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2011年12月6日
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ダイビング旅日記etc

岩手へボランティア、津波被害の三陸でがれき撤去【番外編】

文と写真:越智 隆治

写真:ワカメに塩を絡めるミキサーを引き上げる拡大ワカメに塩を絡めるミキサーを引き上げる

写真:ホタテ養殖用の網を引き上げると、砂泥が一緒に海中に巻き上がった拡大ホタテ養殖用の網を引き上げると、砂泥が一緒に海中に巻き上がった

写真:海中作業によって、浮遊物の舞う海中でけなげに卵を守り続けるアイナメのオス拡大海中作業によって、浮遊物の舞う海中でけなげに卵を守り続けるアイナメのオス

写真:金色の宝石のように美しいアイナメの卵拡大金色の宝石のように美しいアイナメの卵

写真:今回、がれき撤去作業に参加したダイバーたち。後列右から3人目がくまちゃんこと、佐藤寛志さん拡大今回、がれき撤去作業に参加したダイバーたち。後列右から3人目がくまちゃんこと、佐藤寛志さん

写真:海中に張られた土台のロープに、ワカメの種の付いた糸を巻き付ける作業を行う拡大海中に張られた土台のロープに、ワカメの種の付いた糸を巻き付ける作業を行う

写真:「良い感じで種が成長してるぞ」とうれしそうにワカメの種を引き上げる漁師さん
拡大「良い感じで種が成長してるぞ」とうれしそうにワカメの種を引き上げる漁師さん

 震災から8カ月が過ぎた。先日、5月に岩手の海中がれき撤去作業を手伝うボランティア作業に参加して以来、2度目のボランティアに参加してきた。今回作業を行ったのは、大船渡市三陸町越喜来(おきらい)の甫嶺(ほれい)・鬼沢漁港。

 この地域では、震災後発足した、NPO法人・三陸ボランティアダイバーズが、地元漁業関係者と協力して、津波後かなり早い時期から、ボランティアを熱望するダイバーを受け入れて、海中がれき撤去作業を継続して行っている。地元漁業関係者との協力体制もしっかり取れていて、他の被災エリアに先駆けて作業の効果は明白に現れている。

 しかしながら、撤去作業の範囲は広く、多くのボランティアダイバーががれきを引き揚げたとしても、海底には作業を必要とする場所はまだまだたくさんあるようだ。今回潜った甫嶺・鬼沢漁港でも、これまでに何回も作業が行われたと聞いていたが、この日も大量のがれきが海中から引き揚げられた。砂泥地の多い海中では、がれきにロープを結びつけて、船に引き揚げる作業を続ければ続けるほど、砂泥が巻き上がり、視界が阻まれる。目の前にいるダイバーでさえ、見えなくなることも。

 前回訪れた時には、作業の状況を撮影することで精いっぱいだったが、今回は作業の合間にこの海中で生きる生物たちにも注目する時間があった。海中には、大きなウニやアワビが岩礁のあちこちに張り付いているのが目についた。アイナメという魚は、オスが卵を守るのだそうだが、この時期このアイナメのオスが単独で産みつけられた卵を守り続けるシーンが目についた。卵のアップシーンは驚くほど美しい。ほかにも、時折見かけるキヌバリや、タケギンポなど北の海に住む魚たちの姿に一時、心癒やされながらの作業が続いた。

 このがれき撤去作業を震災後から継続して続けているNPO法人、三陸ボランティアダイバーズの代表理事、佐藤寛志さんは、130kgの立派な体格から、「くまちゃん」の愛称で親しまれ、多くのボランティアダイバーからの信頼を集めている。彼と話しているときに印象に残っている言葉が、「人が動かなければ、何も始まらない」。信念とも取れるその言葉の通り、彼は自ら動き続けることで、多くのダイバー、そして地元漁業関係者からの共感と信頼を集め、先頭に立ってこの作業を続けている。「できれば、地元のためにも、良いニュースを」とのくまちゃんの願いを受けて、何かないかと探した。

 震災前には、この地域の河川で彼は遡上(そじょう)してくるサケを観察する「サーモンスイム」を行って、興味のあるダイバーを受け入れたりしていたが、今年ははたしてサケが戻ってくるか不安を感じでいたようだが、ボランティアの人たちと協力してがれきを撤去した川には、今年もサケたちが戻って来ている姿を見ることができた。「それでも、数は例年より少ないです」と話すが、来年はもっと多くのサケたちが戻り、震災前のようなサーモンスイムが復活できることを期待したい。

 今回の作業期間中に、越喜来漁協では、震災後初めてワカメの種植えが行われた。同漁協では、ホタテの養殖が有名だが、今回の津波で甫嶺・鬼沢漁港だけで養殖用の網約50万個が海に流された。今回の撤去作業でも多くの網が引き揚げられた(同漁協には、崎浜、泊、浦浜、そして甫嶺・鬼沢と4つの漁港がある)。

同漁協理事の佐川富廣さんによると「ホタテは収穫できるようになるまでに3年はかかる。でも、ワカメであれば、今種植えして、来年の3月には収穫できるから、まずはすぐに収入を得られるワカメから始める」。他の漁協が沖で養殖を行うのに対して、こちらでは比較的内湾で行われる。「内湾の方が柔らかくて腰があるワカメができるんだよ」と佐川さん。

 快晴の日、湾内に張られた着床用のロープ216台、合計30246mに、ワカメの種の着いたヒモを巻き付ける作業が行われた。この作業は数日間かけて行われる。「なんだ、撮影するんだったら、言っといてくれれば、ヒゲ剃ってきたのによ〜」とうれしそうに笑顔を見せてくれた漁師さん。1月には間引き作業が行われ、3月中旬にはおいしいワカメの収穫が予定されている。

 ボランティア作業はくまちゃんが、タイのダイビングサービスの手伝いに出かける12月末から1月中旬までの間は受け入れを行わない予定だが、来年も継続して活動は続けていく予定だ。ボランティア参加を希望される方、支援をして頂ける方は、三陸ボランティアダイバーズのHPよりお問い合わせ下さい。

【お知らせ】

 今夏、写真展「海獣たちとにらめっこ」を開催して頂いたリコーのRING CUBEにおいて、「Secret2011〜心で感じる写真展〜」が今月12月14日(木曜日)から、12月25日(日)(11:00〜20:00、火曜日休館、最終日は15:00まで)まで開催されます。

 この企画は、「心眼を極める」をテーマとして毎年開催している写真展で、今年で3回目になります。作品を出展する写真家の名前は公開するものの、どれが誰の作品かはわからないように、無記名での展示となっています。先入観を捨てて、写真と真剣に対峙(たいじ)し、心で感じてもらいたいという開催するRING CUBEからのメッセージをこめた写真展となっています。

 また,今回、この作品はチャリティーとして販売し、売り上げは東日本大震災の復興に役立てていただけるように、全額寄付されます。

 今回この企画に賛同した47名の写真家の作品(各作家1点)が展示されます。作品の販売価格は一律15,000円を予定しています。各作品1点のみ販売、作品に購入希望者が複数の場合は抽選で決定。作品のエディション・サインはなし。

■出展作家:(敬称略、順不同)

大門正明、大門美奈、亀井隆司、白井里実、宮本武、モモセヒロコ、大和田良、五島健司、武井伸吾、丹地保堯、テラウチマサト、楢橋朝子、ハスイモトヒコ、森山大道、村山長、鈴木知之、田中長徳、上田義彦、越智隆治、海野和男、安達ロベルト、ハービー・山口、那和秀峻、小澤太一、渡部さとる、阿部秀之、湊和雄、Ryu Itsuki、布川秀男、湯沢英治、塩澤一洋、織作峰子、タナカ”rip”トモノリ、清水哲朗、前川貴行、菅原一剛、糸崎公朗、岡嶋和幸、茂手木秀行、曽根陽一、柴田文子、高橋紘一、RYAN CHAN、長山一樹、前田こずえ、森健人、山本顕史

表紙画像

海からの手紙

著者:越智 隆治

出版社:青菁社フォトグラフィックシリーズ 価格:¥ 1,680

表紙画像

クジラ! 大写真集

著者:越智 隆治

出版社:二見書房 価格:¥ 2,835

プロフィール

越智 隆治(おち・たかじ)

水中写真家 (株)United Oceans 代表。65年、神奈川県生まれ、千葉県浦安市在住。98年に新聞社写真記者から独立後、国内外のダイビング雑誌で活動。主にイルカやクジラ、アシカなどの大型の海洋ほ乳類をテーマに、世界各国の海で撮影を行っている。05年より、アンダーウォーターウエッブマガジン、WEB-LUE主催。個人のHP、INTO THE BLUEでは、海洋ほ乳類などと泳ぐ、スペシャルトリップを企画。ミクロネシア、ヤップ州観光局日本PR担当。特定非営利活動法人OWS理事。著書多数

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