2023年度大学入試振り返り
近年、医学部の人気が続いていますが、2023年度の国公立大と私立大の医学部入試では、各地で「弱気出願」の傾向が見られたようです。23年度の入試動向を振り返ります。(写真=Getty Images)
国公立大学の医学部は志願者が1167人増加
18歳人口の減少に伴って大学志願者数が緩やかに減っている中、人気を維持しているのが医学部です。私立大の23年度の志願者数データは4月時点ではまだ出そろっていませんが、国公立大の一般選抜は募集人員が64人減少する中、志願者数は1167人増加し、競争が厳しくなっています。
国公立大の一般選抜は、前期日程と後期日程があり、それぞれ1校ずつを選んで出願します。23年度の前期日程は、地区別でみると東海・北陸、北海道、東北の志願者が増加し、中国・四国はやや減少傾向でした。
各大学への出願傾向はどうだったのでしょうか。国公立大の合否は、大学入学共通テストの得点と、大学ごとに実施される2次試験の得点の合計で決まります(大学によって違いがある)。また、多くの私立大でも共通テストを利用した受験方法があります。
平均点は回復したものの「弱気出願」
国公立大は共通テストの実施後に2次試験の志望校に出願するため、共通テストの結果を踏まえて出願先を決めることになります。多くの医学部受験者に課される「5教科7科目理系型(900点満点)」の共通テストの平均点を見ると、共通テスト導入初年の21年度は571点でしたが、22年度は510点と大幅ダウンしました。このため、志望校を東大や京大などの旧帝大から難易度を下げた大学に変更したり、共通テストの配点割合が低い大学に志願者が集まったりする傾向がありました。
そして23年度の平均点は、548点でした。駿台グループ医学部予備校プロメディカス東京駅前校マネージャーの細谷一史さんはこのように分析します。
「平均点は22年度よりは回復したものの、2年前よりは低いという結果を受けて、『弱気出願』が各地で見られました。自分の得点が低かったと思い込み、合格しやすそうな大学に出願が集まったのかもしれません」
不利な条件の大学こそ、狙い目
医学部の多くは、共通テストの成績をもとに第1段階選抜を実施し、その合格者だけが2次試験に進める「2段階選抜」を導入しています。23年度は、岡山大が2段階選抜の実施基準(募集人数に対する志願者数の倍率)を4倍から3倍に、広島大が7倍から5倍へと厳しくしたことで、志願者数が減少しました。名門会入試対策課医学部入試総責任者の鈴木博さんはこう話します。
「受験生にとって不利な条件が加わると、競争率は下がる傾向があります。しかし、そういう大学こそ、狙い目とも言えます。不利だからといって逃げるのではなく、果敢にチャレンジしたほうが道は開けるでしょう」
高倍率の大学を敬遠して、出願先を変更したほうがいいかどうか。受験生は悩むところですが、「考えることは皆同じ」であり、こういった戦略が必ずしもうまくいくとは限りません。
後期日程は実施する国公立大の数が限られており、募集定員も少ないのが特徴です。23年度は岐阜大学が後期日程の募集を廃止したため、近隣の大学の後期日程の志願者数が増加しました。
「後期日程は面接や小論文が中心の大学が多い中で、学科試験がある大学は逆転を狙いやすく、出願者が集まります。例を挙げると、宮崎大学は後期日程の倍率が22年度に比べて3倍以上に高くなりました。旭川医科大学も出願者が大幅に増えています」(名門会・鈴木さん)
順天堂大が学費900万円値下げに、各大学も続く

近年の私立大の医学部人気は、08年度に順天堂大学が学費を約900万円値下げしたのを皮切りに、ほかの私立大も値下げするところが相次いだことも影響しています。23年度は大阪医科薬科大学が約300万円、関西医科大学が約670万円の引き下げを発表しました。学費面を懸念する受験生には歓迎される動きです。
また、ほかの学部と同様に、医学部も学校推薦型や総合型選抜での入学が増加しており、23年度もその傾向が継続しています。
「一般選抜よりも早く合格が決まるので、やはり人気は高いです。面接や小論文のほかに、共通テストだけでなく学科試験を課している大学も多く、学校推薦型や総合型選抜でも不合格が当然のようにある状況です」(駿台プロメディカス・細谷さん)
24年度は変化前の最後の年
24年度以降の医学部入試は、どのように変化するでしょうか。22年度から高校の学習指導要領が変わり、25年度の共通テストからは新しい学習指導要領に対応した問題が出題されます。共通テストの出題科目に「情報」が加わるほか、思考力、判断力、表現力を評価する傾向がさらに強くなることが予想されています。24年度入試は、新課程になる前の最後の入試となるわけです。
「受験生としては新課程になる前に合格したいという気持ちが出てくるでしょうから、志望校は安全志向になることが予想できます。ただし、新課程になっても理系への影響は少ないうえに、既卒者が不利にならないような経過措置がとられますし、負担が増すのはどの受験生も同じです。そこまで怖がる必要はないと思います」(名門会・鈴木さん)
駿台プロメディカスの細谷さんも「入試が変わるからといって、志望校や志望学部を変えるのは本末転倒」としたうえで、こう言います。
「今後、医学部の定員が削減されるといったことが言われていますが、24年度は大きく変わらないことが決まっています。制度や入試方法に左右されずに『何のために医師になるのか』という軸をしっかり持って受験に臨んでほしいと思います」
(文=中寺暁子)

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