築地 - 時代の台所

マグロ 世界のごちそうになった魚 プロローグ

「生で食べたい」 時代が叶えた

 どんな場面でも、赤い姿は安心を与え、いないと穴があいたよう。マグロは食卓の看板役者だ。存在感は魚の中で別格、ごちそうの座を争う牛肉とも違う。

 まずは寿司。銀座にのれんを出すような高級店であれ、郊外のスーパーの持ち帰りであれ、マグロなしに、にぎり寿司は成り立たない。居酒屋の壁の品書きにはコロコロに切った「マグロぶつ」、山あいの温泉宿の膳にも刺し身が一切れ、ふた切れ。いつでもどこでも、魚を生で食べたいという日本人から湧きでる思いをマグロは引き受け、船は近い海、遠い沖からマグロを集めるようになった。

 そのかじ取りをしてきたのが、築地市場である。年間のマグロの取引額は620億円(2013年)、せりをする卸売会社が5社、650軒ある仲卸の3割がマグロ専業という大所帯。江戸時代からマグロを代々扱ってきた家族も仕事を続けている。市場の外では、海洋資源の管理が地球規模の課題となっている。公共の市場としてこれからどんなマグロを扱っていくのか、その責任も問われる。

まぐろ類 181.66 億円
まぐろ類
181.66
億円
冷まぐろ類 438.49 億円
冷まぐろ類
438.49
億円

築地市場の2013年分取引実績

せりを待つ生マグロ=築地市場

 マグロの大きな体は外洋を速く、遠くまで泳ぐために出来上がっている。血の気が多くて体温も高いという特徴はアスリートとして優秀でも、食材としては傷みやすく、味の劣化が激しいという難題に変わる。

 「昔は下魚だった」「脂肪の多いトロは嫌われた」。そう聞くと私たちの嗜好(しこう)が濃厚な味へと変わってき たように思うが、食卓に届くマグロの質は向上した。下魚を高級魚に育て、トロがおいしく食べられるものになったのは、鮮度を求める漁業や流通の進化によるところが大きい。たとえばマイナス60度で冷凍保存すれば鮮やかな赤い色が保てるという発見。それが何を変えたかは遠洋漁業の水揚げ拠点で探る。

 日本で育った和食や魚食が、多くの人に愛されている。この先、私たちはどんな風にマグロとつきあっていきたいか。しょうゆと米の飯と、これほど相性のいい魚はない。日本の私たちが大事にしない手はない。(長沢美津子)

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