SOMPO パラリンアートカップ2020

受賞者ストーリー

歴代受賞者ストーリー

グランプリ「優勝」
周囲を幸福にできて、受賞を実感

久野浩太郎さん(大阪府)

 「賞を取ったと聞いても最初はピンとこなくて、淡々としていました」。初の公募作品でグランプリを射止めた久野浩太郎さんは、ふだんお世話になっている人が喜ぶ姿を見て、受賞した実感がわいてきたと話します。大阪府内の就労支援施設や地域の支援センターでキャンバスに向かう毎日。訪ねた日は、NBAのバスケットボール選手の絵に取り組んでいました。

 久野さんは小学生のころ、小児がんで入退院を繰り返しました。スポーツは不得手。でも美術の時間は集中することができ、写生画は校内の優秀作に選ばれるほどの腕前でした。空き箱などを使った立体作品なども制作。その頃から美術は得意という自覚はありましたが、実際に絵画に目覚めたのはこの5年ほどのこと。発達障害で通う就労支援施設で絵に取り組みながら、画廊などで現代アートを見るようになり、若手アーティスト小松美羽さんらの作品に引き付けられました。「教科書に載っているような絵は暗いけれど、いまのアートは明るい」と気づき、一気に創作活動にのめり込みました。

 受賞作は、サッカースタジアムをゴール裏から見た写真と、選手が栄冠を勝ち取って喜んでいる写真から構図を練りました。観客に色とりどりの明るい服装をあしらうことで、青いシルエットで立ち上がる選手たちの姿を際立たせています。遠藤彰子審査委員長は「構図の面白さと、観客の姿が丁寧に描かれていて大きな可能性を感じる」と評価。Jリーガーが投票する日本プロサッカー選手会賞とのダブル受賞になりました。

 目標はテーマにこだわらず、絵の力で人を引き付ける作品を描くこと。情報量が多い巨大な作品を描いてみたいそうです。「今回の受賞作もまったく満足はしていません。独学なので、技術書を読んでひたすら描きこむしかない」と、毎日5時間から6時間、施設などでペンを握ります。こだわりは人一倍。施設のスタッフから、「(作品は)まだ完成しないの」と言われると笑います。「絵は過去の嫌な思い出も忘れられる逃げ道であり、救い。そして周りも幸せにできるものだと思う」。そう実感できた、今回の受賞でした。

グランプリ受賞作「優勝」

準グランプリ「平和の燈」
平和と絆への願いを一枚絵で

marumiさん(埼玉県)

 2019年はかつて自ら体験した馬術を、20年はもともとの五輪イヤーにふさわしい聖火リレーを描いて2年連続の準グランプリを受賞しました。「思ったままに描いているだけなので、それが評価されてうれしいです」。埼玉県内の画材販売店で働きながら、創作活動を続けています。

 中学、高校は美術部で過ごしました。もともとコミュニケーションが苦手で、発達障害からくる強迫性障害と診断されたのは、美術を専攻していた大学時代です。子どもの頃から長く親しんでいた絵にかかわりたいと、画材を扱う仕事を希望して現在の職に就きました。ただ3年目のいまも接客には不安がつきまとい、つらいことも多いと打ち明けます。

 その救いになるのが、やはり絵画。色鉛筆、クレヨン、色ペンなど身近な材料を重ねていく独特の画法で動物や海を描きます。「色使いが独特ね」と言われた、小学校時代の女性教師の言葉がいまでも励み。対象物を単体だけでなく、組合わせて世界観を作り出すことも多く、受賞作も採火から点火までの聖火リレーの過程を自然に描いた点が遠藤彰子審査員長に高く評価されました。もとになったのは、2012年ロンドン五輪の開会式を見たときの感動。「聖火リレーを題材に、人と人との絆、そして、平和を願う気持ちを描きました」と控えめに話してくれました。

 これからは創作の幅を広げて、自分の想いを表現していきたいとも。「いつか小さな個展が開ければ」というのがmarumiさんの願いです。

準グランプリ受賞作「平和の燈」

大好きなうさぎの絵をデッサンするmarumiさん

準グランプリ「魂のひと漕ぎ」
いつか壁画を描いて人を元気にしたい

ティンくん(茨城県)

 水の流れにさからいながら、すっと背筋を伸ばした姿勢が美しいカヌー選手。青と白の色合いも鮮やかです。「(選手と水の)互いの力が拮抗しているような緊張感を生み出していて、しぶきのアクセントと青の調子の幅がとても美しい作品です」と遠藤彰子審査委員長が評した準グランプリ作。作者は、20歳になったばかりのティンくんこと落合里穂さんで、「相撲やフェンシングなど、人が描かない作品を描こうと思った」と、ちゃめっ気たっぷり。梅で知られる偕楽園(水戸市)の近くで両親、妹の3人と暮らしています。

 16歳で高校に通えなくなり、自閉症スペクトラムと診断されました。自宅ですごす時間に打ち込むものを見つけようと、紙にボールペンで下書きをして描きはじめたアクリル画に夢中に。家で飼う犬をはじめ動物たちの絵を次々と仕上げていきました。「魂をこめて」と母の悦子さんが表現するように、一心不乱に絵を描くため、数時間が限度。受賞作も下書きをふくめて3日間、計10時間で一気に描き上げたといいます。「人物は苦手。ひさしぶりに描きました」とティンくん。

 取材当日はキリンの絵のTシャツを着用して迎えてくれました。訊けば、インスタグラムのフォロワーさんから贈られたというもの。1,800人近くいるフォロワーにはティンくんの描く動物のファンが数多くいます。「これからもみんなと違う絵を描いて、人々に元気になってほしい」。いつか特大の100号キャンバスや、街の壁に思い切り動物たちを描くのが夢です。

準グランプリ受賞作「魂のひと漕ぎ」

カラフルなくまを描くティンくん。部屋は動物たちでいっぱい

机にはお母さんからのバースデーカードが飾られていました