第20回 手塚治虫文化賞 2016

※ マンガ大賞が特別に2作品選ばれました

マンガ大賞

マンガ大賞鼻紙写楽一ノ関 圭さん

鼻紙写楽

作者に聞く

 「物語は完結してナンボと思っているので、この作品はまだ途中なのに賞などもらっていいんだろうか、と戸惑いました」

 秋田県出身。東京芸大で油絵を学んでいたが「何かが違う」と感じ、幼い頃から親しんだマンガへ。1975年にビッグコミック賞を得た「らんぷの下」でデビューした。

 前作「茶箱広重」に続き浮世絵師を描く「鼻紙写楽」は、老中田沼意次の失脚から寛政の改革へ移る時代を背景に、上方の実在の絵師如圭を後の写楽と位置づけ、五代目市川団十郎とその娘、息子らが絡む濃密なドラマを展開する。

 「写楽の正体には諸説あるが、絵師の如圭を選んだのは、彼の絵がどう変遷し写楽の完成形へ至るかを絵そのもので見せたいから」

 2001年から09年まで描き継いだが、掲載誌の休刊で中断を余儀なくされた。描き下ろしを加えて昨年出した単行本は「四半世紀ぶりの新刊」と話題になった。卓抜した画力、綿密な考証、キレのいいせりふ、香気豊かな江戸情緒を愛するファンも、この寡作ぶりには泣かされる。

 「いま続きを描いているが、写楽がどのように出現しなぜ突然消えたのか、その謎に到達するまではまだまだ。キーパーソンはもう出してあるんですけど。受賞は、しっかり終わらせないといけないよ、というエールと受け止めます」

(2016年4月27日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

小説の行間にひそかな味わいがあるように

 受賞を知らせる電話でまず思ったのが、物語が終わってないのにいいんだろうか、ということでした。この先着地がとんでもなく失敗したら返せといわれるんではないか、と。

 江戸時代、浮世絵師の中で東洲斎写楽は十カ月の作画期間しかわからない謎の絵師とされているが、彼の周囲は有名で饒舌な人間ばかり。言わなくていいことまで喋っているのになぜ誰も写楽を知らないふりするのだろうか。彼が描いた役者はすべて実在の人物で詳細な人間関係がわかっているのになぜ誰も写楽に触れないのだろうか。

 小説の文章の行間にひそかな味わいがあるように、歴史年表の行間にも味な人々が跋扈(ばっこ)していて踊りはねては消えていく。写楽もそのように捉えたら謎も謎でなくなるのではないか。最後まで同時代に生きて写楽の軌跡を体験したら……。

 ふと我に返り、あわてて短く呟いて電話を切ったのでした。「励みといたします。ありがとうございました」

(2016年の贈賞式小冊子から)

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鼻紙写楽©一ノ関 圭/小学館

一ノ関 圭一ノ関 圭さん秋田県出身。1975年、『らんぷの下』でビッグコミック賞受賞。主なコミック作品『裸のお百』『女傑往来』『茶箱広重』『ほっぺたの時間』。主な絵本の挿画『絵本 夢の江戸歌舞伎』(岩波書店)、『おおふじひっこし大作戦』(福音館書店)、『琉球という国があった』(「月刊たくさんのふしぎ」2012年5月号・福音館書店)。(2016年4月27日現在)

マンガ大賞よつばと!あずまきよひこさん

よつばと!

作者に聞く

 「受賞を聞いて『やったぜ!』というより『どうしよう?』。自分が『マンガ』というバトンを持って走っているランナーだとしたら、手塚先生は第1走者。特別な存在です」

 1968年、兵庫県生まれ。初連載の「あずまんが大王」は、個性豊かな女子高生たちのユーモラスな学園生活を描き、アニメ化もされた。

 2003年から「月刊コミック電撃大王」(KADOKAWA)連載中の「よつばと!」は、ある町に「とーちゃん」と引っ越してきた5歳の元気な女の子「よつば」の日常を丁寧に描く。

 花火、自転車、お菓子作り、キャンプ……。よつばは未知の世界に触れ体全体で喜びを表す。

 「ネタのヒントのために近所の子や友人の子を観察したりはしますが、モデルはいない。自分の中に生まれたよつばという女の子のドキュメンタリーを撮っている感じ。ある場所に連れていくだけで、あとは勝手に動き出す」

 かわいさに癒やされるユートピアであり、子供のいる日常のリアルもある、不思議なマンガだ。流れる時間もゆっくり。13巻まで進んだが、劇中では4カ月足らずしか経っていない。

 「1巻の帯に『いつでも今日が、いちばん楽しい日』とある通り、子供の一日一日を描いていきたい。『よつばと!』でやることは全部やったなと思えるまで続けます」

(2016年4月27日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

私は運がいい

 まずこの場を借りて、漫画を描くために協力してくれた皆さんにお礼を言わせてください。

 漫画を酷評してくれる同僚、リテイクに次ぐリテイクをこなしてくれるアシスタント、あがらない原稿を待ち続けてくれる編集さん、出ない新刊を楽しみにしてくれている読者のみなさん、どうもありがとうございます。

 こういう賞を頂ける私は、運がいい。

 特に受賞を目指してがんばったわけでもなく、自分が描きたいものを描いて、そのついでに人も喜んでくれたら、これはお得だな、と思いやってきました。

 これを機会に更にがんばっていきたいと思います。そんなにがんばってないんですけど。もうすこしだけがんばってみます。

 ありがとうございました。

(2016年の贈賞式小冊子から)

  • よつばと!
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  • よつばと!

よつばと!©KIYOHIKO AZUMA/YOTUBA SUTAZIO既刊1~13巻(2016年4月現在)/KADOKAWA

あずまきよひこあずまきよひこさん1968年生まれ、兵庫県出身。代表作に『あずまんが大王』『よつばと!』などがある。『よつばと!』は現在も「月刊コミック電撃大王」にて連載中。(2016年4月27日現在)

新生賞

新生賞安藤ゆきさん

主人公のユニークな造形が光る「町田くんの世界」の清新な表現に対して

町田くんの世界

作者に聞く

 少女マンガには型破りな男性キャラが多いが、本作の主人公「町田くん」は全く逆の意味で型破りだ。

 物静かでメガネ。まじめだが成績は中の下。不器用で地味。でも人に優しく、誰にも好かれる天然の「人たらし」で、そよ風のように周りの世界を心地よく変えていく。軽い気持ちで「かわいい!」などと言われるヒロイン「猪原さん」は、無駄にキュンとさせられるばかりだけれど。

 大阪府生まれ。2004年に「星とハート」でデビュー。「町田くんの世界」は、昨年から「別冊マーガレット」(集英社)で連載中(既刊3巻)だ。

 「『町田くんの世界』を描き始めたことによって、今まで以上に人とのつながりや、人に支えてもらっていることを実感しています」

(2016年4月27日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

人に支えてもらっていることを実感

 このたびは、「手塚治虫文化賞 新生賞」という、名前だけでもとても嬉しい賞に選んでいただきありがとうございます。

 自分では一生懸命描いていますが、正直地味な作品だとは思うので、皆様に読んでいただけてとても嬉しいです。

 『町田くんの世界』を描き始めたことによって、今まで以上に人とのつながりや、人に支えてもらっていることを実感しています。

 この賞をいただけるのも読者の方々や、直接関わることの出来ない方々に支えていただけているからこそだと思います。

 今後もその支えを励みに精進いたします。

(2016年の贈賞式小冊子から)

  • 町田くんの世界
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  • 町田くんの世界
  • 町田くんの世界

町田くんの世界©安藤ゆき/集英社既刊1~3巻(2016年4月現在)

安藤ゆき安藤ゆきさん大阪府生まれ。2004年に『星とハート』でデビュー。「別冊マーガレット」(集英社)を中心に活躍。現在、同誌に『町田くんの世界』を連載中。(2016年4月27日現在)

短編賞

短編賞じみへん中崎タツヤさん

四半世紀にわたった連載で築き上げた唯一無二の笑いの世界に対して

じみへん

作者に聞く

 親との同居問題に悩む宇宙人と人間の恋人。わけありの女ばかりを薦めるポン引き。炊きたてご飯を土足で踏ませるストレス解消教室……。「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)の片隅で1989年から昨年まで、「地味に変な笑い」を提供してきた。

 1955年、愛媛県生まれ。1978年デビュー。食べ物、ギャンブル、セックスなど、下世話なネタをズレた笑いへ転化させる探究はいつしか宗教的境地へ。徹底して物を持たない生活をし、原稿は焼却、完結と同時に断筆。受賞の言葉も「じみへん」節全開だ。

 「認められて喜ぶ自分がいる。それを見てバカじゃねーのと思う自分がいて。面倒くさい。というのが、賞に対する気持ちの説明としてしっくりくる」

(2016年4月27日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

賞に対する気持ちの説明

 賞が苦手。理由を考えてみた。

 子供のころに否定されて育って承認欲求が反発に変わったような気がする。自分を正当化するために、自分を認めない親を否定する。嫌なところばかりを探す。そして認められてたまるかという子供と親の関係になる。

 親離れするとその関係は個人(私)と社会(世間)に移行して、私は世間の嫌なところばかりを見て、そんなくだらない世間に認められてたまるかという反発をする。他人が敵にしか見えない人間のでき上がりですね。

 とはいうものの反発だけかというとそんなことはないわけです。秩序を守りますし。気持ちの一番の根っこには認められたい欲求があるわけです。認められて喜ぶ自分がいる。それを見てバカじゃねーのと思う自分がいて。面倒くさい。というのが、賞に対する気持ちの説明としてしっくりくる。

(2016年の贈賞式小冊子から)

  • じみへん
  • じみへん

じみへん©中崎タツヤ/小学館全12巻

中崎タツヤ中崎タツヤさん1955年、愛媛県生まれ。1989年、「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて『じみへん』を連載開始。2015年に還暦を迎え漫画家を引退するまで、26年にわたり連載。1992年、『問題サラリーMAN』で第38回文藝春秋漫画賞受賞。主な作品に、『身から出た鯖』『男の生活』『もたない男』など多数。(2016年4月27日現在)

特別賞

特別賞京都国際マンガミュージアム

10年にわたり博物館と図書館の両面からマンガ文化に貢献した活動に対して

京都国際マンガミュージアム 外観

 マンガ学部のある京都精華大と京都市の共同事業として開館し、今年11月に10周年を迎える。元小学校の建物を利用し、地域住民も運営に参加する。

 展示の企画や研究を行う博物館機能と、図書館機能を持つ。蔵書30万冊のうち5万冊が総延長200メートルの書棚「マンガの壁」に並び、館内や芝生の上などで読める。昨年の来館者は約30万人で、うち外国人は過去最高の5万人弱。日本のマンガ文化にたっぷり触れられる人気スポットだ。

 養老孟司館長は「館内では仏師の寄木造(よせぎづくり)による『火の鳥』が美しく羽を広げています。手塚先生にも『行ってみたい!』と思っていただけるような館運営に、今後も真摯(しんし)に取り組んで参ります」。

(2016年4月27日付、朝日新聞朝刊)

受賞コメント

手塚先生に「行ってみたい!」と思っていただけるよう

 京都国際マンガミュージアムは、今年11月で開館10周年を迎えます。

 「京都」は古き良き伝統と新しい文化を織り交ぜながら、時代と向き合ってきた街です。進取の気風を持って新しい物を取り入れる地元・龍池学区のご支援なくして、元小学校を活用したこの事業は成立しませんでした。

 年間約30万人の来館者のうち約5万人が海外から訪れます。日本マンガの翻訳版、バンドデシネ(仏語圏のマンガ)やアメコミといった、様々な国・地域の出版物たちは、「国際」的なマンガの有様を目に見える形で教えてくれます。

 「マンガ」は美術品ではなく大衆娯楽として長らく親しまれてきました。ゆえに「ミュージアム」では扱いづらい対象でもありますが、京都国際マンガミュージアムは日々、両者の接合に挑み続けています。

 館内では、仏像彫刻の技術によって制作された巨大な「火の鳥」が美しく羽を広げています。手塚先生にも「行ってみたい!」と思っていただけるような館運営に、今後も真摯に取り組んで参ります。

 このたびは、本当にありがとうございました。

(2016年の贈賞式小冊子から)

  • メインギャラリー(常設展示)”マンガって何?”会場
  • 書架「マンガの壁」の一部
  • 火の鳥オブジェ
  • ニガオエコーナー
  • カフェ壁面サイン
  • マンガ家手形

1:メインギャラリー(常設展示)”マンガって何?”会場2:書架「マンガの壁」の一部3:火の鳥オブジェ4:ニガオエコーナー5:カフェ壁面サイン6:マンガ家手形

京都国際マンガミュージアム2006年11月、京都市とマンガ学部を擁す京都精華大学との共同事業として開館。図書館と博物館の機能を兼ね備えた、日本初のマンガの総合文化施設。建物は市中心部にある昭和初期建造の元小学校をリノベーションした。所蔵資料は約30万点。開架書棚「マンガの壁」に並ぶ約5万冊のマンガは手に取って館内や芝生の上で読める。(2016年4月27日現在)