感染症の起こらない世界を目指して。コロナ禍が私に教えてくれたこと
新興国などの医療保健体制の構築支援を政府に訴える団体「Health for all .jp」を立ち上げた早大3年の茶山美鈴さん。その思いをつづってもらいました。

新興国などの医療保健体制の構築支援を政府に訴える団体「Health for all .jp」を立ち上げた早大3年の茶山美鈴さん。その思いをつづってもらいました。
2020年3月1日、卒業式を迎える高校3年生として私たちは校内の講堂に集まっていました。ステージには大きな松の木と校章が刺繍(ししゅう)された旗。校内全体がお祝いムードでした。しかし、晴れ舞台のはずである卒業式は違和感に包まれたものでした。
全員白マスク着用、保護者の出席は一家庭に1人まで、式典短縮のために卒業証書の授与は学年で1人だけ。
2020年の年明けに新型コロナウイルスの1人目の感染者が日本で初めて確認されると、国内で水際対策、行動制限などが始まりました。都市部を中心とした感染爆発、医療機関の人材と病床の逼迫(ひっぱく)などの事態が次々と起こり、日本全体が混沌(こんとん)に包まれていました。
医療先進国の日本で、誰が予想できたでしょうか。当時高校3年生の私には、日本でなぜこのようなことが起こるのか何一つ理解できませんでした。
卒業式だけでなく、大学生活にも大きな影響がありました。福岡に住む私は行動制限で上京することができず、授業は全てオンライン。友達を作ることも、サークルに入ることもできず、まさに「コロナで世界が一変した」経験でした。
この経験から学んだことは、国外で起きていることはひとごとではなくなっているということです。
医療が発達し、衛生状況も世界でトップを誇るこの日本でも、感染症の大流行はあり得る。モビリティーが発達し、経済のグローバル化が著しく進む今、モノとヒトの国境移動を完全に止めることは不可能です。つまり、新興国など遠い異国の地であっても、感染症がひとたび発生してしまえば、水際対策をどんなに万全にしても、結局いつかは自国に入ってきてしまうのです。
だから、そもそも感染症が起こらない、また既存の感染症に打ち勝つことのできるような強固で持続的な保健医療体制の構築を、自国のみでなく世界全体として目指すための支援を行うこと。それこそが、この時代で大事なこと、そして先進国としての責務なのではないかと考えたのです。
そうして、この理念に共感する同世代の学生と、医療の脆弱(ぜいじゃく)な地域における医療保健体制の構築の支援を政府に訴える団体を立ち上げ、活動を始めました。
高校時代から政策提言に携わった経験があることもあり、政府に声を上げることに迷いはありませんでした。
Z世代を中心として立ち上がった政策提言団体「Health for all .jp」の活動の目的は、以下の二つです。
①「強固で持続的な保健医療体制の構築」を実現するために、日本が行うべき「グローバルヘルス政策」を政府に向けて提言
②「グローバルヘルス」という概念(保健医療体制構築・感染症政策)の重要性の浸透
「強固で持続的な保健医療体制」とは、新種の感染症が起こらないような良好な保健衛生状況、感染症が発生したとしても自国で抑え込めるような研究機関、医療機関・物資・人材の整備を指します。このような体制の構築は、特に新興国などの地域で必要とされています。
そのために、
・日本のODAにおいて、現在出資額がほかのG7各国に比べ少額である保健・医療分野の出資額を上げること
・ODAの内容として、既存の感染症の撲滅と衛生状況の向上を目指し新興国の援助を行う「Global Fund」や「GPEI」などの機関に投資を行うこと
・医療施設、人材が不足する新興国地域において日本のヘルスケア事業の進出を支援する。また、彼らと協働して医療のDX化などを支援し、医療従事者と過疎地域に住む人々をつなげること。
――などを盛り込んだ提言を、政府に提出しました。
また、ほかにも「グローバルヘルス」という概念を浸透させるため、「朝日地球会議2022」などのイベントに登壇したり、SNSや講演会、テレビ番組などで情報発信したりしています。
高校時代から政策提言に携わってきたZ世代のひとりとして、政策決定者に期待すること。それは、「長期的に社会に利益をもたらす政策決定」を行っていただきたいということです。
私たちの提言は、新興国地域の医療保健体制の整備を行うことを重点としています。このような新興国に対する支援は、「日本に利益がもたらされない投資」と受け止められることがあります。私は全くそうは思いません。
エイズ、結核、マラリアという三大感染症による死者は、いまも世界で年間250万人存在します。感染者のほとんどが新興国地域に在住していると考えられています。にもかかわらず、アフリカでは人口1千人あたりの医師の数が1人、または1人未満の地域がいまだにあります。
今回の新型コロナの感染拡大でもわかるように、国外の感染症であっても自国の経済や生命に容易にダメージを与える時代になっています。そして、既存の感染症の感染拡大、新種の感染症の出現が起こりやすいのは、上記のような保健衛生状況が芳しくない新興国地域であることが多い。自国の長期的な経済発展を実現するためには、感染症危機に対処する基盤を作る意味合いで、新興国などの医療保健体制の脆弱な地域に対し投資を行う。それは、長期的な利益かつ「地球益」にもつながると思います。
先進国である日本の責務として、これから長く日本と世界を背負う私たち若年層の未来を見据えて、現在の足元の経済発展だけでなく、長期的な利益をもたらす投資政策を慎重に見定め、決定してもらいたいです。
〈ちゃやま・みれい〉
グローバルヘルス政策に関する提言を行うシンクタンク団体『Health for all.jp』代表。2001年生まれ。早稲田大学法学部に在学中。政治家と有権者をつなぐサービスを提供する「PoliPoli」のメンバーとして、政治家の政策推進のサポートを行う。幼稚園、小学校では台湾のインターナショナルスクールに通い、帰国後に受けたカルチャーショックから政治に興味をもつ。高校時代に「市長模擬選挙」を開催する学生団体「福岡UC」の代表を務めた経験から、国際インフラ整備に関する政策を福岡財務支局と作成。2019年に福岡で開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議にて政策提言スピーチを麻生太郎財務相(当時)をはじめ、各国大臣に行った。政策立案コンテストを運営する学生団体「GEIL」に所属。現在国際法・国際協力分野のゼミに在籍、専攻として研究中。