寿司だねの旅 - アナゴ(穴子)|すしに会いに|築地 - 時代の台所:朝日新聞デジタル

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すしに会いに 寿司だねの旅

寿司だねの旅 あなご編

やさしさあふれる、江戸前アナゴ漁

文:小林恵士 撮影:竹谷俊之

白焼き、天ぷら、煮アナゴの3点盛り。それぞれ、アナゴの違ったおいしさが引き出されている=横浜市金沢区海の公園の「かりんの木」

 あたたかさが残るアナゴをほおばり、ふわふわとした食感に顔がほころんだと思った瞬間にもう、消えていく。アナゴのにぎり寿司は、唯一無二の「ふわっと感」が魅力だと思う。おいしくなるのは梅雨の時期と言われる。江戸前が示す「江戸の前」、つまり東京湾での漁が今も続いている。中でも有名なのが横浜・小柴(こしば)のマアナゴ。伝統の筒漁をしている齋田芳之さん(59)の船に乗せてもらった。

【動画】横浜・小柴のアナゴ漁

キーワードは「やさしい漁」

 6月末の月曜、東京から車で約1時間。高層ビルが立ち並ぶ都心を抜けても、住宅街が続く。それほど遠くに来た気もしないまま、海が見えてきたなと思うとすぐ、柴漁港に着いた。「都会の漁港」という感じだ。小柴といえばシャコ漁で知られる。漁獲が減り禁漁が続いていたが、5年前に復活。資源を見ながら、春と秋に漁をしている。ほかに、スズキやタチウオなどを狙う底引き船が50隻超、アナゴ筒漁の船が10隻ほど操業している。

アナゴの筒漁をする船が並ぶ柴漁港。それぞれの船の右舷側に、壁のように筒が並べられているのが見える。乗せてもらったのは、一番手前の「第六金亀丸」=横浜市金沢区柴町

 太陽が真上に上がるころ、漁師が集まり始めた。小柴のアナゴ筒漁は基本的に、午後に筒をしかけ、翌早朝に引き揚げる2日がかりで行われている。齋田さんの「第六金亀(きんき)丸」を見ると、船の右舷側に壁のように筒が並ぶ。全部で600本。周りの船もほぼ同じだ。

 筒は塩ビ製で、直径10センチ・長さ80センチ。円錐(えんすい)形で先に切れ込みが入った「ふた」が両側についていて、えさの匂いにつられたアナゴが筒に入る仕掛けだ。齋田さんによると、アナゴは海でも、岩の隙間などにすし詰めでも仲良くしている。仲間と身を寄せ合っている状態が好きなので、筒に入っている間もストレスがたまらず、「やさしい漁法」だという。

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01:冷凍のカタクチイワシを筒に入れる作業をする齋田芳之さん。この日は日差しが強く、溶けてしまわないように、頭上をシートで覆っている

02:木や竹の棒を使ったり、手だけで押し込んだりと人によってやり方が違う=いずれも横浜市金沢区の柴漁港

 筒の側面には、小さな穴がいくつか空いている。これは何のため?

 「水抜き穴ですが、小さなアナゴを逃がすためでもある」と齋田さん。「穴は13ミリ以上と決めています。だいたい生後1年ほどの、30センチ程度の小さなアナゴはそこから逃げられる。せっかくのアナゴなので、大きくして付加価値を付けた方がいいでしょ」。この形式の筒は、1998年に神奈川が初めて導入し、その後、東京湾で漁をする千葉、東京の1都2県で歩調を合わせているという。

慣れた手つきでえさを押し込む(左から)齋田矩一さん、森田正さん、齋田芳之さん=横浜市金沢区の柴漁港

 この日のえさは10センチほどのカタクチイワシ。10~15匹くらいを、筒の中に押し込む。季節によってはイカを使うこともあるそうだ。

 600本すべてにえさを詰め終わり、午後1時半ごろ出港。八景島シーパラダイスの横を抜け、対岸の千葉方向へ船を走らせる。海岸線には途切れなく、ビルや工場の煙突が見える。見覚えのあるベイブリッジなども遠くに見え、「東京湾の漁」を実感する。

 この日、同じ筒漁に出たのは7隻ほど。漁協で漁をする時間をそろえており、午後2時にスタート。齋田さんが無線で合図すると、それぞれの船が一斉にエンジンをふかし、しぶきを上げて漁場に向かう。

午後2時に漁がスタート。波を蹴立てて一斉に漁場に向かう=横浜市金沢区の柴漁港沖

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