SOMPO パラリンアートカップ

歴代受賞者ストーリー
2016〜2019年

歴代受賞者ストーリー

初のコンテストで栄冠
絵の力を伝えていきたい

山内崇敬さん(山口県宇部市)

宮崎市のシャッター街のグループ展で知り合った山内さん夫妻。創作の時には声をかけられない緊張感も

 緑豊かな丘の上にある自宅兼アトリエで、山内崇敬さんは創作を続けています。絵を描き始めて16年。初めてのコンテスト出展で、2019年のグランプリを射止めました。

 宮崎県出身。高校になじめず、教室に入ると強い吐き気に襲われる毎日。登校を勧める父親とも対立し、親元を離れた大学1年の時に部屋でシャープペンを握ったのが最初でした。自分の描く絵が意外に明るいのに驚いたという山内さん。後にパニック障害、空間恐怖症などの併発と診断される病の苦しさを救ってくれたのが絵だったと、振り返ります。その後はうつうつとした自らの心象風景をさまざまなタッチで描いてきました。「何かのためではなく、自分の中にある怒りや苦しみをアウトプットする感覚でした」

 転機は18年末に祖父が住んでいた現在の家に転居し、倉庫を改造してアトリエにしたこと。絵で生きていく覚悟を自分の中に感じ、「形から入る絵は自分ではないけど、自分の可能性を広げてもいいのか、と」。市の福祉課の職員に勧められて、コンテストへの応募を決めました。題材に自然に選んだのがラグビー。倒れても立ち上がる姿に自分の半生を重ねて描き上げました。結婚4年目になる広美さんは「グランプリは私のほうがはしゃいだのですが、本人も受賞してから前向きになってきました」と話します。

 今年からはアトリエで「アートセラピー・絵染め教室」をスタート。絵染めが専門の広美さんとともに、悩みを持つ人の助けになりたいという思いで開きました。「悶々とした思いをはき出せない人はいるはず。絵に助けられた自分の経験を伝えていければうれしい」

 7匹の猫とともに、「絵を楽しみたい」という気持ちの参加者を迎えています。

受賞で広がる仕事の幅
絵を通じて体に向き合う

カミジョウミカさん(長野県安曇野市)

地元の老舗ラーメン店に頼まれた絵のモデルは自分。FOOD&TIME ISETAN YOKOHAMAにはユーラシア大陸を描いた壁画が

 北アルプスの麓で暮らすカミジョウミカさんは、先天性の骨の異状で14歳から車椅子生活を送っています。19歳の時に病院スタッフの絵を描いたのをきっかけにアート活動を始め、2004年には個展を開催。その後は模索が続きましたが、地元の美術館で展示の機会を得た30歳代後半から開眼し、サッカーを通して地球規模の平和への願いを描いた作品で17年のグランプリを受賞。カフェの壁画、スターバックスの常設作品、大規模フェスの公式Tシャツ、大衆車のラッピングカーと仕事の幅が広がりました。

 「20年以上絵を描いてきてうまくいかない時もあったけど、毎日、こつこつと描き続けていると必ず発見があるはず。受賞でたくさんの人と出会えて人生が広がりました」。19年にはラグビー選手会賞も受賞。表彰式にゲストとして出席したラグビー元日本代表で、現在は米国でプレーする畠山健介選手とはSNSで励まし合う間柄です。

 自分の病気から人体への関心が高まり、ここ数年は脳などをテーマにする作品も増えています。今年は大学病院で10数年ぶりに精密検査を受ける予定。「自分の病気はまだまだわからないことがある。医学も進歩しているので、新しい診断が出る可能性もあるのではないか、と」。自分の体に絵を通じて向きあいながら、創作の幅を広げています。

社会人で貴重な体験
二畳大の作品で個展を再び

飯山太陽さん(栃木県益子町)

月変わりのランチメニューのポスターは飯山さんの作。初の個展は盛況に

 2016年にグランプリ、翌年は準グランプリを獲得した飯山太陽さんは、19年春に県内の特別支援学校を卒業。真岡市の就労支援施設が運営する「そらまめ食堂」で働いています。

 仕事は接客、調理補助、スイーツ作りなど。「最初は接客でも緊張しましたが、スイーツを作り始めると、細かい工夫などに絵と共通する部分もあって楽しいです」。働きながら絵を描く生活になった19年は大きな出来事が2つありました。秋に「第5回Art to You! 東北障がい者芸術全国公募展」で衆議院議長賞を受賞。11月から12月には益子町のカフェスペースで初の個展を開催し、700人を超える来場者を集めました。「社会人になってふれあう人も増え、刺激を受けるようになりました」。

 現在は自宅の一室に二畳分のキャンバスを広げ、ダイナミックな絵に取り組んでいます。「全身を使って描くのが新鮮。7月に20歳になるので、新しい挑戦をしたい」。この作品を軸に、再び個展を開くことが目標です。

障がいの診断を機に
ふたたび絵画の世界へ

山下恵理さん(和歌山市)

一日2時間、絵に向き合う山下さん。あざやかな色使いが持ち味

 サッカー選手会の投票で1位になり、セルジオ越後さんが「ピカソのよう」と絶賛した「楽しいサッカー」で2019年のサッカー部門賞を受賞した山下恵理(筆名・如月虹)さんは、「高校の授業でやったサッカーの楽しさを描きました」と話します。

 大阪府出身で、10歳で和歌山市へ。興味があること以外は集中できず、クラスでも浮いてしまう――。そんな息苦しさを中学、高校と感じながら「学校は行かなければ」と自分を叱咤して通い、皆勤賞ももらいました。

 大学卒業後に入った生保会社は2カ月で退職。地元の市役所で案内係の職を得ましたが、4年目のある日、出勤できなくなり、非定型精神病と発達障害の診断が。子どもの頃からの違和感を病名で突きつけられました。薬は体が受け付けず、2年後に退職。一人でできる作業で自分を表現しようと小説や切り絵に取り組み、たどりついたのは小学生の頃に市長賞を取ったこともある絵画でした。

 様々な画法を試し、昨春、原色を生かした現在のタッチに取り組んだ矢先の受賞。今では販売用の絵とコンテスト出展用の絵を描き分けます。「言葉では伝えられないものを表現しようとするプリミティブアートの熱にひかれるんです」。ピカソが言ったように、いつか子どものような絵を描くことが夢です。