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2012年11月16日
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ペダルまかせ 〜自転車のある生活〜

義経と芭蕉ゆかりの街道を行く(鬼首 後編)

文と写真:三浦 壮介

写真:芭蕉と曽良が荒天のため2泊した封人の家。「蚤虱・・・」の句はここで読まれたといわれている拡大芭蕉と曽良が荒天のため2泊した封人の家。「蚤虱・・・」の句はここで読まれたといわれている

写真:鳴子峡は深い谷と奇岩が美しい。紅葉の頃は絶景がしのばれる拡大鳴子峡は深い谷と奇岩が美しい。紅葉の頃は絶景がしのばれる

写真:峠を越えれば山形県。自転車だと目的地に近づくこうした標識がすごくうれしい拡大峠を越えれば山形県。自転車だと目的地に近づくこうした標識がすごくうれしい

写真:この小さな水たまりから右は太平洋、左は日本海へ流れる分水嶺拡大この小さな水たまりから右は太平洋、左は日本海へ流れる分水嶺

写真:義経大橋を渡ると瀬見温泉だ。温泉街の反対側には弁慶大橋がある拡大義経大橋を渡ると瀬見温泉だ。温泉街の反対側には弁慶大橋がある

写真:瀬見温泉の喜至楼。山形で最古の旅館建築物で文化財的風格を漂わせている拡大瀬見温泉の喜至楼。山形で最古の旅館建築物で文化財的風格を漂わせている

写真:喜至楼のローマ風呂。何ともいえずノスタルジックだ拡大喜至楼のローマ風呂。何ともいえずノスタルジックだ

 鬼首吹上温泉に泊まった翌日は、宮城から山形への緩やかな峠を越え、新庄まで下り基調のお気楽コース。距離60余km。途中では芭蕉が泊まった建物を見学し、義経が平泉へ落ち延びる途中、滞在したといわれる瀬見温泉で一風呂浴びてくつろいだ。

奇岩絶壁の鳴子峡

 午前8時30分、吹上温泉峯雲閣を出発。宿近くの高原のキャンプ場ではたくさんのテントが張られており、大変なにぎやかさ。ゆく夏を惜しむ若い家族連れの姿とワンボックスカーが目立った。

 S先輩は上り坂を回避して鳴子温泉駅から峠の頂上付近の堺田駅までの2駅を電車で行くと言う。いうなれば輪行キセルみたいなものか。昨日上ってきた駅までの坂を一緒に10kmほど下り、先輩は駅へ、Mさんと私は国道47号・北羽前街道を山形県へ向かった。

 午前10時、鳴子峡に到着。橋からのぞくと深い渓谷と切り立つような奇岩が絶妙な景観を見せる。紅葉の頃はさぞ見事だろう。眼下には奥の細道湯けむりラインことJR陸羽東線の線路も見える。

義経伝説の地

 午前9時45分、国道わきに「尿前(しとまえ)の関・この周辺に柵が設けられていた」などと英語が併記された説明の看板があった。尿前とは変わった地名だ。義経記によれば、奥州平泉へ逃れる義経主従一行は、瀬見温泉近くの亀割山あたりで生まれた義経の本妻の子供・亀若丸を伴い国道47号を東へ向かった。

 その幼児が当地ではじめて尿をしたので地名となったとか。虚実入り交じっているのだろうが、このあたりの義経伝説は津軽半島のそれよりは信憑性がありそうだ。吾妻鏡や新平家物語に静も鎌倉で出産し、男の子だったため頼朝の命で捨てられたとあるが、亀若丸のことは初めて知った。

芭蕉も2泊した封人の家

 午前10時19分、山形県に入る。数分で封人の家に到着。封人(ほうじん)とは関守のことで、おくのほそ道では芭蕉と曽良が悪天候のためこの家に2泊している。「蚤(のみ)虱(しらみ)馬の尿(ばり)する枕もと」という句はここを読んだもので、芭蕉が泊まった建物で現存しているのはここだけらしい。

 封人の家からSさんに連絡を取る、すぐ近くの堺田駅で自転車を組み立てているところだという。封人の家で合流し、えらく愛想のよい管理人の説明を聞きながら芭蕉が泊まったと思われる部屋などを見学した。馬を大事にした東北の家らしく、勝手のある土間の続きに馬小屋があった。

文字通りの分水嶺(ぶんすいれい)

 宮城・山形の県境は奥羽山脈の背骨にあたる。封人の家の近くに分水嶺があった。何げない田んぼの用水のようだが、一方はいずれ北上川を経て太平洋へ、もう一方は最上小国川から最上川となって日本海へと流れる。分水嶺という尾根などはよくあるが、ここのように文字通り分水してゆくポイントそのものを目にするのは他に聞いたことがない。

 この分水嶺を過ぎると緩やかな下りがず〜っと続く。下りになると妙に速いMさんに負けず、S先輩もすこぶる快調だ。日差しはきついのだが、軽くペダルを回しながら下ると風を切るので左程暑さを感じない。ただとまると大層暑い。午後12時3分、最上小国川のかわの駅に到着。山形の十割蕎麦というひどくこしの強い蕎麦を食した。

 再びサドルにまたがれば、瀬見温泉は近い。国道をそれて義経大橋を渡れば温泉街だ。数軒の宿があるが、目当ては山形県内に現存する最古の旅館建築物と言われる喜至楼(きしろう)。明治時代が一番栄えたそうだ。ここで一風呂浴びようという作戦なのだ。

古びた建物と温泉と人間と

 大きな木造の建物。少し動きの渋いガラス戸をあけたが、広々とした玄関の奥はしーんとしていて人の気配がなかった。風呂には入れないかと心配になる。大声で何度か呼ばわったら、上品な年配の女将さんらしき婦人が現れ、案内してくれた。壁の彫刻や建具、装飾品などに何とも言えない歴史が刻まれており、柱の曲がりや床のきしみすら味わいの一つだ。

 館内には混浴風呂、家族風呂、岩風呂、ローマ風呂、床の穴から出る湯気に患部を当てるふかし湯などがあり、500円でちょっとした温泉めぐりができる。とりわけタイル張りのローマ風呂に身を沈めてじっと静かにしていたら、ずいぶん昔にタイムスリップしたようで何とも言えずしみじみとしてきた。

 使ってよいといわれた座敷でくつろぐ。「自転車はやはり下り坂が楽しい」という話題から、誰言うともなく「人生の下り坂だってすてたもんじゃない」。一同うなずく。坂を征服する楽しみもあるだろうし、気合一杯に生きる充実感もあるだろう。しかし、緩やかに下る味わいというのも確かに悪くない。

新幹線は超満員

 午後3時、新庄駅に到着。1時間に1本くらいしかない新幹線は全席指定列車は満席だったりして、午後5時14分に乗るしかなかった。2時間以上あったが市内観光をする元気はなかった。30分ほどかけ念入りに袋詰め、駅前の喫茶店でゆっくりコーヒー。4時30分過ぎ、最後尾の席を確保すべくホームに出たが、すでに数人が並んでいた。

 2台は自分らが座った最後尾の席の背後に格納、私の自転車は車両前方デッキの荷物置き場にゆわえ付けておいた。車内販売のビールと弁当を食し終わるころからがぜん混雑しだした。デッキも通路も身動きできず、車内販売のワゴンも販売を中止されてしまった。

運不運の分かれ道

 3時間以上の長旅、わずかの時間の差で立つか座るかの大きな差。ひょっとしたら人生というのも、ほんのわずかな差で運命が分かれるのだろう。ありがたいことに、人は自分ではその分かれ目が分からず、仮に後から分かっても戻ってリセットをして別な道を進むことはできない。結局どこかで折り合いをつけ納得せざるを得ないだけなのだろう。などとつまらぬことを考えてしまった。

 ところで私の自転車だが、東京駅で確認したらリヤエンドの防御金具はすっかり外れ、結束のバンドは緩み、なんだかグズグズになっていた。3時間目が届かなった間にずいぶん邪魔にされたのだろう。教訓・・・できれば自転車は目の届くところに置こう。

プロフィール

三浦 壮介(みうら そうすけ)
 50歳に手が届くころから始めた自転車遊び。居住する湘南をふらりと流したり古い街道を走ったりして楽しんでいるが、このところ輪行で秘湯や味わい深い温泉を訪ねることがマイブーム。でも向かい風とのぼり坂はあまり好きでない。
 「自分の一生で今が一番若い。今できることを今やろう」、が最近の信条。自転車は敷居は低いが奥行きは深い。気ままに楽しんで気分転換。元マスコミ勤務の176cm、1946年生まれ。目指すは“定年の達人”。

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