■大学いまむかし
新型コロナウイルス感染症が広がったことにより、授業のオンライン化が進みました。いまはVR技術を駆使するようになり、仮想空間「メタバース」内の教室で、学生のアバター同士がグループワークやディスカッションを行って授業の充実を図る大学も出てきています。進化を続けるオンライン授業を紹介します。(写真=東北大学提供)
「メタバース」を利用して授業を行う
新型コロナの感染拡大が始まった2020年春から、大学では対面授業が難しくなり、オンライン授業が一気に広がりました。オンライン授業は利便性が高く、学習効果も認められる一方で、教員と学生や学生同士の交流が難しい面があります。こうした中で、インターネット上の仮想空間「メタバース」を利用する授業が注目されています。メタバース内で行われる授業に自身の分身(アバター)を使って参加します。学生がどこでどのような形で授業を受けていようと、質の高い授業を平等に受けられる機会を得られることが大きなメリットといえるでしょう。
カメラをオンにしたがらない学生が混在
東北大学は、コロナ禍以前から「国際共修」の授業に力を入れてきました。文化や言語が異なる日本人学生と留学生がグループワークを通して相互理解を深めるという内容で、毎年、全学部から多くの受講希望者が集まる人気の授業です。
20年度はやむなくオンライン形式で授業が行われましたが、21年度前期には大学から対面授業実施の要請がありました。とはいえ、コロナ禍で日本に来られない留学生も少なくありませんでした。
そこで授業を担当する高度教養教育・学生支援機構 言語・文化教育センターの林雅子准教授は、21年度から「協働型HyFlex授業」に切り替えました。これは、実際の授業は教室で行い、同時にオンラインでも配信して、渡日できない海外の留学生と国内の日本人学生や留学生が混在するグループで協働学修する方法です。
しかし、授業を始めてみると、オンラインの参加者が対面参加者に話しかけにくいという「心理的な壁」が生じていることに気づきました。
「オンライン参加者は、対面参加者同士の会話に入りづらいと感じています。また、グループワーク中にカメラをオンにしたがらない人と、カメラオフの黒い画面に話しかけることを苦痛に感じる人が混在する環境では、国際共修の目的でもある活発な議論がしにくい状況でした」(林准教授)
仮想空間に全学生が集合、海外の学生とも一緒に議論を
オンライン参加者が感じる疎外感を軽減するには、どうすればいいのか――。
そこで解決策として21年度後期から導入したのは、「仮想空間(メタバース)にグループワークの場を設ける」という方法でした。ソーシャルVR(Virtual Reality)プラットフォームを使用し、受講者は「アバター」と呼ばれる分身の姿で、メタバース内の「教室」に参加します。海外にいるオンライン参加者も対面参加者と同じ仮想空間を共有してディスカッションすることができるのです。また、グループ発表もメタバース上で行うことで、海外の学生も平等に教室の学生のリアクションを見ることができます。
「メタバースの最大の利点は、どこにいようと、仮想空間に集合して顔を合わせていると、同一空間にいるように感じられることです。参加者に行ったアンケート調査でも、臨場感や没入感を感じやすい、心理的な壁が低減したという結果が出ています。『カメラオフの相手に話すよりも、アバターのほうが話しかけやすい』という意見も多くありました。通信の安定性を向上させるなど課題はありますが、コロナ共生時代の教育、特にグループワークにおいて有用な方法と考えています」(同)
22年度からはヘッドマウントディスプレーも導入。オンライン参加者に相づちなどの自然な反応を伝えられるようになったといいます(写真=東北大学提供)
英会話や医学部臨床実習にメタバースを導入する大学も
講義や実習にメタバースを活用する大学は、少しずつ増えてきています。
名古屋大学では、21年度から情報学部と、医学部の一部講義でVR講義システムを導入しています。さらに23年度からは、工学部で仮想実験装置などを設置したVR Laboratory(VR実験システム)の運用が予定されています。
羽衣国際大学は、メタバースを英会話レッスンや国際交流に活用しています。フィリピンにいる英語講師が、バーチャル会議室内で学生にスピーキング指導やフィリピンの文化をテーマにした授業を行う実証実験を行っています。
また、神戸大学の医学部医学科が、4・5年次に行われる臨床実習の一部にメタバースを取り入れるなど、医学教育でもVRの活用が広がりつつあります。
コロナ後もVR・メタバースで学びの可能性を広げる
コロナ禍でオンラインが広がった大学の授業は、感染の収まりとともに対面へ戻りつつあります。しかし、林准教授は、コロナ禍で生み出されたオンラインツールを活用した新たな学習スタイルも、上手に活用していくべきだと考えています。
たとえば、渡航を前提としない「海外の学生とのメタバース国際協働学修」もその一つ。留学をしたいと思っても、制度的理由や経済的理由などで長期留学を諦めている学生は少なくありません。メタバース内に留学と同等の経験ができる学習環境をつくれば、自国にいながら他国の学生と交流し、自国の文化や言語、価値観を外からの視点を交えて捉えることが可能になります。SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」に貢献する取り組みです。
文部科学省は23年3月に公表した「大学・高専における遠隔教育の実施に関するガイドライン」の中で、メタバースの積極的な利用を推奨しています。将来の有事に備え、また利用のさらなる可能性を追求して、今後もオンライン授業は発展していきそうです。
(文=熊谷わこ)

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