AIの時代に、人と接する看護師の仕事はどう変わるのか? 「スマートホスピタル」に必要な力とは

2025/10/17

■AI時代の学部選び

看護職(看護師、准看護師、保健師、助産師)は、「患者に人として向き合う」仕事です。このような仕事に、AI(人工知能)はどのように役立つのでしょうか。情報技術が急速に進む中、今、求められる看護学部の学びとはどのようなものでしょうか。2026年度に開設される近畿大学看護学部の学部長に就任予定の小松浩子教授に聞きました。(写真=近畿大学提供)

看護系大学が急速に増加

看護師が足りないという状況が、続いています。文部科学省によると、2023年度に看護学部や看護学科などを持つ看護系大学は、283大学300課程(1大学で複数の教育課程を有する大学がある)。20年前(03年度)の104大学と比較して、大きく増えています。

その背景には、国が1992年に制定した「看護師等の人材確保の促進に関する法律」があります。高齢化が進み、看護職の需要が高まったことから、「志願者を増やす」などの施策が法制化されました。こうした政策の結果、看護職は20年に約173万人まで増えましたが、それでもまだ足りません。

こうした中、26年度に看護学部を開設するのが、近畿大学です。医学部と近畿大学病院が25年11月、大阪府堺市に開設する新キャンパス(おおさかメディカルキャンパス)に移転し、看護学部は同キャンパスに設置されます。

看護学部の特徴として、AI(人工知能)やICT(情報通信技術)などに関わる専門科目を重視していることが挙げられます。
「データサイエンスの活用を学ぶ情報科目のほか、画像診断技術を使って患者のケアを行う実技授業なども検討しています」(小松教授)

新病院ができる大阪府堺市は、ICTなどの先端技術を活用して市民の利便性と生活の質の向上をめざす「スマートシティ」の取り組みを推進しています。新病院は、堺市と連携して、DX化による「スマートホスピタル」を構築する予定です。

具体的には、外来患者の受付から支払いまでスマートフォン1台で完結するシステムを導入予定のほか、コントロールセンターによる効率的な病床管理やアバターによる無人受付などが検討されています。

「病院に限らず、看護職が従事する多くの場で急速にDX化が進んでおり、これからの看護職には、AIやICTの知識と活用能力が欠かせません。新病院がスマートホスピタルであるメリットを生かし、デジタルにもしっかり対応できる看護職を養成したいと考えました」

現在では、看護の業務にもAIの活用が広がっています。例えば、要介護者の行動を予測する「みまもりサービス」では、一人暮らしの高齢者の住まいにセンサーを設置し、就寝や起床の時間、食事や外出などの行動データから、認知機能の低下や運動機能の低下を予測できる仕組みになっています。

「機能の低下が進む前に看護職が介入することで、利用者を早期に医療につなげたり、転倒防止のためのリハビリなど体制を整えたりすることができます。また、看護の効率化としては、訪問回数を最適化できるというメリットがあります」

AIの得意分野である画像認識技術は、「褥瘡(床ずれ)」の診断にも生かされています。専用のカメラで患部を撮影すると、AIが画像を自動分類して、重症度を評価してくれます。
「特定の看護分野のスキルを持つ認定看護師や専門看護師により、できる仕事の範囲が広がっています。褥瘡の診断もその一つで、専門の教育を受けた皮膚・排泄ケア認定看護師がこれを担うことが可能です。従来は傷の深さや肌の色、皮膚の軟らかさなどを目で見て判断していました。これは熟練した医療者でも難しいと言われていたため、このようなシステムは現場で大いに役立つはずです」

研究・開発レベルのものには、採血に最適な血管や位置をAIによる画像診断で抽出するシステムがあると言います。
「血管が『見えにくい、蛇行している』などの理由から、針がうまく刺さらず、痛い思いをした人もいるのではないでしょうか。このシステムができればそのようなことが避けられます」

看護学部の学部長に就任予定の小松浩子教授

AIの導入によって、患者のメリットと同時に、看護の効率化につながることを小松教授は期待します。
効率化によって、労働時間の短縮や業務負担の軽減が可能になります。看護職は離職率が高いことが課題になっており、労働環境の改善は待ったなしです」

AIを含む情報技術を授業に取り入れている看護系大学は、ほかにもあります。
聖マリア学院大学(福岡県久留米市)看護学部には、「データヘルスサイエンス入門プログラム」があります。このプログラム科目は、「人々の健康課題の解決にデータ・AIを利活用する思考を身につけること、健康に関するデータの特徴を読み解き、分析し、他者に説明できるスキルを身に付けること、データ・AIを利活用する際に求められる倫理やセキュリティについて理解すること」を目標としています。

東京情報大学(千葉市)看護学部は、併設する総合情報学部の環境を生かしてICTスキルを磨くことができます。「情報を利活用できる看護職へ」を掲げ、「情報関連科目」として「看護と情報」「情報社会とAI」「統計学」「情報リテラシー演習」などを設けています。

神奈川工科大学(神奈川県厚木市)健康医療科学部看護学科は、情報学部があることを生かし、「看護のための人間工学」など情報系科目を設けています。

AIで代用できない部分

近畿大学「おおさかメディカルキャンパス」全景

一方で、「看護職の仕事にはAIで代用できない部分もまだまだ多い」と小松教授は言います。
「AIが導き出す答えは、ビッグデータから計算によって導き出される推論です。しかし、看護職が患者さんに『このケアが必要だ』と考える判断材料は知識や過去の経験に加え、リアルに患者さんと話したり、顔色をみたり、触ったりして得た情報です。このようなやり取りはAIには難しいのではないでしょうか」

小松教授は、看護学生の実習に付き添った時の実例として、余命わずかながん患者との会話を振り返ります。
「その方は病室の窓から木の葉が大量に道に落ちている様子を見て、『葉は枯れ落ちることで、新しい芽が出てくる。だから、木にとっては必要なことなんだよ』とおっしゃいました。落ち葉を自身に投影していたのです。学生も何かを感じたようでした。そうした気づきの繰り返しがケアの力を高めていくのです。将来、同じような場面に出会った時に、『(葉が落ちた後の)若い芽に何を期待しますか?』など、患者さんの人生をつなげる会話がきっとできるようになるでしょう」

「病を経験した人の言葉は重い」と小松教授は言います。
患者の看護を通して、看護職自身が生きていくことのすばらしさ、よりよく生きるために必要な術を学ぶことができます。これこそが看護職の一番の魅力と言えるでしょう。AIはあくまでもツールであり、使用するのは人間です。この点を改めて知ってもらい、どう使用すれば患者さんに生かせるのかを創造できるクリエイティブな看護職を育てたいと思います」

看護職の仕事は、病院や診療所のほか、訪問看護ステーション、介護・福祉関係施設、企業、学校、大学・研究所、治験を担う看護師(治験コーディネーター)、科学者までさまざまな場に広がっています。
「看護職のキャリアは、例えるとジャングルジムのように、縦横無尽に広がっています」

看護職を考えている人は、興味のあるものがどのような仕事なのかを調べてみるのもいいかもしれません。それが大学や学部選びの参考になり、受験へのモチベーションにもつながるのではないでしょうか。

>>【連載】AI時代の学部選び

(文=狩生聖子、写真=近畿大学提供)

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看護学部の学部長に就任予定の小松浩子教授
看護学部の学部長に就任予定の小松浩子教授

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