記者として社会部に配属されたのち、
2015年からスポーツ部に異動。

2020年から再び社会部に籍を置き、
東京オリンピック・パラリンピックを
担当しているという伊木緑記者。

日々の取材はもちろん、
スポーツ界におけるジェンダー問題についても
精力的に取材を続けています。

さまざまな情報が溢れる社会で、
伊木記者が取材を通して見つめる
多様性とは——?

スポーツ界の取材からジェンダー問題に切り込む

スポーツ界で取材していると、ジェンダーギャップを感じることが多々あります。たとえば、競技団体の意思決定層や指導者は大半が男性ですし、同じ競技のプロ選手でも賃金や賞金に格差がある。また、女性選手は容姿に着目されがちな面もありますよね。

そんな取材現場を通じて、ジェンダーの問題に大きな関心を抱くようになり、ジェンダーをめぐるさまざまな問題を取り上げる朝日新聞の企画「Think Gender(シンクジェンダー)」向けに記事を書くようになりました。「Think Gender」は社内の部署横断的な企画で、各部署の有志の記者たちが、それぞれの取材をしているなかで疑問に感じたことやアイデアを形にしています。

思い出深いのは、スポーツ庁が、NHKのテレビ番組「チコちゃんに叱られる!」に登場する「ボーっと生きてんじゃねーよ!」が決めゼリフの「チコちゃん」を、女性スポーツ促進キャンペーンに起用したときの記事です。

世論調査を鑑みると30代〜40代の女性の運動頻度は低く、そこに「スポーツをせずに『ボーっと生きてしまう』女性に向けて“5歳の女の子”が鋭く切り込む!」という趣旨でした。

しかし一方で、運動できない理由が「仕事や家事が忙しいから」「子どもに手がかかるから」なのは調査結果から明らかで、「ボーっと生きているからスポーツをしない」という認識だとすれば大きな間違いです。そこで、「社会構造の問題を個人の意識の問題にするのは間違い」という専門家のご意見を朝日新聞デジタルの記事を通じて投げかけたのです。

この記事は、たくさんの方にSNSでシェアしていただき、「これこそジャーナリズムだと思います」と感想をくださった方もいました。そして、こうした問題は政権を揺るがすような大きな問題ではないけれど、きちんと関心を寄せていかなければならない。社会で感じる「ちょっとおかしいんじゃないか」「不公平なんじゃないか」ということを、もっと伝えていきたいと思うようになりました。

たとえば、最近、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長(2021年2月当時)の森喜朗さんの「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」という発言が大きな波紋を呼びましたよね。私も記者としてこの件を取材するなかで、これまでになく多くの人が反応していたように見受けました。この数年、スポーツを含めてさまざまなところでジェンダーに関する議論が活発化し、世の中が変わってきていると実感しています。

社会の分断を乗り越えるための発信

今は、情報が溢れ、能動的にアクセスしていくらでも取捨できる時代。とはいえ、そこには、断片的だったり真偽が不確かだったりする情報も混在しています。また、受け取る側も、自分の関心に沿った都合の良い情報ばかり選んでしまうこともある。一方で、関心の無い、都合の悪い情報には触れることが少なくなります。つまり、情報が溢れる社会であるがゆえに、人の考え方や価値観の分断が進んでいるのではないでしょうか。

こうした時代の中で朝日新聞に何ができるだろうかと、いつも考えています。たとえば、先にも述べた「ちょっとおかしいんじゃないか」「不公平なんじゃないか」ということを言語化することで、考え方や価値観の異なる人たち同士が少しでも理解しあえるための手助けができればいいですよね。そのようにして、分断を乗り越えていくためのメディアでありたいし、記者でありたいです。

人と人とを情報でつなぐ記者でありたいという願いから、私は顔も名前も出した発信に努めています。記者が各界のゲストを招いて語り合うオンラインイベント「記者サロン」にも参加。さらに、個人のSNSでプライベートや仕事について発信しています。

もちろん読者から直接厳しいご意見をいただくこともあり、それなりに勇気がいることです。それでも発信を続けているのは、朝日新聞の記事は「こんな記者が書いているんだ」と知っていただきたいから。また、SNSで直接リプライできずとも、そのご意見を目にしたうえで取材し、記事にすることで、読者との「双方向性」が実現できていることもあるように思います。私の人となりや日常を垣間見て「こんな記者もいる」と知ってもらうことで、「この人なら、朝日新聞なら、わかってくれるかも」と感じていただければ嬉しいです。

「自分には見えていない世界がある」と自覚する

新聞を読めばとりあえず世の中の「今」を網羅することができます。関心のある分野の記事はもちろん、関心のない分野の見出しも目に入り、そこから世界を知ることもあるでしょう。朝日新聞デジタルのトップページは、配信を担当する部署がピックアップした今読んでほしい記事とともに、そのような網羅性も備えています。まずは、朝日新聞デジタルのトップページをのぞいてみてください。

また、朝日新聞にはさまざまなバックグラウンドの記者がいて、それぞれの視点や考え方を持って記事を書いています。記者にも多様性があり、それが記事に反映されているわけです。もちろん、私自身にも独自のバックグラウンドや視点があります。

私は、「自分にはわからないことがあるかもしれない」という自覚を持つことが、多様性のある社会の実現、情報が溢れるがゆえに進む社会の分断を埋めると考えています。すべての人の気持ちを理解することは不可能だからこそ、自分には見えていない世界があることを意識するべきではないでしょうか。朝日新聞の記事を読んで、知らない世界への想像力を高めていただけたら嬉しいです。

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