朝日新聞社の記者は、日々どんな思いで
取材活動をしているのでしょうか。

今回話を聞いたのは、記者生活9年目、

福島第一原発などの取材を担当する
福島総局の福地慶太郎記者。

原子力規制委員会といった
中央機関だけでなく福島の方と向き合う中で、

「さまざまな意見を聞き、記事として
世に出せる新聞の意義を感じた」といいます。

ただ“伝える”だけではない、

福島の未来につながる記事を書くために
模索する日々を聞きました。

個人線量計を携帯して原発構内を取材

福島第一原発の廃炉作業や、除染で出た汚染土を運び込んでいる中間貯蔵施設、原発事故で避難を余儀なくされた方々の状況、被ばくによる健康への影響などを取材しています。今は新型コロナウイルス感染症対策で立ち入りが制限されていますが、多いときは月に1回ぐらいのペースで原発構内に入って取材をしています。

福島総局に着任した際、被ばく線量を計測する「個人線量計」が支給されました。取材時には必ず持ち歩き、累積の被ばく線量を上司に報告しています。体に影響が出るとされているほどに上がることはありませんが、原発構内や避難指示区域に入れば、普段福島市などで過ごしているときよりも線量の数値は高くなります。

私は、2020年4月に福島総局に異動となり、妻と子どもと一緒に引っ越してきました。入社後、静岡総局、水戸総局、東京本社の科学医療部を経て今に至ります。科学医療部に在籍していたころから原子力規制委員会や福島県、専門家の情報に触れることが多く、福島の放射線量はすでに低下していて、家族で問題なく暮らせる環境だという認識があった。ただ、実際に福島に来てみて、国や専門家に「安全だ」と言われても不安が消えない、信用できないと感じている市民が多いことも知りました。

たとえば、除染で出た汚染土の中間貯蔵施設がある大熊町や双葉町には、「ここが最終処分場になるのではないか」という疑いを持っている人がいます。国は、汚染土のうち放射能濃度が比較的低い土は農地や道路工事に再利用し、残りは福島県外で最終処分をする方針です。福島だけの問題ではなく、国全体で考えるべき課題であるということも伝えるために、事故から10年という節目でもある2021年の3月に、汚染土の再利用や処分地の受け入れについて46都道府県の知事に賛否を聞いたアンケート結果を記事にしました。なかなか進まない難しい議論ですが、メディアからもアクションを起こし、未解決の課題に光を当てることができたらと思っています。

分断を生まないために、さまざまな意見を聞く

科学医療部で厚生労働省や原子力規制委員会を担当していたときには、数値などのデータやファクト、国内外の専門家の研究成果をよく記事にしていました。一方、福島で、人々の気持ちや不安と向き合う機会が増えたことで、記事がどう読まれているのか、どんな記事が必要なのか、考えるようになりました。記者生活の中で幾度となく問われてきましたが、「市井の人の声を聞く」ことの大切さを、あらためて心に留めています。

たとえば、福島の原発事故を巡っては、県外に避難した人と県内に残った人、処理水を海に流すことをやむをえないと思う人と反対する人、被ばくの影響を不安視する人としない人など、さまざまな意見の違いが生まれ、時に分断を生み出してしまいます。また、被ばくの問題でも「悪影響はない」という専門家の声だけを抽出すると、不安に思う人を無視することになりかねないですよね。

さまざまな立場や意見の人に話を聞くことができて、それを記事として世に出せるのが新聞の強みであり意義ではないでしょうか。だからこそ、分断をあおらない、作らないよう、一面的でなく多面的な内容や見せ方にする必要があると強く思います。

一つのテーマでも異なる意見がたくさんあり、過去の経緯もさまざまです。私自身もよく使うのですが、朝日新聞デジタルの検索機能は過去の記事を追うことができるので、問題の経緯もわかりますし、さまざまな立場の人の考えに触れて、意見の多様性も知ることができます。朝日新聞デジタルを読んで、自分と違った意見も同じ意見も見つかるでしょう。そういったさまざまな意見を踏まえて、社会として一つの方向性が見えてくれば……理想論かもしれませんが、その一助になればと思っています。

記者の多様性が、対話を生み出す記事へ

今後の取材で重要になってくるキーワードは「対話」だと思います。福島には、「未来会議」という、原発事故で避難した人や行政、マスコミなど多様な人が集まり、「自分と違う意見を否定しない」というルールのもと本音で語り合う場があります。私はここで、誰の意見が正しいかを議論するのではなく、言いたいことを自由に言える場があることの重要性を、また、対話によってお互いの境遇を理解することで、信頼感や問題解決のヒントが得られたりするのだということを知りました。

記事では両論併記という形をよくとります。ただ、対立意見を“言わせっぱなし”にするだけでは限界があると感じることもある。そこを結びつける役割、対話を生む役割を新聞は担えるのではないでしょうか。私たち記者も、そんな未来を見据えて行動していかなくてはならない。「未来会議」から行動のヒントをいただくことができました。

私が携わる福島の取材に関してもそうですが、社内の記者の意見も一枚岩ではなく、考え方が対立することもしばしばです。最終的には一つの記事に至る過程で悩みながら、この意見に共感したとか、この意見とは自分は違うとか迷いながら書いている。そういう議論や経験をしながら記者自身も答えを探しているし、それが記者の多様性にもなります。朝日新聞社の中に多様性があるからこそ記事にも反映できる。朝日新聞デジタルから、さまざまな意見を感じ、対話の糸口を見つけてもらえたら嬉しいです。

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