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2012年12月14日
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ペダルまかせ 〜自転車のある生活〜

八丁湯で鹿肉を賞味する(奥鬼怒 後編)

文と写真:三浦 壮介

写真:色づき始めた木々と滝が目の保養になる八丁湯の露天風呂拡大色づき始めた木々と滝が目の保養になる八丁湯の露天風呂

写真:八丁湯の本館。ログハウスの客室もある拡大八丁湯の本館。ログハウスの客室もある

写真:圧倒されるような紅葉した山々の光景に息をのむ筆者拡大圧倒されるような紅葉した山々の光景に息をのむ筆者

写真:戦場ケ原に抜けるミズナラの並木は鮮やかに色づいていた拡大戦場ケ原に抜けるミズナラの並木は鮮やかに色づいていた

写真:上流から眺める風景も美しい竜頭の滝拡大上流から眺める風景も美しい竜頭の滝

写真:華厳の滝の周囲は紅葉には少し早かった拡大華厳の滝の周囲は紅葉には少し早かった

写真:急カーブが続くいろは坂は車ものろのろだ拡大急カーブが続くいろは坂は車ものろのろだ

 八丁湯の周囲は手つかずの国立公園の自然林。目の前の滝を眺めながら露天風呂に入り、夕食に鹿の肉を食べた。明けて3日目は標高1720mほどの山王峠を越えて戦場ケ原へ出て、中禅寺湖から日光へ抜けた。

若い女性にドギマギ

 八丁湯温泉は男女別の内風呂と露天風呂が三つあり、露天の二つが混浴、一つが女性用となっている。混浴といってもほとんどがおやじたちだ。滝を眺めながら湯に浸っていたら、1人の若い女性がタオルを巻いて連れの若い男性と入ってきた。それまで写真を取り合うなどあっけらかんとしていた男たちの雰囲気が少し変わった。みんな口数が減り、少しぎこちなくなった。私は少し早めに上がった。

 温泉は無色透明で味もしない。濁りけのない澄んだ湯の中に牡丹雪のように湯の花が舞っている。pH6.98。太古から自然に湧いていたと思われる温泉は、もちろん源泉かけ流しだ。1泊2食で1万円から。夕食は板の間の広間で御膳。それぞれのグループの話し声がにぎやかだ。鹿肉の小さな鍋がついているが頼むと刺し身もつけてくれる。初めて食べた鹿肉はクセがなく馬肉に似た感じでうまい。

杣人の疲れ癒やした湯

 鬼怒川の最上流の集落は来る時に通った川俣だが、ここの人々は古くから木を相手に生業としていた。そんな杣人(そまびと)たちが山深い日光沢というところにあった作業場から帰る途中、谷川沿いに湧いていた温泉で疲れをとったという。仕事場から8丁(872m)ほど下ったところに湧く湯だったので八丁湯と呼ばれるようになったとか。

 八丁湯のあたりには加仁湯など計四つの温泉がある。いずれも女夫渕温泉の駐車場から8kmほどの砂利道を、マイクロバスで送迎してもらう。八丁湯の主人の鈴木光一さん(55)によれば、昭和50年ころまでは車が入らず、食料から飲料までぼっか(歩荷)が担ぎ上げたという。

1貫目100円の荷運び

 歩荷とは字のごとく人力で荷物を運ぶことで、当時の料金は米とかビールとかの内容の区別をせずに1貫目(3.75kg)100円で運んだそうで、女性でも15貫とか20貫とか担いだという。荷を担いでいるときは2時間前後、空荷でも1時間余かかったとか。

 鈴木さんも、少年の頃は歩荷をして家を手伝った。「まあ、車の入らない昔は大変だった。まったく楽になった」、「ビールの空き瓶運びだけは小遣いになった」などとマイクロバスを運転しながら思い出を語っていた。

 ところで、自転車は袋に入れてもバスの場合はほとんど乗車を断られる。今回も断られたら八丁湯行きは断念しただろう。心配しながらチョモ君が事前に電話で聞いたところ、快諾とのこと。実は鈴木さんは東京で学生生活を送っている頃、当時最先端のMTBで東京近郊を走り回った自転車乗りだった。理解があるのも納得。

苦しさを帳消しにする一瞬

 3日目の午前8時、マイクロバスで女夫渕まで送ってもらう。そこから自転車に乗り、川俣まで下り右折して戦場ケ原へ向かった。

 「行方不明・滑落事故多発」と書かれた不気味な看板を横目に標高1724mの山王峠を越える林道のはじまりだ。天気予報によれば午後は台風が近づいていて急変するらしい。気がせく。坂道は苦しい。頭の中はただ一つ、「早く頂上が来ないかなあ」。

 これ以上軽くできないギアで深い森の中の林道をよろよろ上る。夕方のように暗いカーブを曲がった途端に視界が開け、色づき始めた山々の絶景が眼前に広がる。言葉にならない感動が迫る。

 「ああ、来てよかった」とそれまでの苦しさを忘れてしみじみと思う一瞬だ。自分が今そこにいることを痛切に実感する。同じ景色でも車でスイスイと来ては、おそらくこの感動は味わえないだろうし、かといって歩いてはここまでは来られない。自転車で来た者だけの特権かも知れない。

秋風の戦場ケ原

 午前10時48分、想定より1時間ほど早く山王峠の頂上へ到着。後は下るだけ。ミズナラの何とも美しい並木を抜けた先は日光の戦場ケ原。秋風が吹き渡る草原の先に男体山がくっきりとそびえていた。午前11時50分、竜頭の滝の上流に到着。道路わきにカメラを構えた人だかりができていた。竜頭の滝は流れ落ちる前の眺めも味わい深い。

 正午、中禅寺湖に到着。かわいらしい看板娘の笑顔に吸い寄せられ、小さなそば屋に入って午後の行程を組み立てなおす。何しろ予報では間もなく荒天になる。

 当初の計画では、日光から群馬県側へ右折し、超ローカル線であるわたらせ渓谷鉄道沿いに桐生まで(日光から60km前後)を走り、途中の水沼で駅構内にある温泉に立ち寄るつもりだった。しかしにわかに雲行きが怪しくなった空を眺め、急きょ20kmほど先の日光駅から電車に乗ることとした。

いろは坂で車を抜く

 午後12時44分、華厳の滝に到着。ここはいつ来ても観光客でにぎやかだ。滝を駐車場から眺めただけで先を急ぐ。

 下りのいろは坂は渋滞にはならないまでも車の数は多かった。チョモ君はのろのろ進む車やバスのわきをすいすいと抜いて、あっという間に見えなくなった。小心者の私でも数台の車を抜いてしまった。というより、それくらい車は混んでいてゆっくりしか進めなかったということ。

 午後2時半、東照宮門前にある重要文化財の金谷ホテルに到着。2階のカフェでコーヒーブレーク。みごとな建物だ。調度も雰囲気もレトロで、大きな窓のガラスも、近代建築のそれと違い少し歪んで見える。昔のガラスで味わい深い。土産に名物の塩羊羹を1棹求めザックに入れる。

予定変更が正解

 日光からはJRと東武鉄道が出ている。ともに本数は少ない。先に発車する午後3時過ぎの東武鉄道に乗車すべく自転車を袋に詰めだしたら雨が降ってきた。行程変更したのは正解だった。栗橋駅で東武からJRに乗り換えた。

 都内を抜ける車窓から小雨の様子が見えたが、横須賀駅に着いたら土砂降り。自宅まで10分ほど走る間にずぶぬれになった。この日の走行は51km。3日とも走行距離は少なかったが、毎日必ず峠越えがあり。手ごたえがあった。(次回は12月21日掲載予定)

プロフィール

三浦 壮介(みうら そうすけ)
 50歳に手が届くころから始めた自転車遊び。居住する湘南をふらりと流したり古い街道を走ったりして楽しんでいるが、このところ輪行で秘湯や味わい深い温泉を訪ねることがマイブーム。でも向かい風とのぼり坂はあまり好きでない。
 「自分の一生で今が一番若い。今できることを今やろう」、が最近の信条。自転車は敷居は低いが奥行きは深い。気ままに楽しんで気分転換。元マスコミ勤務の176cm、1946年生まれ。目指すは“定年の達人”。

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