■特集:知りたい!年内入試
大学入試においては、年明けに試験が行われる一般選抜に対し、9月から12月にかけて選抜や合否発表が行われる総合型選抜と学校推薦型選抜は、「年内入試」とも呼ばれています。選抜方法や日程がいくつも設定され、ますます複雑になる大学受験ですが、年内入試も含めた複数の受験方式を検討することが、合格可能性アップにつながります。(写真=佐賀大学提供)
自校の理念に合う学生獲得が狙い
「年内入試」と呼ばれる総合型選抜や学校推薦型選抜は、主に書類審査や小論文、面接で合否判定を行います。最近は、大学の教育理念に合う学生を早期に確保する方策として、年内入試に力を入れる大学が増えています。
山梨英和大学は、2023年4月に「春イチの進学相談会 『年内入試を知っちゃおうスペシャル』」と題したイベントを開催し、オープンキャンパスが本格化する夏に先駆けて、受験生や保護者に向けた情報提供を行いました。ほかにも、6月のオープンキャンパスで年内入試の希望者向けに「入試面接・小論文対策講座」を開講した大妻女子大学や、大学のウェブサイト上に「総合型選抜にチャレンジ―年内入試で早期合格!」と題したページを開設した清泉女子大学など、さまざまな大学が年内入試の情報を積極的に発信しています。
佐賀大学では、総合型選抜の募集が大幅拡大
佐賀大学は、24年度入試で総合型選抜と学校推薦型選抜で343人を募集します。大学入学共通テストを課さないものと課すものがあり、10年前の14年度入試と比較すると、総合型選抜の募集人員が大幅に増えていることがわかります。
アドミッションセンター長を務める副学長の西郡大教授は、総合型選抜の募集人員増加につながった一つの要因として、大学による教育改革を挙げます。
「日本の大学で長年行われてきた大教室での一斉授業は、学生間の学力にバラつきが少ないほうが学習効果も上がるため、入試も学力を測る筆記試験が中心でした。しかし、最近は教育改革の影響で、大学でもフィールドワークや課題解決型学習など、学生一人ひとりの自主性を重視する授業が行われるようになり、高校で探究型学習に取り組んできた学生が増えました。こうした変化に対応するためには、総合型選抜のような方法で時間をかけて個々の能力を見る必要があります」(西郡教授)

一般選抜でもアドミッションポリシーの理解度を重視して加点
佐賀大学が年内に行う「総合型選抜I」「学校推薦型選抜I」は、医学部医学科と教育学部幼小発達教育専攻を除く全学部が対象です。さらに理工学部と農学部では、「総合型選抜I」「学校推薦型選抜I」に加えて、年明け以降に出願し、共通テストの結果を合否判定に用いる「総合型選抜II」も設けています。
また、佐賀大学では、一般選抜でもアドミッションポリシーの理解度を重視する「特色加点」という独自の制度を導入しています。特色加点制度とは、高校時代の活動実績の概要や、その活動内容と大学のアドミッションポリシーとの関連性などを各400字以内で記述して出願時に申請する制度で、合否のボーダーライン付近の受験生が、アドミッションポリシーを正しく理解し、これまでの自分の取り組みとのすり合わせができていると判断された場合に加点対象となります。総合型選抜と異なり、活動実績の申請は任意ですが、23年度入試では前期日程で58.4%、後期日程で38.4%の受験生が申請を行っています。
一般選抜との併用で受験チャンスが増える
筆記試験ではアピールできない能力が評価されるなど、総合型選抜や学校推薦型選抜は受験生にとってメリットの多い選抜方法です。また、こうした年内入試で不合格になった場合は、年明けの一般選抜で同じ大学を再受験することができ、受験機会を増やせるという利点もあります。
西郡教授も「本学の総合型選抜IIのように、一般選抜に向けた勉強の成果を生かせる総合型選抜を実施している大学もあります。そうしたことも含めて検討すれば、より多くの受験生がチャンスを増やせるようになるはずです」と言います。一方で、受験生や保護者の中には、総合型選抜や学校推薦型選抜を「一部の人のための入試」と捉え、選択肢に含めないケースも多いと指摘します。
「大学としてできる限り情報を提供しているのですが、やはり大学入試イコール一般選抜というイメージは、いまだに強いと感じています。今の大学入試で良い結果を出すためには、幅広い情報収集が不可欠です。一般選抜だけでなく、総合型選抜や学校推薦型選抜も選択肢になり得ることを早期に認識し、志望校の出願要件やアドミッションポリシーを調べておくことが重要です」(西郡教授)
文科省も後押し 早期合格者の「入学前教育」
年内入試で合格を果たした受験生が一息つく11月から12月は、一般選抜を目指す受験生が、追い込みに入る時期でもあり、ここでの勉強の差が大学入学後にも響くことを心配する保護者もいることでしょう。
文部科学省では、高大接続改革の課題の一つとして「入学前教育」の充実を挙げ、「12月以前の入学手続き者に対しては、入学前教育を『積極的に講ずる』こと」「学校推薦型選抜の場合、合格決定後も、高等学校の指導の下に高大連携した取り組みを行うこと」を推奨しています。現在は多くの大学がeラーニングを中心とした入学前教育を実施しており、中には横浜市立大学のように、共通テストの自己採点の結果報告(新聞などに掲載される問題を利用した自宅受験可)やTOEFL受験、リポート提出など、eラーニング以外の入学前教育を取り入れる大学もあります。
「年内入試に舵(かじ)を切りすぎると、やはり学力や学習意欲の落ち込みという問題は出てくると思います。佐賀大学でも高校での授業の妨げにならない範囲で、年内入試の合格者に向けたeラーニングを実施しています。今後は入学前に授業を履修して単位を取得できる制度など、合格者のスタートダッシュにつながるプログラムも導入できないか、検討中です」(西郡教授)
(文=木下昌子)

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