現在位置:asahi.com>中国特集>増田明美の熱視線> 記事

増田明美の熱視線

国とスポーツ

2007年10月04日

 ようやく日本も…という感じである。

写真

2001年にオープンした国立スポーツ科学センター。アテネ五輪の成功にも大きく貢献した=国立スポーツ科学センター提供

 8月22日、遠藤利明文部科学副大臣(当時)が設けた私的諮問機関「スポーツ振興に関する懇談会」で、これから国家戦略としてスポーツに力を注ぐ提言をした。

 主な内容は〈1〉スポーツ省の設立とスポーツ大臣の配置〈2〉当面の目標として1000億円をスポーツの育成に投資し、将来的には国家予算の1%(8000億円)の投資を目標とする〈3〉ナショナルトレーニングセンターの活用と機能の充実など、画期的な内容だ。

 五輪のメダル獲得へ向けて国が責任を持って取り組む構えに、私は大賛成である。

五輪ではないが、先日の世界陸上、世界柔道、世界レスリングでも、メダルを獲得した土佐礼子さんや谷亮子さん、伊調姉妹などの活躍にどれだけ多くの人が元気づけられたことだろう。試合のその日、いやその一瞬のために、選手たちが体で紡いだ時間を想い、積み上げた努力が実を結んだ時の喜びを共に味わえる。スポーツの価値は高いと思う。

 以前、日本サッカー協会・元会長の岡野俊一郎さんの話を聞く機会に恵まれた。岡野さんは「スポーツの普及と競技力向上の関係で、普通は裾野を広げて山を高くする、と考えられている。しかし、トップ選手が金メダルを取り、頂上が爆発して、流れ出た溶岩で裾野が広がる、ということもあるんだ」と。メダリスト達の活躍は、子供たちの体力向上や健康のための生涯スポーツにもつながっているとも言える。

 そんな折しも、国立スポーツ科学センター(東京都北区)を見学に。これまでも会議などで訪れたことはあったが、ゆっくりと施設を見るのは初めてだった。低酸素ルームや五輪会場と同じ機器が揃った体操競技場、北島康介選手がフォームを研究するために泳いだというガラスケースの流水プール、栄養士が常駐する食堂など、ひとつひとつ充実した施設に驚いた。2001年にオープンしたこの施設は2004年のアテネ五輪の成功に大きく貢献した。

 ただ、センター長の笠原一也さんの話によると「競技種目によって利用度に差がある」という。この日はシンクロナイズドスイミングの日本代表チームが合宿中だった。よく利用するのはシンクロとレスリングで、三カ月くらい合宿することもあるようだ。また、笠原さんは「種目毎に専用施設があるわけでなく、共用なので、種目によっては順番待ちも少なくない」と話す。

 その課題を克服するために、来年の1月には隣接地に建設中の“ナショナルトレーニングセンター”が全面稼動し、競技毎の専用施設が充実する。宿舎も250室用意されるそうだ。アテネ五輪の成功により、小泉首相(当時)が「北京五輪に間に合わせよう」と尽力して予定よりもかなり早く完成したのは有名な話。

 私は今年春に先行して完成した陸上の400メートルトラックに行ってみた。走るレーンに屋根がついており、雨の日も変わらず練習できる。また、トラックの外側には様々な種類の傾斜走路があり、上り下りを利用してスピードアップやパワーアップに活用される。でも、それほど利用されていないというから残念だ。

 陸上競技はチームスポーツなどと比べ、施設を利用することができる“五輪強化指定選手”が集まって合宿する必然性は低いと考えられている。特に長距離選手においては駅伝もあり、実業団毎にチームで高地合宿などを行っている。

 ただ、実業団で活躍する選手たちも、例えばケガをしてリハビリに専念したい時や、競技力の向上に最先端のスポーツ科学の力を利用したいと思うこともあるだろう。ここには充実した施設に加え、スポーツ医・科学の研究者や栄養士などの、専門家も多く在籍し、選手たちに対するバックアップ体制は万全である。実業団の枠を越えて、競技者個人でここを自由に活用できる環境も必要だと思う。そのためには指導者や所属チームの理解が大切になるだろう。

 国の代表として世界の舞台で活躍する選手たちに、国が支援をする。スポーツの力にはそれだけの価値があると信じている。


顔写真

増田 明美(ますだ・あけみ) スポーツジャーナリスト

 1964年、千葉県生まれ。成田高校在学中、長距離種目で次々に日本記録を樹立する。1984年のロス五輪に出場。1992年に引退するまでの13年間に日本最高記録12回、世界最高記録2回更新という記録を残す。現在はスポーツジャーナリストとして多方面で活躍中。2006年にはタイ・プーケットでマラソン大会を開催し、スポーツによる国際交流にも注力。大阪芸術大学教授、文部科学省中央教育審議会委員、新健康フロンティア戦略賢人会議委員なども務める。

公式サイトは「増田明美's Home page」 http://www.akemi-masuda.jp/別ウインドウで開きます

asahicom書籍紹介

このページのトップに戻る