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2012年9月18日
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楽園をさがして

夢のパノラマ列車に乗って ノルウェー編〈2〉

文と写真:江藤 詩文

写真:旅の起点となったベルゲン駅。日光を取り込むドーム型の天井と白い壁が明るく開放的な印象。色とりどりの花が植えられています。これからこの列車に乗り込みます!拡大旅の起点となったベルゲン駅。日光を取り込むドーム型の天井と白い壁が明るく開放的な印象。色とりどりの花が植えられています。これからこの列車に乗り込みます!

写真:フィヨルド・クルーズやフロム鉄道がお目当ての観光客が多く利用するヴォス駅。バス乗り場は駅の目の前。列車の到着とバスの出発時間が接続していて、個人旅行でも移動しやすい拡大フィヨルド・クルーズやフロム鉄道がお目当ての観光客が多く利用するヴォス駅。バス乗り場は駅の目の前。列車の到着とバスの出発時間が接続していて、個人旅行でも移動しやすい

写真:カーブするたび大きく揺れるバスのなかで必死に撮影したネーロイ峡谷。眼下の眺めに思わず息を呑みました。ここに向かって飛び降りたら、さぞ気持ちよいことでしょう拡大カーブするたび大きく揺れるバスのなかで必死に撮影したネーロイ峡谷。眼下の眺めに思わず息を呑みました。ここに向かって飛び降りたら、さぞ気持ちよいことでしょう

写真:クールで無骨なフロム鉄道。車両内は、天井も壁も木の質感を生かした素朴で温かみのあるデザインです。席は全席自由。窓は一部しか開かないので、開くタイプの窓の席が狙いめ拡大クールで無骨なフロム鉄道。車両内は、天井も壁も木の質感を生かした素朴で温かみのあるデザインです。席は全席自由。窓は一部しか開かないので、開くタイプの窓の席が狙いめ

写真:高低差860メートルを進むフロム鉄道は、山岳鉄道の傑作といわれます。大きなザックを持った登山客や、自転車でツーリングする人など、アクティブな旅行者たちが乗り合わせていました拡大高低差860メートルを進むフロム鉄道は、山岳鉄道の傑作といわれます。大きなザックを持った登山客や、自転車でツーリングする人など、アクティブな旅行者たちが乗り合わせていました

写真:途中にあるショースの滝の展望台で5分ほど停車し、下車して楽しむ時間が設けられています。この日は水量が多く水しぶきがすごい! 季節により停車しないこともあるそう拡大途中にあるショースの滝の展望台で5分ほど停車し、下車して楽しむ時間が設けられています。この日は水量が多く水しぶきがすごい! 季節により停車しないこともあるそう

写真:カールスバーグを飲みながらぼうっと眺めていた風景はこんな感じ。鏡のような水面に映る山肌がまた味わい深いものです。このしみじみした喜び、子どもにはわかんないだろうな……拡大カールスバーグを飲みながらぼうっと眺めていた風景はこんな感じ。鏡のような水面に映る山肌がまた味わい深いものです。このしみじみした喜び、子どもにはわかんないだろうな……

 うわわわぁっ、フィヨルドだぁ……!

 午後1時10分。ノルウェー国鉄(NSB)ベルゲン急行ミュールダール行きは、ベルゲン駅2番線を発車ベルの音もなくいきなり出発しました。10分も経たないうちに町並みが途絶え、窓の外には雄大な風景が広がります。

 列車はここから、フィヨルドに沿って走ります。この路線は、トンネルが多いことでも有名。トンネルを抜けると、鈍い灰色の空を背景にそびえる威厳に満ちた山々と、銀色に冷たく輝く静かな海が視界いっぱいに広がり、再びブラックアウトしたと思ったら、今度は海岸線ぎりぎりに小さな集落が現れる。暗転するたびに次々と新しい眺めが展開し、鼻の頭をガラスに押し当てて、夢中で見入ってしまいました。

 午後2時30分。定刻より5分遅れて目的地に着きました。さすが眺望が自慢のノルウェーの鉄道。ほうっとため息がこぼれましたが、実はまだほんの序の口。大パノラマ・ルートの入り口にやって来たに過ぎなかったのです。

ついに憧れの山岳鉄道に乗車!

 到着したのはVOSS(ヴォス)という小さな駅。流行りものに敏感な方ならピンと来るのではないでしょうか。有名なシンガーなど海外セレブが愛用したことで日本でも人気が出た、高級ミネラルウォーターのブランド名になった小さな村です(ちなみに採水地ではありません)。

 ヴォスからはバスに乗り換え、山を越えて進みます。繰り返しますが、フィヨルドというのは急峻な山々と峡湾が入り組んだ入り江です。なだらかに下るだけのスペースがないため、日光のいろは坂もびっくりのヘアピンカーブが続くのです。

 いくら線路があるとはいえ、車体をはみ出し気味に曲がるたび、眼下に開けたネーロイ峡谷に吸い込まれてしまいそうで、乗客からは声にならない悲鳴が上がります。けれども運転手は慣れたもの。携帯電話でおしゃべりしながら、片手運転という離れ業を見せつけます。

 毎年夏には、この峡谷の上までヘリコプターで上がり、パラシュートを背負って崖から飛び降りるベースジャンプが行われるそう。極限の体験をちょっと味わってみたいような……。

 約1時間のスリリングなドライブを経て、グドヴァンゲンという町に到着。ここからフロムまで約2時間のフィヨルド・クルーズは、前回ご報告しました。

 さて、海上のハイライトがクルーズなら、陸上のそれは、世界的に名高い登山鉄道です。私はこの「フロム鉄道」に乗りたくて、わざわざノルウェーまで来たようなもの。20年がかりの工事の末、1940年に全線が開通したというフロム鉄道は、フロムからミュールダールまでの約20キロを、1時間かけてゆっくり進みます。

 列車を牽引しているのは、深いモスグリーンに彩られた、がっしりと骨太なドイツ製機関車。「バスから見下ろした、あんな崖を今度は列車で登るんだよな」。そう思うと頼もしく見えてきます。

 列車は、ときには崩れかけた崖をぎりぎりすり抜け、ときには線路横からすぐに落ち込んだ谷底を見下ろし、曲がりくねった線路をたどり、けわしい勾配を着実に登っていきます。トンネルは全部で20カ所。そのうちヴァトナハルセントンネルでは、トンネルの中で180度のカーブを曲がります。右に左に見どころばかりで、かたときも座席に落ち着くことはありませんでした。

車窓にもの思う列車の旅

 後ろ髪を引かれる思いでフロム鉄道を下車し、ミュールダールからノルウェーの首都オスロへ向かうベルゲン急行に乗り継ぎます。窓に向かってシートを配した食堂車が居心地よく、ビールを飲みながら、雪を頂く氷河を眺めました。

 4時間30分を超える列車の旅も、いよいよ終わりが近づいてきました。下車するのが名残惜しく、先頭からすべての車両を見て回ることにします。最後尾の一両は家族連れ専用車で、一部がガラス張りの子ども部屋になっていました。やわらかいクッションの積み木で遊んでいたのは、薄いブルーの瞳にくるくる巻き毛の金髪をした、天使みたいにかわいい5歳の男の子。目が合うと「ハロー」と恥ずかしげに微笑んでくれます。

「美しい山や湖を見た? すばらしい景色だったね」と話しかけてみると「何にもなくて飽きちゃった。ゲームを持ってきたのに、ママがやっちゃダメって言うんだ」。……。そっか、そうだよね。そういえば私も、うんと若いころは今のように、車窓を流れる景観に目をやりながらもの思いにひたる、なんてことはとんとなかったのでした。

 年齢や経験を重ねると、旅して見えるものが違ってくる。これからは、どんな旅が私を待っているのでしょう。さぁ、次はデンマークへ。ひとつの旅の終わりは、新しい旅の始まりです。

ノルウェー乗り継ぎ旅の周遊券

 フィヨルド観光に適した周遊券「ノルウェー イン ナットシェル」を利用しました。ベルゲンからヴォスまでの鉄道、ヴォスからグドヴァンゲンまでのバス、グドヴァンゲンからフロムまでのフェリー、フロムからミュールダールまでの鉄道、ミュールダールからオスロまでの鉄道がすべて含まれて1430ノルウェークローネ(約19735円)。

(取材協力:スカンジナビア航空スカンジナビア政府観光局

プロフィール

江藤 詩文(えとう・しふみ)
旅とお酒と食文化を愛するフリーライター。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。慌ただしい日常の中、心のどこかでふと思いをはせるだけで気持ちが和む「楽園」を探す「楽園ハンター」として、世界のどこかから幸せな気分になれるあれこれをお届けします。
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