございました。

(2014年の贈賞式小冊子から)

  • 宇宙兄弟
  • 宇宙兄弟
  • 宇宙兄弟
  • 宇宙兄弟

宇宙兄弟©小山宙哉/講談社既刊1~27巻(2016年2月現在)

小山宙哉小山宙哉さん1978年生まれ、京都出身。第14回MANGA OPENに持ち込んだ『じじじい』でわたせせいぞう賞を、続く第15回MANGA OPENでは『劇団JETS』で大賞を受賞した。2006年、『ハルジャン』、『ジジジイ』をモーニングにて連載。2008年より『宇宙兄弟』の連載を開始した。 (2014年の贈賞式小冊子から)