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2012年11月2日
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ペダルまかせ 〜自転車のある生活〜

陸奥の人情しみる吹上温泉(鬼首 前編)

文と写真:三浦 壮介

写真:渓流沿いの木々に囲まれた露天風呂。その奥の滝つぼは天然の温泉になっているが、熱くて入れなかった拡大渓流沿いの木々に囲まれた露天風呂。その奥の滝つぼは天然の温泉になっているが、熱くて入れなかった

写真:蕎麦畑に見とれる2人。ジャージー姿が板についてきたMさん(左)とクラシックないでたちで決めてきたS先輩(右)拡大蕎麦畑に見とれる2人。ジャージー姿が板についてきたMさん(左)とクラシックないでたちで決めてきたS先輩(右)

写真:建物は倒壊してなかったが、美しい庭園はそのままの有備館拡大建物は倒壊してなかったが、美しい庭園はそのままの有備館

写真:山の中のログハウスの蕎麦屋。昼時は待つ人も出る人気店だ拡大山の中のログハウスの蕎麦屋。昼時は待つ人も出る人気店だ

写真:鳴子ダムを越えると鬼首温泉は近い。ここも水量は少なかった拡大鳴子ダムを越えると鬼首温泉は近い。ここも水量は少なかった

写真:野趣あふれる滝つぼの湯。残念ながら熱くて入ることができなかった拡大野趣あふれる滝つぼの湯。残念ながら熱くて入ることができなかった

 3人合わせれば194歳という強力メンバーで宮城県の古川駅まで輪行、山奥の秘湯・鬼首(おにこうべ)吹上温泉へ向かった。男だってこのくらいの年齢になると強い。家の中は別として、世間にほとんど怖いものはなくなる。かなわないのは上り坂くらいだ。翌日は奥の細道をたどり山形の瀬見温泉で一休みして新庄へ抜けた。

老人自転車部

 9月中旬の某日午前9時58分、最強トリオは古川の駅に降り立った。気温はすでに30度前後ありそうだ。車中では威勢が良い3人だったが、いきなりのむせ返る暑さに少したじろぐ。自転車を組み立てる額から早くも汗が滴る。だんだん言葉少なになってきた。

 今回のメンバーはこれまで安曇野や蛇の湯温泉に一緒に輪行したMさんと、その友人で初参加のSさん。Mさんは某著名企業の役員と紹介してきたが、最近は代表という肩書が加わっていた。初参加のSさんも同業某企業の代表と聞いた。Mさんは「老人自転車部」と自称していた。

有備館で一休み

 一番の先輩であり、やけに東北に詳しいSさんが先頭。ついでMさん、私がしんがりについた。内陸に向かってごく緩やかな国道をゆるゆると進む。Sさんはニッカポッカ風のズボンにハイソックス、自転車はビルダーの手になる懐かしのランドナー。筋金入りの伝統的スタイルだ。上半身がほとんどぶれることなくクルクルとペダルを回している。

 午前11時30分、有備館に到着。仙台藩の支藩、岩出山伊達家の家臣指定の学問所だった建物で、美しい庭園と合わせ、カヤブキの風情のあるものだったらしいが、3・11大地震で倒壊してしまった。今は跡地にブルーシートがかぶさっていた。

 「建物がないので無料で開放です。寄っていってください」。300円の入園料がただからというわけではないが、寄ってみる。こぢんまりした落ち着いた庭園にブルーシートが無残だった。

思いがけずに山中で蕎麦

 入り口で声をかけてくれたのはボランティアで有備館のガイドをしている中森茂信さん(64)。近くに蕎麦屋でもないかとたずねたところ、「分かりにくいところだから自分が車で乗せてゆく」と、我々を乗せて軽自動車で山の中へ向かった。紅灯の巷(ちまた)ではないから大丈夫だろうと身を任せる。

 10分ほど走った。山の中のロッジ風な建物がもみじ野という蕎麦屋だった。人気店らしく、人里離れたところなのに店は満員、そのうち外で待つ人も出てきた。脱サラで10年ほど前に始めた蕎麦屋だそうだが、ネットなどで評判となり、地元の人というより仙台市あたりから食べに来る人が多いらしい。

 蕎麦は洗練された極細の更科風。なかなか見事な蕎麦だった。が、値段もざる850円、天ざる1600円と侮れないものだった。当初そば屋の回し者かと疑ったりした中森さんは全くの善意だった。ありがとうございました。

外気は34度

 愛称「奥の細道湯けむりライン」と呼ばれる陸羽東線に沿って、羽後街道(国道47号)を山形方面に進む。国道わきの気温表示は34度となっている。激しい日射が容赦なく背中をあぶる。徐々に体力を奪ってゆく。口をきくのも物憂く、ほとんど無言で進む。頻繁に休むのだが、次第にペースは遅くなった。まだ忙しい職にある同行者たちには、この気候条件は少々きつ過ぎたかもしれない。とりわけ長距離は久しぶりという最年長のSさんのスローダウンが気になった。この悪い予感は的中してしまうのだが、それは数時間後のこと。

Mさんが驚異の進歩

 目指す鬼首温泉まで残り約10km。国道から分かれて右折する上りの1本道。ふもとのコンビニで最後の休憩をとった。旅館あるいは分かりやすいところで集合することとし、各自のペースで上ることとした。

 私は後ろを振り向かずいきなり始まった坂をひたすら上った。水量の少ない鳴子ダムも過ぎ、やや難所は終わったかなという所で後続を待った。Mさんが思いがけない速さで上ってきた。1人で1泊富士五湖めぐりなどをして精進を重ねてきたという成果だろう。

事件は上り坂で起きた

 そのMさんが遠くから「聞いてますか? S先輩が・・・」と叫んでいる。聞けばこういうことだ。コンビニを出て坂に取りついた直後、Sさんが両足が一度につって動けなくなった。自転車操業という言葉があるくらいで、動いていてこその自転車。それが動けず、しかもとっさに足が外れないペダルとあっては少々みじめな結果にもなる。

 後ろに来た乗用車が間一髪で急停車、飛び出してきて声をかけてくれた上、親切にも宿まで送ってくれた。自転車は側溝に残した、という内容。案じつつ宿に着いたら、自転車は宿の主人が一緒に回収に出向いてくれたそうで、ひざを赤くしたSさんはすでに部屋に入っていた。大事に至らなくて本当によかった。

跳び上がるほど熱い滝つぼ

 話は前後したが、今回の輪行の主眼の一つは吹上温泉の峯雲閣(1泊1万3300円)の露天風呂とその隣にある大滝湯に入ること。午後5時という早い時間のためか、混浴の露天風呂は私ら老人自転車部だけ。程よい温度の露天風呂の奥に滝が流れ落ちており、その滝つぼが天然の温泉になっているのだ。

 いそいそと滝のそばに行ってみる。魚でも泳いでいそうな清流だが、足を入れて驚いた。熱くて数歩も進めない。滝つぼに身を沈めるどころの話ではなかった。宿の主人の話では、例年は気持ちよく入れるのだが、今年はなぜか温度が高いのだという。頑張ってみたが、たとえ瞬間でも身を沈めることはできなかった。

坂上田村麿の伝説

 この大滝湯に入ってみたい一心で東京から来たという、若く元気そうな中年オヤジ4人連れもひどく残念そうだった。脱衣所にあった温泉分析表によれば温泉は泉温82.6度、pH8.5、アルカリ性単純温泉とあった。無臭透明だがアルカリ性温泉特有の肌がぬるっとした感じがした。

 ところで鬼首とはおどろおどろしくもあり変わった地名だが、征夷大将軍坂上田村麿が東征の際、鬼と呼ばれた賊魁大武丸の首をこのあたりで討ち取ったことからそう呼ばれるようになったと伝わる。ずいぶん古くからの地名だ。

深く満足の老人たち

 思えば、蕎麦屋まで連れて行ってくれた中村さん、救急車がわりをしてくれ、なんといっても謝礼を受け取らなかった見ず知らずの人、自転車回収に気持ち良く出向いてくれた旅館の主人、この日東北で出会った厚い人情に一同感動。走った距離はわずか約47kmだったが、老人自転車部の面々の満足は深いものがあった。

 夕食後、Mさんが持参の塗る湿布薬やけいれん防止の散薬をS先輩にすすめていた。明日は芭蕉が通った道をなぞるように鳴子峡を経由して山形県へ向かい、最上小国川沿いを下って新庄から新幹線で帰る予定だ。(次回は11月16日掲載予定)

プロフィール

三浦 壮介(みうら そうすけ)
 50歳に手が届くころから始めた自転車遊び。居住する湘南をふらりと流したり古い街道を走ったりして楽しんでいるが、このところ輪行で秘湯や味わい深い温泉を訪ねることがマイブーム。でも向かい風とのぼり坂はあまり好きでない。
 「自分の一生で今が一番若い。今できることを今やろう」、が最近の信条。自転車は敷居は低いが奥行きは深い。気ままに楽しんで気分転換。元マスコミ勤務の176cm、1946年生まれ。目指すは“定年の達人”。

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