第19回 手塚治虫文化賞 2015

マンガ大賞

マンガ大賞逢沢りくほしよりこさん

逢沢りく

作者に聞く

 「ありがたく、とても畏(おそ)れ多く思います」と受賞の喜びを語る。

 「全力を出し切った」という受賞作は、潔癖性の美少女・逢沢りくが主人公。猫の家政婦が癒やし系ユーモアを放つ「きょうの猫村さん」で人気を得た作者が、思春期の少女のふるえる感情を繊細に描き出す。

 14歳のりくはうそ泣きが得意だが、悲しいという気持ちが分からない。母によって関西の親戚に預けられ、ベタついた人間関係を嫌悪するが、幼い「時ちゃん」が病気と知り心の中で何かが変わり始める。

 「東京に対する違和感をいつかお話にしたいと思っていた。お笑いに対する感覚、会話のリズムやノリとか、違うことばかり」。生まれは京都で関西在住だ。りくを逆の立場にすることで、ひねりを加えた。

 「自意識過剰な少女を最後にものすごく泣かす」という骨格だけを決め、描き始めた。「あとは、描いていくうちにキャラクターが導いてくれる」

 プロットもノートも作らず、下書きもしない。真っ白な原稿用紙に鉛筆を走らせ、それがそのまま印刷され作品となる。

 「『猫村さん』が、この描き方のまま書籍化され、少なくない読者の方に受け入れられたのが大きかった。自分の頭の中のイメージがそのまま紙の上に出ているような感覚。生っぽくて、臨場感がある。私にとって、この描き方がベストなんです」

(2015年4月29日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 数ある素晴らしい候補作品の中で、賞をいただけたことを、ありがたく、とても畏(おそ)れ多く思います。

 『逢沢りく』は、私の最善を尽くした作品です。自分は他の人とちょっとちがうやり方で描き続けてきました。その方法について、迷ったことは一度もありませんでしたが、それが世の中に受け入れられるかどうかということについては常に不安がありました。

 今は自信を持って、この物語に向かって全力を出し切ったといえるし、終了したこの作品をすがすがしい気持ちで眺めることができます。

 本という形にするために、ご尽力くださった文芸春秋のみなさまと、期待より何倍も素晴らしい装丁デザインをしてくださったアリヤマデザインストアさんにお礼申し上げます。

 今まで支えて下さった、家族や友人、今もお世話になっている編集者さん、読者の皆さまに感謝の気持ちでいっぱいです。

(2015年の贈賞式小冊子から)

  • 逢沢りく
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  • 逢沢りく
  • 逢沢りく

逢沢りく©ほしよりこ/文藝春秋上下巻

ほしよりこほしよりこさん1974年生まれ。ネットで連載していた「きょうの猫村さん」が人気を呼び、2005年にマガジンハウスから単行本化(既刊7巻)。ほかに「山とそば」(新潮文庫)など。(2015年4月29日付、朝日新聞朝刊)

新生賞

新生賞大今良時さん

「聲の形」で、障害者と「いじめ」という重い題材から力強い希望と再生の物語を紡ぎ出したことに対して

聲の形

作者に聞く

 小学生の時、転校してきた聴覚障害者の硝子(しょうこ)を手ひどくいじめて喜んでいた将也。その後自分もいじめを受けた彼は高校生となり、再会した硝子の幸せのために生きると決意する。

 連載は週刊少年マガジン(講談社)。少年誌らしからぬ深刻なテーマに挑み、7巻をかけ希望と再生へ物語を着地させた。手話による会話も自然に読ませた。

 1989年、岐阜県生まれ。オリジナル作品の長期連載は本作が初めてだ。

 「この賞は、手塚先生が多くの人とマンガを作っていたように、決して自分も一人で作ることはできなかったと実感させてくれます。同時にお守りとして、自分一人でも頑張っていけるよう支えになってくれる気がします」

(2015年4月29日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 まず、漫画を発表出来るよう力を貸してくださった方々に感謝したい。ろうあ連盟さん、編集部の皆さん、ありがとうございました。

 この漫画は、恵まれた環境と多くの偶然によって描くことができました。特に読者の皆さんの感想を読むことは、当初の目的であったこともあって最高の糧になりました。

 読者は自分よりも面白く、多く考え、素直で、一番の理解者で、支えでした。苦いものもあれば消化されないものもありますし、連載は怠け者の自分にとって体力的にきつかったりもした。しかし描くなと言われ5年、溜(た)め込んでいたものを吐き出すことは相当気持ちが良かった。

 くだらない大今に付き合ってくれた方々、ありがとう。ご迷惑をおかけしました。

 いただいたこの賞は、手塚先生が多くの人と漫画を作っていたように、決して自分一人で作ることはできなかったと実感させてくれます。同時にお守りとして、自分一人でも頑張ってゆけるよう支えになってくれる気がします。

 ありがとうございました。

(2015年の贈賞式小冊子から)

  • 聲の形
  • 聲の形
  • 聲の形
  • 聲の形

聲の形©大今良時/講談社全7巻

大今良時大今良時さん1989年、岐阜県生まれ。2008年、第80回週刊少年マガジン新人漫画賞入選。2009年『マルドゥック・スクランブル』(原作・冲方丁、全7巻)で連載デビュー。『聲の形』は2度の読み切り掲載を経て、2013年から「週刊少年マガジン」で連載開始。2014年、連載終了と同時に劇場アニメ化が発表された。(2015年の贈賞式小冊子から)

短編賞

短編賞吉田戦車さん

不条理ギャグから育児日記まで、独自の笑いのセンスにあふれた一連の作品に対して

おかゆネコ

作者に聞く

 妻の伊藤理佐さんも短編賞受賞者。夫婦そろって子育てマンガを連載中だ。「まんが親」(小学館)では、娘のおかしな言葉遣いなどに加え、おいしいネタを待つ自分までギャグにする。

 人語を操る猫が様々なおかゆを作る「おかゆネコ」(小学館)も連載中。個性的な登場人物の奇行と、滋味豊かなおかゆの奇妙なマッチング。大ヒット作「伝染るんです。」の不条理ギャグから「育児」に「食」に、笑いを追究し続ける。

 1963年、岩手県生まれ。手塚治虫の「火の鳥」が看板作品の「マンガ少年」を毎号読み、マンガ家への夢を膨らませたという。「この度の受賞は何よりの勲章であり、叱咤(しった)激励でもあると思っています」

(2015年4月29日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 手塚作品との最初の出会いはテレビでした。アニメ、特撮で手塚治虫の基礎をある程度身につけ、小学4、5年生の時『ブラック・ジャック』『三つ目がとおる』に、リアルタイムの少年読者として出会えた。まにあった! と今となっては思います。その後『火の鳥』を看板に掲げた雑誌「マンガ少年」を毎号買い、隅から隅まで読み、復刻された『鉄腕アトム』の単行本を買い集め、ただの漫画好きの読者から「将来漫画家になりたい読者」に、はっきり自分が変わっていった。そんな強烈な流れの中で、常に大きく輝いていたのが手塚治虫先生でした。少年の頃憧れていたストーリー漫画家ではなく、ギャグという道に活路を見いだし、今に至るわけですが、4コマ漫画一本にも手塚先生や他の先輩方の「漫画スピリット」が流れているのだ、ぜんぜんそうは見えなくても! という気持ちは常にあります。そんな自分に、このたびの受賞はなによりの勲章であり、そして叱咤(しった)激励でもあると思っています。

(2015年の贈賞式小冊子から)

  • おかゆネコ
  • おかゆネコ

おかゆネコ©吉田戦車/小学館既刊1~5巻(2016年2月現在)

  • まんが親
  • まんが親

まんが親©吉田戦車/小学館既刊1~4巻(2016年2月現在)

吉田戦車吉田戦車さん1963年、岩手県生まれ。「伝染るんです。」で91年に文芸春秋漫画賞を受賞。主な代表作に「火星田マチ子」「はまり道」「ぷりぷり県」「吉田自転車」などがある。(2016年1月22日現在)

特別賞

特別賞みつはしちかこさん

「小さな恋のものがたり」を半世紀以上にわたり書き続け、完結させた業績に対して

小さな恋のものがたり

作者に聞く

 小さな野の花のような少女チッチ。彼女が一途に慕う、ノッポでハンサムのサリー。1962年に雑誌連載を始め、シリーズ累計2千万部を超す名作「小さな恋のものがたり」(学研パブリッシング)を、昨年刊行の第43集で完結させた。

 大病による長い執筆休止、後遺症で動かぬ手。そんな困難をまったく感じさせず、切なく愛らしい「小恋(ちいこい)」の世界を描ききった。

 1941年、茨城県生まれ。朝日新聞日曜版では、80年から22年間「ハーイあっこです」を連載した。

 「私の意識の中で、マンガ家になるという夢はまだまだ途中のようです。卒業式が入学式に続くように、卒業と入学を繰り返しながら、大好きなマンガを描き続けたいと思っています」

(2015年4月29日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

 今回は「手塚治虫文化賞特別賞」を頂きありがとうございました。細かいことですが説明をよく見てみましたら、特別賞というのはマンガ文化の発展に寄与した、と過去形で書いてありましたが、私はどうもその実感がなく、これは間違いかもしれないという思いがあります。でも受賞のお電話を頂いてすぐ喜んで頂きますと返事をしてしまったので、有難(ありがた)く頂いてしまいました。

 「小さな恋のものがたり」は50年続けた私のライフワークのようなマンガですが一応去年、43集で終わりとしました。でも私の意識の中でマンガ家になるという夢は、まだまだ途中のようです。卒業式が入学式に続くように、私のマンガも終わりから又(また)はじまりへと続きます。あとどのくらい生きるか分かりませんが一生、卒業と入学をくり返しながら大好きなまんがを描き続けたいと思っています。

 そもそも私の描いたマンガを一番はじめに見て頂いたのが手塚先生でしたから、あの時の勇気と情熱を思い出し、いくつになってもあのスタートラインに立てるマンガ家志望の私でありたいと思っています。

(2015年の贈賞式小冊子から)

  • 小さな恋のものがたり

小さな恋のものがたり©みつはしちかこ/学研パブリッシング全43巻

みつはしちかこみつはしちかこさん1941年生まれ。幼い頃から絵や詩、漫画に親しむ。アニメーション会社に勤めながら、高校時代のクラブ漫画日記をもとに4コマ漫画「小さな恋のものがたり」を描きためた。それを雑誌「美しい十代」に持ち込み、デビュー。同作は76年にミリオンセラーを記録、77年に日本漫画家協会優秀賞を受賞した。(2016年1月28日現在)