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東京工業大学と東京医科歯科大学が2024年度に統合すると発表されました。近年はほかにも国公立大学の統合が進んでいます。統合には二つのパターンがあり、1法人が複数大学を運営する「アンブレラ方式」と、一つの同じ大学になる形です。統合することによって、学生たちには学びの幅が広がるメリットがあります。(写真=Getty Images)

「アンブレラ方式」とは?

国公立大学や法人の統合例は近年、多くなっています。2020年度に名古屋大学と岐阜大学が法人統合、22年度には小樽商科大学と帯広畜産大学と北見工業大学、また奈良教育大学と奈良女子大学が法人統合しました。さらに、同年度には、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、大阪公立大学という一つの大学になりました。東京工業大学と東京医科歯科大学は24年度に統合し、東京科学大学(仮称)に生まれ変わります。

「国公立大学の統合にはいくつかの種類が存在します」と話すのは、追手門学院大学で客員教授も務める倉部史記さんです。

「大きく分けて2パターンあります。一つ目は、1法人が複数大学を運営する形で統合する『アンブレラ方式』です。東海国立大学機構という国立大学法人をつくり、そのもとで名古屋大学と岐阜大学を運営する形や、国立大学法人北海道国立大学機構をつくり、そのもとで小樽商科大学と帯広畜産大学と北見工業大学を運営する形が代表例です。これは各大学の個性を損なわずに、経営資源を共有化できるメリットがあります。

同じ1つの大学になって研究力を高める

二つ目は、法人・大学とも統合し、1法人1大学とするもので、東京工業大学と東京医科歯科大学が東京科学大学(仮称)となる形が、このパターンです。東京科学大学は医学系と工学系という双方の強みを合わせた『医工連携』で、より大きな相乗効果が期待できると判断したのでしょう。具体的には、同じ一つの大学になることで、より研究力を高め、政府が掲げる『国際卓越研究大学』に認定されることを目指したと言われています」

国際卓越研究大学制度とは、国際的に優れた研究の展開や経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が見込まれる大学を「国際卓越研究大学」として認定し、政府が10兆円規模の大学ファンドを活用して支援する新制度です。

認定した大学には、1校あたり年間で数百億円を支援する計画で、23年の段階的審査を経て24年に助成を開始し、支援は最長25年間の予定です。23年3月末に申請が締め切られ、東京大学や京都大学、筑波大学、名古屋大学、大阪大学、九州大学など10校が申請しましたが、東京科学大学(仮称)はそのうちの1校です。

統合したほうが競争的資金を獲得しやすい

(写真=Getty Images)

倉部さんは、国際卓越研究大学に代表されるように、近年の政府の大学政策が、統合を推進していると指摘します。04年の国立大法人化とともに、国の「競争政策」が始まったからです。国は教員の人件費や研究室の維持などに使われる基盤的経費である「運営費交付金」を少しずつ削減しています。一律に予算を配分するのではなく、大学の個性化を促しているのです。代わりに、研究者が応募・審査を経て獲得する「競争的資金」を増やしています。

大学間の競争を促すさまざまな補助金も導入されています。選ばれた少数の研究者や大学に多額の資金を投入し、効率良く成果を引き出そうとする「選択と集中」と呼ばれる政策に転換しています。

16年からは「地域」「特色」「世界」の3類型から主な方向性を各大学が選択し、「卓越した教育研究」「専門分野の優れた教育研究」「地域貢献」の3タイプに分けて、機能分化の推進のために優れた取り組みをしている大学に交付金を重点的に配分する仕組みを採用しています。

交付金が増額された大学がある一方、減額された大学もあり、国の交付金獲得の競争が激化しているのが現状です。

「18歳人口が減少するなか、大学を取り巻く政策は『選択と集中』になっています。国立大学への運営費交付金は一律にカットされ、その代わりに公募などで競争的に獲得される競争的資金が強化されています。

また、国の政策方針に従うと応募できる補助金が多く、統合したほうが競争的資金を獲得しやすい環境になっています。長期的に見れば、国公立大学の統合は避けられないと言えるでしょう」(倉部さん)

国公立大学の統合によって、学生側には多くの分野を幅広く学べるメリットがあります。小樽商科大学、帯広畜産大学、北見工業大学の北海道国立大学機構であれば、商学に軸足を置きながら工学や農学に触れる、あるいは工学に重点を置きながら商学や農学の知識を身につけるといったことができます。東京科学大学(仮称)では「医工連携」の恩恵を受けることが可能でしょう。

保護者としてはどのように学びの幅が広がるかという視点から、統合の動きを見ておくことが大切です。

(文=菅野浩二)

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